Imitation Stella

終りが来るなんて、きっと去年の私には想像もつかなかっただろうな。


カーテンを締め切った部屋。机の上にはスリープにならないように設定したPCと幾枚かの手紙。それから連絡をして欲しい人のリスト、各種暗証番号。


生きていればなんとかなるっていうけどさ、生きているからつらいことだって山程あるんじゃないかな。


どこかの誰かの正論に反論するくらいは、まだ頭は働く。


私はたぶん、流れ星のようにきれいに消えることはできない。じっとりした場所で徐々に腐り落ちていくに違いない。


ああ、きれいにいきたかったな。


数ヶ月前、恋人が死んだ。言葉は何も残してくれなかった。


数週間前、犬が死んだ。最期まで手足をばたつかせて、駆け抜けていった。


数日前、好きなアーティストが死んだ。あの子と出会うきっかけになった人は、大きく輝いてから逝った。


今の私にはもうなにもない。


あの子の葬儀のとき、お母さんが気遣ってくれたのを思い出す。アンリちゃん、友達としてありがとうね、と。


そっか。でも表向きは友達に見えるように立ち回っていたし、今更それにどうこういうものでもない。終わったのだから。


なんだっけ、こういう気持ちの歌があったな。二人を繋いでた絆、解け、日常に消えてくって、これか。


あの子は私のこと、最後まで好きでいてくれたのかな。私が原因の大喧嘩をして、数週間別れて、それっきりになった。


そう。悪いのは私。平穏で温かな世界を壊してしまったのは私。あの子を、ミユをいかせてしまったのも、きっと私。


二人でもっといろんなところに行きたかった。二人でもっといろんなことをしたかった。ぎゅって抱きしめ合いたかった。


部屋は静寂に包まれている。


スマホに保存されている写真は、もう見ないことにした。今更思い出を貪ったところで、何にもなりはしない。


悲しむ人が一人もいなければ、いなければいいのに。そんな歌をいくつか知っている。そうだね。世界中から憎まれればシンプルなんだけど。さよならを言う相手がいなければいいのに。


でも私だって少なからず憎まれていた。この小さな世界を壊してしまったのだから。


また鳴き声が聞こえる。幻聴。何日か前から死んだ犬の鳴き声が聞こえるようになった。キミはあんなに生を全うしたじゃん。私のとこなんかこなくていいんだよ。


人の気持ちを変えることはできない。それはしてはいけない。なぜなら暴力だから。その人自身を否定することだから。


私たちにできるのは、受け止め、対話し、お互いがお互いを知ろうとするプロセスの中で歩み寄っていくことだけ。そうだったよね。


ミユ。私は、きちんと謝れなかった私は、罰を受けなくちゃいけない。あなたの命を賭した主張に、私は応えなくてはいけない。


PCのブラウザは開いたままにする。これを見た人が私の状態を理解するヒントになるから。


私は繋がりの中で生きていたかった。私はあなたのいない世界なんていらない。全部、全部私のせい。本当にごめんなさい。


袖でごしごしと涙を拭く。今更泣いてなんになる。


傷つけてばかりの私を、それでも好きだと言ってくれてありがとう。たとえそれが遠い思い出だったとしても。あなたはこんな私のこと嫌いになっちゃったんだろうけど、私は今でもあなたが好き。


ああ、きれいにいきたかったなあ。流れ星みたいにぱっと光って消えたかったな。


ああ、きれいにいきたかったなあ。自分も他人も傷つけないで、生きていきたかったなあ。


もう遅い。すべて終わってしまった。あとは私だけ。


私が終わればもう苦しくない。つらくない。最後まで自分勝手な私を許してほしい。


流星にも超新星にもなれない私は、穢れた肉体を持って朽ちていく。


たくさん飲み下した。ゴーサインはもう出ている。


どうか誰も助けてくれませんように。


行く先はわからない。


ばいばい。


ごめんね。

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