『完結保障』十彩の音を聴いてーAre you all set to go?ー

七兎参ゆき

第一章 フルカラーの欠片

一話 淡く感じる日常で

淡く感じる日常で Vol1

 ヤヴァイ! 急がなくちゃ! 

 すっきりと晴れたお天気の気持ち良い朝に、もつれかける脚にもどかしさを覚えながら、額に汗を滲ませ速足で徒歩十五分の最寄り駅へ急ぐあたし。


 どうしてこうなったかですって?

 聴きたいの?

 ナイショよ。なんてね。


 簡単な顛末はこんな感じ。

 今朝はいつもより少し早く目覚めて余裕をもって朝の支度をしてたのよ。

 洗顔してトーストとコーヒーで朝ご飯食べたらメイクして着替えて。

 ここまではスムーズだったの。

 寧ろ余裕で仕度も早く済んじゃって、中途半端な時間が出来て手持ち無沙汰になってしまったのよ。

 出勤前の朝にちょっと間で出来る事なんて殆んど無いしね。

 だからコーヒーをもう一杯って思ったのが間違いの元凶。

 リラックスしてたのも在り、コーヒーの良い薫りを愉しんでしまったの。

 時間も忘れて――


 それで気が付いたらいつもの時間を五分も過ぎてるんだから慌てたわ。

 誰の所為でも無くあたしの所為だから、自分の愚かさを呪うしか出来ないのだけど。

 それでもいつもより一本遅い電車に乗れそうだから、会社の始業時間に遅刻しないで済むわね。

 冷静に考えればいつもの電車から三本くらい遅くても間に合うのだけど、いつもより遅いって云うだけでプレッシャーになって急いてしまってるのだわ。

 あたしが安定の小市民って事をつくづく実感する……


 今日はクライアントさんと打ち合わせが入ってるから、シックな感じのスーツを着てるの。

 定番の濃いネイビースーツでネクタイも締めて中性的なコーデに。

 と思ったけど暑くなりそうだし上着も必要だから、クールビズに倣ってノーネクタイにインナーの白いブラウスをチョイスした上で足元は黒のローヒール。

 我ながら地味だと思うけど、地味過ぎて逆に目立ってしまう程じゃないどこにでも居る女くらいのポジションがあたしなの。


 それでも唯一の自慢は、お気に入りで愛用してる茶色い革のショルダーバックね。

 バックにはお土産に師匠から戴いた根付をストラップに括り付けたら、予想以上に上品で素敵なアクセサリーになったからより一層愛着が湧いて来たわ。


 道具なんだからしまったり飾ったりしないで使いなさいって云い付けをちゃんと守ってるのよ。

 お部屋の鍵でも良いかなと思ったけど、やっぱりキーホルダーとしては少し大きかったわね。

 結果的では在るものの、お気に入りバックにお気に入りのアクセが加わった事で、満足度は指数関数的に上昇して気分もグンと上がるの。

 そうねぇ……当社比三倍増しかな。


 サンバイマシッテ ドーユー コトヨ。 フツウ ワ パーセンテージ デショ。


 おはよう。クーデレさん。これで良いの。細かい事は気にしたら負けよ。


 駅のホームで電車を待つあたしはちょっとした違和感を覚えたわ。

 お知り合いでは無いけど、毎朝同じ電車に乗ってると大体同じ顔ぶれで、よく見掛ける人は何処の駅から乗って来るとか何となく解ってるじゃない。

 見慣れた人が誰も居ないホームはアウェーな感じって云えば良いかな?

 でも、これはこれで新鮮な気分にもなれるから、嫌と云う訳じゃ無いのよ。


 穏やかに吹き抜ける仄かに冷気を纏った風はとても気持ち好く、数分足らずだけど電車の待ち時間も苦にならないわ。

 これが雨の日だったり荒天の日はまるで逆になっちゃうけどね。


 あたしは昇降口の列に並び風と戯れて居ると、時刻表通りにホームへ滑り込んで来て前の人から順番に電車へ乗る。

 ギュウギュウの満員電車では無いけど混雑はしてるわ。

 これはいつもと大差なく、違う事と云えばドアのすぐ横に陣取った事くらいね。


 オルゴールが止み駅員さんの笛が鳴ってドアが閉まる。

 窓に薄っすら写る自分をボンヤリと眺めて想うのは一つだけ……

 師匠達の唖然とした顔が脳裏に焼き付いていて、今でもはっきり想い出せるわ。

 その原因は誰でもないあたしが涙を零したから。


 あれは大失敗だったわね。

 無事に自宅のお部屋に戻った事を知らせる為に彩華さんのスマホに連絡したら、その時に凄く心配されたもの。

 あの時は眼に塵が入ってそれで涙が流れちゃったって誤魔化したけど、きっと誤魔化されてくれて無いわね。

 嬉しさと寂しさが入り混じった、微妙なトーンの彩華さんの声がそれを物語っていたから。


 あれからもう十日経ったけど、まだ十日しか経って無いのよね。

 待ち遠しい時に限って、時間の流れはとても遅く感じる。

 あと何日よ。まだ半分にも満たないのだから暫くは先のお話し。


 『璃央ぉ~早く連絡して来ぉ~い』


 今日のお仕事が定時ごろに終わったら、紫音ちゃんと綾音ちゃんのお土産を探しに行こうかしら。

 色褪せちゃった日常に、何か愉しみを見つけないと頑張れないもの。

 あの夢みたいだった時間に浸る為にも、ヘアアクセと樹脂製のタンブラーを探しに行きましょ。


 幸いな事に、今日はクライアントさんとの打ち合わせが成功裏に済めば、お仕事の大半は終了のようなものだから残業しないで切り上げられる筈よ。

 ヘアアクセはいつも行くお店で素敵なのが見つかると思うわ。

 そうなると問題はタンブラーよね。

 気になって探した事がないから、どんなものが在るか見当も付かないし……お店だってそう。

 食器のお店や雑貨屋さんなら素敵なのが置いて在るのかな?

 先ずはリサーチする事からね。

 内緒だけど、お仕事の合間にコッソリ探しちゃいましょ。ふふふ。





―――――――――――――――――――――――――――

 ご覧戴きましてありがとう御座います。

 この作品は拙作「十彩の音を聴いて」シリーズの第二部となり全131ページ(内1ページはキャラクター紹介)で連載致します。

 完結話まで執筆済ですので、どうぞ最終ページまでご愛読下さいます様お願い申し上げます。


 前作の「十彩の音を聴いてーPower Switchー」をお読み戴いてない読者様にも愉しんで戴けますように編集及び改稿してます。

 ご既読戴いてます読者様にとりましては、重複するようなキャラクター詳細の描写も在りますが煩くならない程度に留めて居りますので、多少欠ける部分も在るかと思います。

 本作にご興味をお持ち戴けましたなら是非「十彩の音を聴いてーPower Switchー」本編もご愛読下さい。

 出来るだけ沢山の読者様のお眼に触れて貰えます様、作品フォローや評価を戴けると望外の慶びですので宜しくお願い致します。

 コメントやご感想等をお気軽にお寄せ下さいますと嬉しいです!

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