第十六話 心配の後に
「はい、早く入って!」
「いや!ちょっと待ってください!!!なんで一緒に入らないといけないんですか!!!」
俺は今、人生の分岐点に立たされている気がする。
悪魔による怪我や魔術による怪我は普通の医療では完治が難しい。その治療のプロ、医療チームリーダーこと保健室の先生、千都世雪乃(ちとせゆきの)。医者である。そしてここは医療棟、良薬湯。つまり温泉である。
「ちょっと!!」
「いいから!黙って医者の言う事聞く!」
投げ飛ばされ半ば無理やり一緒に温泉に浸かることになった。勿論、先生は服を着てます。と言っても医者の格好としては不適切な服装だけど…白衣、ワイシャツ、タイトスカート、タイツ、ハイヒール…ケシカランデスネ。
話を戻し、このような状況になったのには訳があった。
千都世先生曰く、「私の体からは人を癒す効能みたいなものが出てる。だから一緒に温泉に浸かる事で自然治癒力を高めるの。あんたみたいな重症患者はこれが一番いいの。早く戻りたかったら言うとおりにしなさい」らしい。
「っても…なんで俺は裸なんだよ!!!」
「いいじゃない。減るもんじゃないし」
「いや減りますけど!心が擦り切れますけど!!」
「うるさいわね、あんたの服ボロボロだったじゃない。そ!れ!に!私と入れてるんだから感謝はされても文句言われる筋合いないわよ」
「うわ…自己肯定感高っ…」
「大体ね、私のタイプはもっと大人の男よ!日々の仕事で疲れ切って目が死んでるヤニカスな男性とかもう大好物!」
(あ、この人…関わっちゃダメなタイプの人だ…ん?待てよ…疲れ切って目が死んでる先生…??どっかで見た事聞いた事ある気がする…)
「それより、もう上がっていいですか?そろそろ逆上せそうなんですけど…」
「ダメに決まってるでしょ?まだ治って、嘘…」
千都世先生は俺の体をじっくりと観察しだした。火傷で爛れていた右半身、肩から無くなっていた右腕、その他擦り傷や打撲と言ったあらゆる傷が完治していた。
実際、温泉に浸かった俺も驚いた。俺の異能と先生の異能は相性が良かったのか傷の治りが異常に速かった。
(温泉に入ると同時に治癒が始まったとしてもここまで短時間で完治なんてしない)
「せ…」
(それにこの子右腕が無かったのよ?死んでてもおかしくない傷でもピンピン動けててこと自体もおかしいのに…)
「先生?」
「あ、ごめん。完治おめでと。それよりも傷の治りが早いのは異能のおかげ?」
「そんなと…なんで悪魔がここに居るんですか?」
お風呂から上がりふと横を見た時、明らかに人ではない者がいた。巧妙に姿を隠蔽してはいるが、魔力の流れが人間のそれとは違った。
「彼も治療に来てるからだよ」
「悪魔です…」
「安心していいよ。彼は魔術師に召喚された悪魔だ。いや、召喚に応えた悪魔と言うべきか。彼は望んで主従制約を受け入れた。危害を加えることは無いよ」
「だけど悪魔です!」
声を荒げてしまった。悪魔を見ると感情的になる癖を直さないと…
俺は「すみません」と謝罪した。
「そうだね…彼は悪魔だ。だけど、彼には帰る場所があり、待ってくれている人がいる…いや、それらしい言葉を並べるのはやめようか。君はそんな勝手のいい言葉は望んでなさそうだしね」
先生は一つため息をこぼし、話してくれた。
「私も悪魔は憎いし、嫌いで殺したいと思っている。でもな、私は医者だ。相手が誰であろうと、どんな罪を犯していようと、殺したいほど憎くても、悪魔でも、治さなければならない。私たち医者は生かす事が仕事だから。それを見失うことは絶対にしてはいけない。そうでなければ大事な時に大切なものを失うから…神様も意地悪だよね」
「神様なんていませんよ…」(ボソッ)
「なんか言ったー?」
「いえ別に」
先生の言葉を全て汲み取ることはできない。俺はまだ人としてまだ未成熟で、子供だから。だからと言って俺は考える事を放棄したりはしない。そう心に思った。
その後、先生から「行ってよし」のサインを貰い俺は早々に医療棟を後にした。あ、服はお借りしました。
「おかえりなさい」
「え、あ、ただいまです」
寮に帰り着いた時には0時を回っていた。時間も時間だった事から出迎えられるなんて思ってなかった俺は少々面食らっていた。
「おかえり〜」
「…おかえり」
「ただいま…ってかまだ起きてたの?」
「こっちは心配で寝れないわよ…あんな怪我…てか傷なんてありませんでしたってくらい完治してるし。ほんと心配して損した」
「な〜俺の事も心配してぇや。この擦り傷とかゴッツ痛かったんやぞ」
「いや、あんたほぼ無傷だったじゃん。直撃だったのに…」
「いやいや、木の枝とか頭に突き刺さってんで?アフロになってしもてな?」
ナハハハと笑う律につられ俺も笑ってしまった。不覚…
「はぁ…無事ならいい。おやすみ」
「おやすみ」
階段を上がる藤波さんを見送り俺はリビングの椅子に腰掛ける。すると護藤さんが暖かいお茶を持って俺の向かいに座った。
「はい、これ」
「ありがとうございます」ズズ…
「あんな冷たいけどな、あれでごっつ心配しとったで」
「うん、分かってる」
藤波さんも律も護藤さんも俺の事を心配して起きててくれたんだとそう感じる事ができる。
「実習で疲れたでしょ?もう寝なさい」
「「はい(ー)」」
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1週間後、合同実習が無事終わり、生徒が学園へと帰還した。俺と律、藤波さんは報告書をまとめ終わり、先生の部屋まで来ていた。
この学園は職員室のようなものはないらしく、先生別に個室が設けられている。
コンコンコン
部屋からの返事を聞き扉を開ける。
「失礼します。実習の報告書を…え?」
「え?」「は?」
俺と律、藤波さん全員が同じ反応をした。部屋に入ると先生の他に先客が居たから。ただの先客ではない。実習の時、俺たちを助けた長刀を持つ青眼白髪の彼女だ。
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