私を攫って
碧月 葉
フルーツジュース
「友達以上、恋人未満だって。二人はめっちゃ親友になれる相性だね」
ファミレスの一角。
私達は呪いをかけられた。
それは、イベントが始まるまでの待ち時間にSちゃんが提供した時間潰しの「心理テスト」だった。
『水、コーヒー、牛乳、お酒、お茶、フルーツジュース』
異性のサークルメンバーを飲み物に例える。
何を選んだかによって、本当は相手をどう思っているかが分かる、という単なるお遊びだ。
「お酒」ならHをしてみたい相手、「コーヒー」なら実は嫌いな相手……みたいな感じなので、私たちはその結果をゲラゲラ笑いながら聞いていた。
その時、私とT君はお互いを同じ飲み物に例えた。
『フルーツジュース』
明るく元気な彼は「なんか体に良さそう」なイメージ。
だからビタミンたっぷりな『フルーツジュース』がピッタリだと思った。
T君は、私好みの大人シャープな狐系の顔ではなくて、少年っぽさの残るたぬき系の顔。
ただ、人見知りの私が初めて会った時から自然と会話が弾んだ稀有な人で、一緒にいると兄弟のように居心地が良い、そんな相手だ。
恋愛感情は無いけれど、人として好きだったから、向こうも似たように感じくれていたのは嬉しかった。
当時の私は、ひとつの別れを経験した後で、それを消化しつつあり、新しい「恋」を探していた。
とはいえ、意識したからといって直ぐに「恋」が始まる訳でも無い。
出会った男の子を観察して、何人かを心の中の「お気に入り」フォルダに格納してみたけれど……恋に発展するような相手は現れなかった。
一方で、T君との友人関係は順調に進展していった。
話しやすいだけでなく、意外と趣味が合ったのだ。
食べることが好きで、料理を嗜み、ロックを聴いていて、スポーツも楽しめて……FFやドラクエのネタも通じる。
一緒にいると楽しくて話も弾み、2人で食事に出かけたり映画を見にいったりした。
フルーツジュースの関係は、確かに相性抜群。お互い栄養たっぷりで、色んな面に惹かれ合う。
けれど、そこに甘い雰囲気は全く無くて、あくまでも只の仲良し。
そう、とても気の合う友だちだ。
…………友だち?
ある日、私達の関係に「?」が生まれてしまった。
仲間とバスケを楽しむT君の弾ける笑顔を見て私は……
——ふふ、可愛いな
なんて思った。
あれ? 友だち??
いやいやいや、友だちでも可愛いくらい思うっしょ。
とも考えたけれど、胸が少しあったかくなった気が……これは、恋情なのか? それとも親愛の情なのか。
今までの恋のカタチとはちょっと違っていて分からない。
それに、もしこれが恋だとすると、非常に危険だ。
今、T君と私はとても心地の良い関係を築いているけれど、それは友情に基づくものだ。
もしもお互いの想いの方向がズレて、それが明らかになったなら……きっと元には戻せないだろう。
私の心は揺れていた。
そんな時だ。
別の学校のN君が私にアプローチをしてきた。
私を攫って 碧月 葉 @momobeko
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