第3話 なんか生きてた。そして進化


 ……眠い。めちゃくちゃ眠い。

 徹夜した時くらい眠い。寝ていたい……暖かい部屋で……

 僕の腕の中にはハチミツを頭から被った熊さんのぬいぐるみが……

 

 ……ん?ハチミツ被った熊さん……??


「っ!!!」


 僕は飛び起きた。

 え、い、生きてる?マジで?

 見逃してくれたのか……?

 あっ

 

 僕の真横には既に息絶えた熊さんが倒れていた。

 ギリギリで倒せたのか……なんてご都合主義だ。

 はぁー生きてて良かった。


 それにしても……なんか体が軽いような……?あぁレベルアップ。


 でもなんか気持ち悪い。体調がおかしい。


 なんか、ふらつく…… 

 これは……脱水か。滝のように汗を流したからな。

 水分補給しなければ脱水症状を起こすのも当然……


 てかマジで死ぬって。

 これやばいって。近くに水は無いし……


 僕は熊さんの死体に目を向ける。

 

 ……血でもいけるか??

 一応液体だし……魔物になったからお腹壊すことも無いだろうし。


 い、いくしかねぇ!!


 僕は熊さんの死体を齧り、肉を抉る。

 そしてそこから滴る血を手に溜めて一気に飲み干した。


 ……血だけでいくとあんま美味しくないな。

 

ドクンッ


 何だ??

 心臓が跳ねるように鼓動した。


『条件:【レベルMAX、血液の渇望】を満たしました。これより特殊進化を開始します』


 え、なにこれ……

 某スライムに転生しちゃう作品の世界の言葉的なやつか!?

 何か興奮してきたな。


 てか特殊進化?

 あれかな、普通の進化先と違うみたいなもんか??

 条件がちょっと不安だけど……まあ強くなれるならいっか。

 ばっちこーい!!


 その瞬間、猛烈な痛みが、全身を襲った。


「っ!?!?!?!?!?!?」


 なんだ、この痛みは……っ!!

 体の構造を変えられている。骨が、臓器が、作り変えられる。

 痛い。痛すぎる。


 意識を保ってられな───


 僕は再び意識を失った。





 痛い……皮膚を焼かれるような痛みだ。

 さっきまでは内側から作り変えられたけど今度は外側か?

 いやでも、なんか焦げてる匂いするんですけど?

 え、めちゃくちゃ嫌な予感がするんですけど!? 


 僕は目を開く。

 僕の目に映ったのは……燃えている手だ。しかも自分の。


「うわあああああ!!!」


 熱い!痛い!!!

 け、消さないと!!


「ふー、ふー、ふー」


 僕は息をふーふーさせたが、意味無し。

 当たり前だバカ。ボケてる場合ちゃうで。


「ふんふんふん!!」


 日陰に入り、燃えてる手をぶん回して、地面に叩きつけたりすると火は消えた。


『陽光耐性を獲得しました』


 お?またこの声だ。

 そして陽光耐性?なぜに今。

 いや、燃えてたけど。てかなんで燃えてたんだ?


 陽光耐性を獲得したってことは太陽の光が原因で燃えたってことだろ?

 僕の火が消えたのも日陰に入ったおかげみたいだし。


 お?おおお??


 赤く爛れてた皮膚が回復していく。

 再生能力?これも進化の影響か?

 どんな種族になったんだ?


 ……もう何となく感づいてるけどさ、ステータス確認するか。

 開けステータス。



名前:ヴァル  種族:ヴァンパイア  レベル:1


HP:110

力:80

防御:70

魔力:340

魔防:240

敏捷:230

持久力:90


スキル

『逃げ足Ⅴ(MAX)』『闇魔法Ⅲ』『血液魔法Ⅰ』『魔力感知』『超回復』『陽光耐性』


状態:呪い 


称号

『イレギュラー』『世界樹の寵愛を受けし者』



 うむ、やはりヴァンパイア……吸血鬼か。

  

 てかなんか名前付いてない?どゆこと??

 ヴァルって誰が考えたの??


『上位種族への進化に伴い、世界に認められたため、【世界樹ユグドラシル】が名を与えました』


 へーそういうシステムなんだ。

 てか世界樹か。あるんだなこの世界に。ちょっと見てみたいかも。

 てかさ、君はだれ?


 僕のスキルに質問に答えてくれるようなものは無いんだけど。


『この声はこの世界の上位種族のみに聞こえるものです。しかし、全ての上位種族に聞こえる訳では無く、人の心を持つ……イレギュラーや魔物に転生した転生者のみとなっています』


 つまり人の心を持つ上位種族のみに聞こえる声ってことだな?


『だからそう言っています』


 因みにこの会話は他の聞こえる魔物達に聴こえているのか?


『いいえ。この声は各上位種族に一つずつ配られます。この声は貴方の中にありますので、聴こえていません』


 そうか。なら良い。

 それにしても上位種族1人につき一つか。この声を聞けるものはどんくらいいるんだ??


『世界に10人程です』


 すっくな!?

 え、なんでそんな少ないん?


『イレギュラーは他の魔物よりも弱いのです。同種であってもステータスに差があります。身を寄せ合って暮らしても他の魔物に蹂躙されます。しかし、進化してしまえば別です』


 ……えーとつまり、ノーマルゴブリンとイレギュラー人間ゴブリンが戦ったらイレギュラーがボッコボコにされるってことでオケ?


『はい。しかし弱体化は肉体が人間の心を所有するために無理やり力を削り、心の器を強引に作るのが原因のため、身体構造と心の器を人の心と合わせたものに一から作り変えてしまえば、弱体化は起こりません』


 なるほどね。じゃあ今の僕と同じヴァンパイアと戦っても実力は同じってことだね。


『そういうことです』


 そうか。それなら安心だな。

 とりあえず質問はもう良いな。


 なぜこの声を与えるのか、とか心の器ってなんぞやって疑問はまだあるけど正直そこら辺はどうでも良いからな。聞いても分からんし。


 スキルを確認してくか。



血液魔法:血を作り出し、操ることが出来る魔法。レベルⅠでは血液を作ったり、出血した血液を操ることが可能。


魔力感知:魔力を感知出来るスキル。


超回復:HPを回復することが出来るスキル。四肢の欠損も簡単に治る。このスキルにはレベルが存在しない。


陽光耐性:太陽の光に対する耐性。人間だと日焼けにならない程度の恩恵だが、ヴァンパイアには昼も出歩けるので喉から手が出るほど欲しい耐性。


 

 新しく取得したスキルはこの四つか。

 その中で特に気になるのは『血液魔法』だ。めっちゃ吸血鬼っぽい。

 これは後で試してみよう。

 

 『魔力感知』は異世界モノでもよく出てくるスキルだな。

 これで魔物の探知が簡単になる。


 『超回復』の効果は実証済みだ。

 さっき燃えてた腕が治ったからな。

 『陽光耐性』も同じく。


 次は称号だな。



世界樹の寵愛を受けし者:世界樹、ユグドラシルから名と声を与えられた者が持つ称号。



 まあそのまんまだな。

 効果は無いようだ。称号って言ったらなんか凄い効果とかあると思ったんだけどな。まあ無いものを悔やんでもしょうがない。


 とりあえず『血液魔法』を試したいから魔物を探してみるか。


 僕は『魔力感知』を発動させながら、森を歩き始めた。


 

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