雨女と陽だまりのバス停

陽野 幸人

序章

序章

 私は、いつも一人だった。


 いや、一人になってしまったという方が正確かもしれない。

皆と同じように友達もいたし、関係性も良かった。

よく笑っている……どこにでもいる中学生だったと思う。


 中学二年生。

同級生の女の子が『また、雨だよ。本当にうんざりするよね。雨女がいるから』と、窓際の席に座っていた私に、嘲笑を含んだ冷たい視線を送ってきた。

周囲の生徒も彼女の言葉に対して、同意するように笑っている。

笑い声は、本心から生み出されているようにはおもえなかった。

ある種の敵意によって、自身が襲われないようにするための防衛手段。

その演技力は映画に出演する女優を思い起こさせる。


 彼女が私に投げかけた言葉は、どのような理由から生まれたのか……知る由もない。


 体育祭、文化祭、遠足、修学旅行。

屋外で催される行事や外の行動が含まれている活動は、高確率で無数の雨が降っていた。


 みんなに迷惑をかけている。


 あの日から、そう思い込むようになった。

言葉を心の中で反芻していると、自己暗示にも似た感覚になる。


『雨女』


 根拠も何もないはずなのに、その通りの人間であると思い始めた。

そんなことあるはずもないのに。

私の心に深く突き刺さった矢が抜けることはなかった。

残りの中学校生活は、他者との関係に躊躇していた私を何度も傷めつける。

孤立に包まれてしまって、まったく楽しくなかった。

寂しさが積み木のように重なって、誰かに突かれて崩れることもない。


 一人が生んだ、一つの言葉で、私は変わってしまった。

人と関わりを持てなくなった。

人と話すことが怖くなった。

人の視線が怖くなった。


 高校一年生。

家も学校でも一人だった私。

入学してから、初めての梅雨も終わりかけた頃だ。

バス停で思いがけない出会いをした。

湿気の多い梅雨の中にあっても、晴天の青さと陽光の温かさを漂わせている人。

初めてバス停で出会った時、その人は髪を少しばかり濡らして、私に対して微笑んでいた。

スーパーやコンビニでチョコレートの菓子を手に取るたびに、その人のことを思い出す。


『また……会いたい』と。


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