第1話 ただの日常

 私立東雲高校、部活動が盛んで周辺地域でもそこそこ有名な学校。俺がこの高校に入ってから一ヶ月が経過した。

俺の席はラノベ主人公の代名詞でもある窓際…ではなく中心から若干廊下側の場所。だが特に不便はないし、なんてったって親友の近くだから割と当たりに思っている。


「なにボケーってしてんだ。早く飯食おうぜ。」


 噂をすれば来た。こいつが小学生の頃からの親友である吉永櫂馬だ。こいつとは小中高で同じ学校に通っていてよく助けられている。


「わかったから、今行くよ。」


 そんなことを言って弁当を持ち別クラスに行く。


「遅せーじゃねーかお前ら、早く来い。」

「うっせえ、声のボリュームを下げろ早く。」


 今うるさかったやつが高校で新しく出来た友人の一人である浅並崚太。その陽太郎に愚痴を言っているのが同じく友人になった凌木荒戸である。


「悪い、遅くなった。あとお前はうるさい。」


 そう、俺たちは基本この四人で集まって昼食を食べている。何よりこの四人で馬鹿みたいな話をしている時間が今の俺にとって最高に楽しいのだ。


 そうしてたわいもない話をして盛り上がってきたタイミングで、


「なあなあ、ところで好きな子いる?」

 

 突如として荒戸が俺たちに尋ねて来て、俺たちは飲んでた水筒の中身を吹き出しそうになった。


「おい。大丈夫か?」

「急すぎて死にかけたわ。」

「いきなりすぎてビビったわ。」

「お前本当に突拍子もないよな。」


 突然ぶっ込んできたくせに心配してきた荒戸にそう返す。そうだこの凌木荒戸はこの四人の中で唯一彼女がいるんだ。


「いや、俺も最近彼女が出来たぞ。」


 訂正。どうやら吉永も彼女がいたようだ。てか親友の俺に一言もなかったんだが?


「ていうか吉永はまだしも何で荒戸に彼女が出来んだよ。」


 俺が疑問に思うと崚太が口にする、


「顔はそれなりに良いし、女子には良い顔するからだろ。」


「「それだ。」」

 そう、この荒戸は女子には優しく、顔も良い。おまけにバスケ部に入りすぐにベンチ入りを決めた人間だ。ちなみにこの東雲高校のバスケ部は全国出場レベルであり、毎年良い成績を残している。


「俺も彼女を作りたいけどな。」


 そう言う崚太を俺たちは笑う。

 

「お前に彼女が出来るとか、天変地異が起きてもありえん。」


 この浅並崚太という男は水泳部に所属しており、筋肉があり、勉強もそれなりにできる。顔も悪くないはずなのだが、何故かモテない。多分女子たちはこいつの本性を本能的に察知しているのだろう。何たってこいつは女子や関わりのない人には猫を被っているが、口を開けば規制音が入りそうな単語しか話さないような男だ。


「奏人は彼女欲しくないのか?」


 荒戸からの問いに言葉が詰まる。

 ああ、思い出したくない記憶も思い出す。そんな状況を察したのか吉永が


「こいつじゃ彼女よりゲーム優先してすぐ別れるだろ。」と冗談混じりに話を終わらせる。

(すまん、助かった。)

そう思い吉永の方を見ると、

(気にすんな)と言わんばかりの笑顔を向けて来る。本当にこいつには助けてられ過ぎている。


「そういや彼女で思い出したけどウチのキャプテンが告白して撃沈してたわ。」  


 と突然荒戸が言う。というかこいつが彼女の話し始めたのに。


「お前のキャプテンって言うとバスケ部のイケメン先輩?」

「そうそう、あの先輩がフラれるとなると、もう彼女と付き合える奴はいないだろ。」

「もしかして告白の相手ってあの冬咲さん?」

「そうだよあの美人さんよ。」


 冬咲彩華、この高校でダントツの可愛さを持つ女子、いつもクラスの中心にいる、いわゆる陽キャだ。さらには、才色兼備とも呼ばれるほど学業の方も優秀で、人柄も良い、そしておしとやか、そんな人なので惚れる男子が多いらしく、告白したて振られたという話が絶えない。


「今度俺も告ってみるか。」

と無謀で無意味な挑戦をしようとする浅並に


「冬咲さんの時間の無駄になるからやめて差し上げろ。」

と一言でだけ言って、昼食を食べ終わる。


「お前すごい失礼だよな!」

モテない男の嘆きが聞こえてくるが多分これは幻聴だろう。

 

「奏人と吉永は冬咲さんと同じクラスだろ。何かないのか?」


 そんな言葉を吐く荒戸に


「何かあったらもう既に噂になってるだろ。」

と言い返す。そもそもあっちは学校内、さらには他校にも噂が広まっているくらいの美人。かたや特に目立つ事なのない陰キャ。関わりがあるはずがないし、これから出来るはずもない。


「お前、顔は良いのに勿体無いな。」

そう言って吉永は俺の前髪を上げる。

「すまん、俺そういう趣味はないから。」

「別にそうじゃねえよ! てか俺彼女いるんだわ!」

そんな吉永のツッコミに冷ややかな視線を送りながら皆んなで笑う。こんな穏やかな日を続けられたらな。そう思っていた。


当時の俺はこんなにも早くに関わりが出来るとは微塵も思っていなかった。

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