二つの力を兼ね合わせた剣とは
「なるほど、ミラさんの鱗によって剣を……」
「……出来そうかな?」
「やれますよ。ですが私の伝手に頼ることとします」
ホームに戻ってすぐ、ミラの鱗を師匠に見せて説明した。
やはり俺も懸念していた通り、この世界のどんな素材よりも一次元越えた代物であるため、ただの鍛冶屋に持って行って剣を製造するのはあまりにも考えなしだ。
そのため、こうして師匠に相談した。
「ふむ……そんなに大事になりそうか?」
「なりますとも。この鱗一枚あれば、防具にも転換出来るでしょう。属性魔法を軽く跳ねのけるほどの耐性もそうですし、それこそ貴族がどんなものさえ捨ててでも得たいと願う至宝に近いです」
ミラだけはその価値をちゃんと理解していなかったが、師匠がこう言うのであればやはり相談しておいて良かった。
「ミナトとミラさんが望むのであれば、これはしっかりと私の頼れる伝手の手で剣を製作しましょう。ですが、くれぐれも剣の素材や製造法に関しては他言しない方が良いでしょうね」
「分かった」
「うむ、私も心得ておこう」
頷くと、師匠は笑顔を浮かべて近付いてくる。
そのまま突然俺の頭を撫でたかと思えば、ギュッと抱きしめて頬ずりをしてくる。
「いい子ですよミナト」
「……あの?」
こ、これはもしや……漏れ出る母性というやつ!?
「わ、わあっ!!」
「これはこれは……変わったものだなマスターも」
傍で見ていたサリアさんとジャックさんもこの通りだ。
俺と師匠が特別な関係になったことは、まだ伏せている……というのもやはりミラのことでいっぱいいっぱいなのもあるし、ギルドマスターの師匠の影響力は大きく……というか、師匠は外でドラゴンライダーと親密な関係ということなっているのも黙っている理由だ。
(まあこの二人は俺がドラゴンライダーって知ってるけどさ)
だからその内、彼らには話をすると思う。
ただ……それが分かっているはずの師匠なのに、これって絶対すぐに知らせると面白くないから後になって驚かせようって魂胆だろ絶対に。
「それにいつの間にか、ミナト君もマスターに対して口調が軽くなっていますよね」
「あぁそれは俺も思っていたが」
「ふふっ♪ ミナトと私の間に壁などありませんからね♪」
師匠……マジでご機嫌だ。
そんな風に俺を含め、この場に居る全ての人が和やかな空気を楽しんでいると、バタンと大きな音を立てて彼女が……ベルナがやってきた。
「外で耳を澄ませて聴かせてもらったわ! ミナト、私の鱗もあなたの剣に混ぜなさいよ!」
「え?」
ベルナは腕を龍化させ、そこからプチプチと鱗を剥ぐ。
ミラの白銀の鱗も綺麗だが、彼女の青色の鱗も凄く綺麗だ。
「まあ良いんじゃないか? 二体のドラゴンの鱗で作られる剣……私も興味はあるぞ」
「……ベルナ、良いの?」
「もちろんよ。というかもう鱗は剥いじゃったし、あげる以外の選択肢はないってね」
ということで、ベルナの鱗まで加わってしまった。
ボソッとミラがああ言ってくれたことだし、ここはベルナの厚意も受け取ることにしようか。
「それじゃあ師匠、後は任せて大丈夫?」
「良いですよ。ミナトとミラさんはこれからまた外へ?」
実はこれからミラと外食の予定だ。
ギルドで食べられる料理も凄く美味しいけれど、師匠の誕生日を除けば特に買い物もしてなかったので、金もかなり余ってる。
ミラはもちろん、ベルナにも何かお返しをしないとな。
「ミナトとお姉さまはどこかへ行くの?」
「食事だ。ベルナも来るか?」
「行くわ!」
あ、ベルナも来るのは良いんだ……まあミラが誘ったのなら俺が何かを言うこともない。
ホームを出てすぐ、ベルナと向き合う。
「ありがとうベルナ、鱗のこと」
「良いのよ。あなたの力になれたなら」
……ほんと、最初の出会いから想像出来ないくらいに打ち解けたな。
ただベルナの身に起きた変化というか、その心の動きも分かっているので何とも気恥ずかしい。
「しかし、私とベルナの鱗を混ぜた剣か……果たしてどのようなものが仕上がるのか興味がある。私からしても楽しみだ」
「そうね……万物を破壊するお姉さまの特性と、全てを凍り付かせる私の特性……想像出来ないわ」
ちょっと待て……万物の破壊って何?
結局、そのことを聞けるわけもなく……俺たち三人は多くの視線を集めながらレストランへと向かうのだった。
王都でも時々、貴族が足を運ぶ美味しいと評判のレストランだが、俺やミラよりもベルナが一番テンションを上げていた。
「おいしぃ!」
運ばれてくる料理全てを胃の中に収めていく彼女に、レストランのスタッフは大層驚いていたが、あまりにも良い表情で食べてくれるからとより一層腕を振るってくれていた。
「ご馳走様でした」
「美味かったな」
「美味しかった!」
そうして料理を済ませてホームに戻る中、テイムした魔獣を引き連れたテイマーの一団が通り過ぎていく。
「三日後のテイマー頂上決戦……みんなで頑張ろうね!」
「俺たちの誰が当たっても文句なし、正々堂々と戦おうぜ!」
彼らの言葉に、魔獣もやる気に満ち溢れた返事をしている。
「何の話?」
「あぁ、テイマー頂上決戦って大会だよ」
俺も雑誌くらいでしか知らないが、サタンナという街で行われるテイマーたちの大会……その名の通り、テイマーがテイムした魔獣を戦わせて勝敗を競わせる大会だ。
「そんなのがあるんだな」
「だなぁ……ってどうしたベルナ」
何かを考え付いたのか、ふむふむと頷くベルナ。
「ねえミナト、私たちも出ない?」
「え?」
「ミナトが私の主で、私がミナトの使い魔であるドラゴンとして出場するのよ! 絶対に勝てるし賞金がっぽがぽじゃない!?」
「それは……」
確かに絶対勝てるだろうけれど、ドラゴンで出場は流石にマズいというかこれまた大騒ぎになるぞ。
提案したベルナは乗り気じゃない俺を見て落ち込んだものの、こればかりは仕方のないことなんだ。
「ベルナ、確かにそれも面白いかもしれないけど……この大会はテイマーたちが使い魔との絆を示す大会でもある。俺とベルナの間に絆がないとは言わないけど、流石にね」
「……ごめんなさい。考えなしだったわ」
でもと、俺はミラと頷き合った。
「見学くらいは行ってみても良いかもしれないな……俺もサタンナには行ったことがないし、冒険者としての活動を休んで行ってみるか」
見学というか観戦だな。
これもまた一つ社会見学であり旅行みたいなものということで、ミラもベルナも是非行きたいと頷いてくれるのだった。
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