第1章
第4話 それはちょっと認められそうにない
入院してから十日ほどが経過して俺はようやく退院する事が出来た。これから久しぶりの登校をするわけだが二週間も休んでいないはずなのにめちゃくちゃ久しぶりな気がする。
「授業大丈夫かな……」
俺の通う
ただでさえ成績が元々真ん中より下という事を考えると二週間近く学校を休むのはかなり危険だ。下手したら赤点コースかもしれない。
そんな事を考えながら通学路を歩いていると、近くのカフェから見覚えのある二人組が出てくる。手には飲み物の入ったプラスチックカップを持っていたため、多分通学前に寄り道していたのだろう。
「あっ、涼也君だ。おはよう」
「涼也、おはよう」
「剣城さん達、おはよう」
そう挨拶した俺だったが二人はあからさまに不満そうな表情を浮かべる。
「だから私と里緒奈の事は呼び捨てで大丈夫って言ったじゃん」
「涼也には挨拶のやり直しを要求する」
「ごめんごめん、玲緒奈と里緒奈おはよう。これで満足か?」
「うん、許してあげる」
「私もお姉ちゃんも満足した」
玲緒奈と里緒奈はそう声を上げた。二人は初めて面会に来てくれた日以降も毎日来てくれていたため今では結構親しい仲になっている。
だから玲緒奈は俺の事を”涼也君”、里緒奈は”涼也”と呼ぶようにもなった。俺も二人から呼び捨てで呼んで欲しいと言われていたが慣れないことや恥ずかしさもあってまだ抵抗がある。
本音を言えば女子を下の名前、それも呼び捨てで呼ぶ事にはかなりの抵抗があった。だがどうしてもそう呼んで欲しいと二人から頼まれて断れなかったのだ。
「てか、朝から通学路で二人に遭遇した事って今までは一回も無かったと思うんだけど今日はどうしたんだ?」
「ああ、朝からステラバックスの新作が飲みたくなって里緒奈と寄り道してたんだよ」
「それで珍しくこんな時間までここにいる」
なるほど、基本的にいつもギリギリで学校に到着している俺とは違って玲緒奈と里緒奈は普段余裕を持って登校しているのだろう。だから今まで朝の通学路で二人に遭遇した事がなかったに違いない。
「そう言えば涼也君は今日から学校に復帰だったっけ、退院おめでとう」
「ありがとう、長期間休んでたせいでこれから色々と大変そうだからマジで憂鬱な気分になってる」
「確かに涼也が休んでた間に授業もだいぶ進んでる」
「そうなんだよ、だから七月にある期末テストが怖くて仕方がない」
立ち止まってそんな会話をしていた俺達三人だったが担任から職員室に呼び出されていた事を思い出す。あまり長話をし過ぎてしまうと約束に合わなくなってしまう可能性があるためそろそろ切り上げなければならない。
「……朝から担任に呼び出されてるし、俺は一足先に行くわ」
俺は玲緒奈と里緒奈にそう言い残して別れようとする。本当はこのまま一緒に学校へ行きたいところではあるが、スクールカーストトップでまさにメインキャラクターの二人とモブキャラBな俺が一緒に登校するのはまずい。
「そっか、じゃあ急がないとね」
「早く行こう」
どうやら玲緒奈と里緒奈は俺と一緒に登校する気満々らしい。流石にあれだけでは言葉足らずだったと反省した俺は改めて口を開く。
「一緒に登校すると周りから変な誤解されるかもしれないだろ? だから学校には別々に行ったほうが良いと思うんだよ」
「別に誤解されても大丈夫だよ」
「私達は全然気にしない、それとも涼也は嫌……?」
「い、嫌じゃないけど」
「それならなにも問題ないよね」
抵抗を試みた俺だが二人には勝てず首を縦に振るしかなかった。それから三人で学校へと向かい始める俺達だったが周りからの視線が凄まじいため落ち着かない。
それに対して玲緒奈と里緒奈は平然としていた。まあ、これだけ美少女なのだから視線は向けられ慣れているのだろう。
「涼也は久々の学校だと思うけど嬉しい?」
「うーん、あんまり嬉しくはないかな。授業とかもかなり進んでそうだし正直憂鬱な気持ちが強い、それにぼっちだから心配して待ってる人もいないしな」
玲緒奈や里緒奈が一週間休んでいて久々に登校したのであれば皆んなから熱烈に歓迎されるだろうが、クラスに友達がいない俺の場合は多分そう言えば休んでたなくらいの反応にしかならないに違いない。
「その辺は私と里緒奈がサポートしてあげるから心配しなくても大丈夫だよ」
「いやいや、それは間に合ってるから」
もしそれまで全く接点のなかった玲緒奈や里緒奈が学校やクラスなどで俺に絡むようになるとどう考えても悪目立ちしてしまう。そんな事を考えていると二人の様子がおかしい事に気付く。
「間に合ってるってどういう事、まさか私達以外の女の子に世話をさせる気?」
「それはちょっと認められそうにない」
「な、何で女の子なんて出てくるんだよ。そもそも同性の友達すらいないのに仲の良い女の子なんているわけないだろ」
上手く言葉に言い表せないプレッシャーを感じながら俺がそう口にすると、二人の体からスッと禍々しいオーラが消えた。
「そうだよね、この前まで連絡先に家族以外登録されていない涼也君にそんな女の子なんているはずないよね」
「確かに涼也はぼっちだからそんな心配をする必要はなかった」
「……さらっと俺のメンタルに大ダメージを与えてくるのは辞めてくれ」
言葉に出されると強制的に現実を直視させられめちゃくちゃ虚しい気持ちになってしまう。それからしばらく雑談をしながら歩いているうちに学校へと到着した。
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