第七話 これから
あの出来事から数日が経過したようだ。あれから俺は寧々は担ぎ下山、要請をしておいた救助隊に寧々を引き渡し倒れ、意識を失っていたらしい。
起きた時には知らない天井。隣には丸椅子に腰掛け腕を組み眠っている鹿目さん。
「ここは…?」
「お、起きたか。どうだ調子は?」
「俺のことはいいです。寧々は!?それに…彪雅はどうなったんですか…?」
「お前の友達、女の子の方は生きてはいる…男の子の方は首が斬り落とされた状態で発見された」
「っ…ぐ…」
「様子を見に行く。行くか?」
「…はい」
そうだ。あの時、俺が彪雅の首を斬ったんだ。
寧々の病室へと向かい中に入る。ベッドの上に座る彼女が目に入り声をかける。
「寧々!」
彼女はこちらに気づかないのか見向きもしない。声を発さない、表情も変わらない。ただベッドに座って前を見ている。
「頭を強く打った事で植物状態になったようだ。生きてはいる。自発的に呼吸はできるし、回復する可能性もゼロじゃない。だが脳の構造は今でも未知数で治療法はない」
鹿目さんの言った言葉の意味が今やっと分かった。「生きてはいる」言葉通り生きてはいるんだ。
「どうして…俺はこんなにも無力なんだ。あの時、もう少し対処できてれば!あの時俺がー」
バコッ!
右頬に衝撃を受け病室の扉を突き破り廊下に飛ばされた。悲鳴が聞こえる。
「お前、今何言おうとした?」
「…」
目を逸らす。それを許さない鹿目は病衣の襟首を捕み強制的に目を合わせる。
「自分が死ねばいいなんて口にするな!犠牲になった仲間を見て自暴自棄になるのは分かる。だがな!楽になろうとして、自分を虐げれば犠牲になった仲間に対しての冒涜だ!それは死んでもするんじゃねぇ!」
「…じゃあ!どうすりゃいいんだよ!!!」
鹿目を突き飛ばし、廊下を走った。鹿目から逃げるように。彼の目を見た。強い目をしていた。
「あの野郎…」
煙草を咥え火をつけようとライターを胸ポケットから取り出したが取り上げられた。
「鹿目さぁん、院内での喫煙はご遠慮くださぁい。ちゃんと喫煙スペースがあるんですから。あと扉の修理費は後ほど請求しますね?」
昔馴染みの看護師。喋り方に少々癖があるが腕の良い看護師である事に間違いはない。そして鹿目が大変お世話になった人でもあるため、おじさんになった今でも頭は上がらない。
「あ、スゥ…はい。すんません」
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病院の屋上、一般開放されているのは珍しいが、今の俺はそんなことを考える余裕なんてなかった。
何のために悪魔を殺す?二度と爺さん達のような人を出さない為。人を殺させない為。
「殺してちゃ意味ないだろ…」
“人殺し”頭の中でその言葉が反芻する。
「どうすれば良かったんだよ…」
「どうもできねぇーよ。お前のその気持ちは」
俺を追いかけてきたんだろう。鹿目さんが入り口に立っていた。
「俺のようになるな、なんて言っておきながら世話ないな。結局同じような道を辿らせちまった…」
そうだ。この人も俺と一緒なんだ。親友を殺してしまった。
「鹿目さんは…どうやって乗り越えたんですか?」
「あ?乗り越えてねぇーよ。今も振り返ったら居るんじゃねぇのか、って考える」
鹿目さんが時々悲しそうな表情をする意味、本当の気持ちを今初めて知った。
「だけどな、それは後ろを向いてていい理由にはならない。「いつまで後ろを向いてんだ!」って、あいつに怒られるからな。それとこれは忘れるな。お前がその子の生涯を絶ったんじゃねぇ」
空を向く。風を感じる。冬の空はまだ寒く鼻の奥が痛い。
「お前が未来に連れてくんだよ。その子の意思を。それが俺たちにできる“生きる”って事だ」
鹿目さんの言っていることはまだよく分からない。でもその言葉を聞いて、少しだけ胸の支えが取れたように感じた。
「でもまだよく分かりません…」
「いつか分かる時が来る。生きてさえいれば…」
「はい…」
「あのぅこの子が…いきなりぃ…」
声のする方へ振り向くと地面を這いずる寧々の姿が見えた。後ろには看護師さんが着いている。
「寧々動けるのか!?どうした!?ん?何か持ってる…?」
彼女に近づき抱き起こしながら彼女が両手で抱える袋を見る。
「その刀は、俺がお前に渡そうとした奴!どうしてその子が…?」
「この子がぁ、刀を持ってベッドから這い出てしまいましてぇ…」
「…」
相変わらず喋らないが、伝えたいことが分かる気がする。彼女はその刀の入った袋を俺に突き出す。
「俺にこの刀を届けた…?鹿目さんこの刀は?」
「瀞さんから預かった。お前が生まれた時、一緒に置かれていたらしい」
「鹿目さん…俺…」
迷っていた。また苦しい思いをするくらいなら普通の生活に戻りたいって。でも、背中を押された。3人に。鹿目さん、彪雅、そして寧々。
「戦います」
これからの未来で同じような悲劇を産まない為に。
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