第一章 1

 阿鼻叫喚の地獄が、繰り広げられていた。

 男たちは惨殺され、女は子供から老女に到るまで等しく犯された。村は燃え、家畜が逃げ惑い、田畑は焼き払われた。空は赤く、また燃える大地も赤かった。

 村という村、街という街のすべての土地から、魔導師を追い出せ。魔導師の本当の名を聞き出し、奪い、魔道を使う者たちはすべて殺すのだ。

 帝ラーズバルズはそうお触れを出し、自らも赴いて殺戮に次ぐ殺戮を行った。その残虐さたるや、さながら地獄の獄卒が罪人を弄んで死に至らしめるそれすら彷彿とさせた。  魔導師たちは姿を隠し、魔道を使うことはいつの間にか禁じられた。

 その日もある地方へやってきたラーズバルズは女たちを片っ端から犯し、男たちを殺し、家に火をつけ家畜を奪う所業に明け暮れていた。

 すると、燃える畑を茫然と見ていた白い髪の女が、今しも馬に乗らんとしている彼をつかまえてこう言った。

「おお、呪われし男、災厄の下僕よ。帝の帝たる職務を忘れ、虐殺に興じ無辜の人々を惨殺する無法者よ。お前の業はいつしかお前の首を縊り、見るも無残な死を迎える日のための序曲となろう」

 ごうごうと燃え盛る家々を背に、老女は不吉にそう叫んだ。帝はさきほど自分が犯してやった女の一人と見て、不敵な笑みを漏らした。

「負け犬の遠吠えというやつ。魔導師たちは死に絶えいずれ滅びるであろう。その日のために準備をしておくがいい、それとももう一度犯されたいか」

 老女は怯みもせずに叫び返した。

「この村の魔導師は私だ。お前は罪もない村人を殺し、女たちを犯し、子供までをも手にかけた。これは呪いだ。お前の魔導師狩りは続くだろう。しかしいつしか生き残った魔導師が必ずやお前をその手にかけ、魔導師の不遇の時代は終焉を告げる。お前はその日を怯え暮らして待つしかない生活を強いられ、狂うことも許されずに最期の時を迎えるだろう」

「なにを……」

 帝を帝とも思わぬその言葉に怒ったラーズバルズは、腰の剣に手をかけた。しかし、老女は恐ろしい雄叫びを上げると自ら油を頭からかぶり、燃え盛る家のなかに入って行って果てた。兵士たちが唖然としてそれを見送り、帝はふんと鼻で嗤って騎乗した。

「放っておけ。老人の戯言だ」

 そして撤退を言い渡すと、自分は部下たちを引き連れて悠々と帰って行った。

 自分が狩っていたはずの魔導師から呪いをかけられたことまでは、ついに気がつかなかった。

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