第4話

   

「作り話……? 騙されているだと……? いったい何が言いたい!」

 叫びながらアノードは、右手の剣を振る。

 もちろん、まだ斬撃が届く距離ではなかった。だから魔王に対して斬り付けたわけではなく、ただ頭に浮かぶモヤモヤを振り払いたい気分で、それを行動に表したに過ぎない。

 彼の頭の中に浮かび始めたのは、いわば疑念。魔王の言葉なんて信じるつもりはないのに、それでも気になり始めたのだ。


「我らの故郷には『勝てば官軍』という言い回しがある。伝説や伝承、歴史書というものは、勝ったがわが自分たちに都合よく改竄した話だけを残していくのだ。おそらく……」

 語り始めた魔王の顔から、既にあざけりの色は消えていた。むしろ哀れむような表情になっている。

「……お前の話に出てきた『侵略者』というのは、我ら魔族を指し示しているのだろうて。しかし我らは、この世界に侵攻してきたわけではない。我らは元々、この世界で平和に暮らしていた先住民族。神々こそが、この世界に攻め込んできた侵略者だったのだ!」


 侵略者たる神々に蹂躙され、多くの魔族がその命を落とした。生き残った者たちはこの世界を捨て、新天地を求めて旅立っていく。

 そうして魔族を追い払った神々は、この世界を荒らすだけ荒らすと、それだけで満足したのだろうか。この世界には固執せず、神々も去っていく。

 ただし、この世界を放置もしなかった。代わりの住民として、神々のしもべたる者たちを残していった。

 それが現在「人間」と呼ばれる種族だという。


「この桜という木々も我ら魔族と同じく、先住の植物。神々が侵略してきた際、我ら魔族と一緒に駆逐され、その数を大きく減らしたのだ。だから……」

 魔王は改めて、桜の花に視線を向ける。その目には、深い悲しみの色が宿っていた。

「……神々が人間に与えたどころか、桜は我ら魔族と密接な繋がりを持ち、我ら魔族こそがでた花なのだ」

   

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