勇者パーティーを追放された聖女を助けた。真の勇者は僕だったらしい

路紬

第1話 聖女、真の勇者と出会う【フローラ視点】

 本日は19時ころにもう1話更新予定です!

 

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「フローラ! お前は俺の勇者パーティーには必要ない!! 今日で追放だっ!」


 ある日の昼下がり。大きな仕事を目前にして、私——フローラはパーティーのリーダーにそう告げられてしまう。


「え……急に話があるからと聞いて来たのですが、ど、どうしてですか? わ、私何かをしましたか?」


「忘れたとは言わせんぞめ! 聖女を騙り、お前は俺をずっと騙してきたことはお見通しだ!!」


「そんなことはありませんっ! 私は正真正銘、神に選ばれた聖女として勇者パーティーの力になれるよう尽くして来たはずですっ!」


 私は神聖教会に選ばれた聖女だ。神託を受けて、聖女として勇者を支えるべく今まで活動してきた。


 その勇者が目の前にいるダンだ。


 この人は素行が横暴で野蛮、女と酒が好きで毎夜飲み歩いては勇者であることを自慢する。


 前々からずっと素行を改めるよう注意してきたが、ついに治ることはなかった。


「あらあら〜〜? 勇者様の言いなりになれない偽物が何か鳴いてますねぇ」


「あ、貴女は……ニーナ!? どうしてここに?」


「ニーナは今日からお前の代わりに入るだ。ニーナはいい。俺のためになんでもやってくれる。金だってくれるしな。ケチなお前と違って」


「そういうことなんですぅ。残念でしたねセンパイ。神は貴女のことを見放したそうですよ」


 ニーナ。桃色の髪が特徴的で、化粧が少しだけ濃い少女だ。


 神聖教会での私の初めての後輩であり、彼女もまた夜遊びが好きで、シスター達に隠れては夜な夜な街に繰り出していた。


 けど、世渡りは上手らしく、いつも笑顔を振りまいては、多くの人に好かれていたのを覚えている。


「ニーナ。見せてやれ。この偽物の聖女に教会が下した審判を!」


「はあい。よく聞いてくださいねセンパイ。神聖教会は勇者にして、第一王子のダン・フォン・ランカスターの名の下、聖女を騙った罪でフローラセンパイを永久追放することに決めましたあ!!」


「な……!! ど、どうして!? そ、そんな、私は……!」


 驚きのあまり言葉がうまく出てこない。


 神聖教会からも追放……? じゃ、じゃあ私はこれからどうしていけば……。


「残念でしたねセンパイ。結局、神託なんて当てにならないんですよっ! 王族の権力に比べたらね」


「そういうことだ。口うるさいお前が消えてくれて助かるぜ。訓練しろ、パーティー間の連携を意識した方がいい、生活態度を改めろ。お前は黙って、俺に回復と強化魔法を使っていればいいのにってよ!!」


「で……ですが! 私は勇者として必要なことを……!!」


 自分は聖女として勇者パーティーに尽くしてきたはずだ。後衛での回復魔法、強化魔法、時には攻撃魔法も。


 でも、そんなことよりもこの人は私の言動が気に入らなかったようだ。


 勇者パーティーには少しずつ悪評が流れている。主にダンへの悪評は酷いものだ。冒険者ギルドや騎士団からもかなり嫌われている。


 私はそんな悪評を無くすために、少しでも勇者としての素行を改めて欲しくて……。


「それがうぜえってわかんねえのかな!? アァ!? まあいい。お前は勇者パーティーからも、神聖教会からも追放だ。俺に逆らった罰だ。奴隷に落ちたら俺が買ってやるぜギャハハハ!!!」


「勇者様ひっどーい! セーンパイ、ずぅぅぅと前から大嫌いでしたよっ! そんなセンパイが惨めにも落ちぶれていくところを楽しみにしてますねキャハハ!!」


 二人の嘲笑を受けて、私は理解する。


 ああ、ここに私の居場所なんてないんだと。


 私は嘲笑を受けながら、黙って酒場から出ていくことにした。



***



「ごめんねえ。神聖教会からのお達しで貴女を泊めることはできないんだよ」


「王城からの命令には逆らえねえよ。ここいらはどこに行ってもあんたを入れてくれる店はねえぜ?」


「辺境じゃない限り無理なんじゃねえかな。まあいい。、入れてやるよ」



「はあ……どうしてこんな目に」


 私は馬車の荷車の中でそう呟く。


 追放されてから数週間。私は馬車の中で名もしれない辺境へ向けて移動していた。


 その理由はどこの町や村に行っても、私を入れてくれるお店がなかったから。


 恐らくニーナの手引きだろう。神聖教会と王城の権力を使って、私を徹底的に追い詰めるつもりなのだ。


「私、これからどうしよう……」


 帰る場所だった神聖教会にも帰れない。孤児だった私にはあそこが唯一の居場所だったのに。


 冒険者として身を立てていくことも不可能だろう。


 馬車を何個も乗り継いで、数週間もかかるような辺境に行ったところで、未来に希望はない。


 大きくため息をつく。


『ギャオオオオッッ!!!』


 その瞬間だ。馬車の外から聞いたことがないような魔物の鳴き声が聞こえる。私は慌てて、小窓から外を覗く。


「ふ……フレイムワイバーン!? ど、どうしてこんなところに!?」


 赤色の鱗、全長十メートルを超す巨躯、ギラギラと輝く赤色の瞳。


 フレイムワイバーン。勇者パーティーですら苦戦するような魔物が空を飛んでいた。


「う、運転手さん!? ふ、フレイムワイバーンですよ!! 進路を変更した方がいいんじゃ……」


「ああ、ちょうど人里に降りてくるような季節か。なあに、心配なさるな。だよ」


「…………へ?」


 に、日常茶飯事!? ふ、フレイムワイバーンが!?


 こんな魔物が王都周辺にやってきたら町は大騒ぎになる。それくらい強い魔物だ!


 と、というか、この運転手さんのんびりしすぎ!! なんでこんなに余裕なの!?


「どどどどうしてこんなに余裕なんですか!? 【聖へ】……」


「安心しなよ。防御魔法を使うまでもねえ。ほら、彼が来た」


 一つの小さな影が通り過ぎる。


 それはフレイムワイバーンの巨躯に比べたらとても小さな影。平均的な青年くらいの背丈の男の子が空高く跳んでいた。


「【一閃】」


 その言葉と共に彼は剣を横薙ぎに振るう。


 私は何かの聞き間違いかと思った。


 なにせ、それは剣士にとって基礎中の基礎の技。剣を少しだけ扱える私でも使える剣技だ。


 それにフレイムワイバーンを倒せるほどの威力はない。しかし、彼の放った一閃はフレイムワイバーンを真っ二つに斬り裂いた。


 命を失ったフレイムワイバーンと共に軽やかに着地する彼。


「さっすがだなあ!! 相変わらずつええことよっ! お嬢ちゃんもそう思わないかい?」


「へ……っ!? え、ああうん。そ、そうですねっ!」


 私は馬車から降りて彼を見る。


 切り揃えられた黒髪。黒玉のような漆黒の瞳に、一見すると人畜無害そうな優しげな顔つき。


 細く引き締まった身体と、すらりと伸びた長い手足。


【神託。彼こそが真の勇者】


 彼を見た時、私の脳内でそんな声が響く。


 神託……それは聖女にしかない神からのお告げだ。この神託を聞けるものこそが聖女と呼ばれている。


 でも、彼が真の勇者……? ダンは素行こそあれだが、聖剣に選ばれた勇者だ。それに比べると彼はあまりにも平凡な見た目をしている。


【神託。勇者の素質とは聖剣に選ばれることではない】


「…………え?」


 神託は不定期に聞こえるものだが、一度聞こえるとある程度は連続して聞こえる。


 その時、私が知り得ないことも教えてくれるのだ。さっきみたいに……。


 神託は聞こえなくなる。私は無意識のうちにじっと彼の顔を見ていた。


「僕の顔を見て、どうかしたのかい?」


「え!? あーいや、そ、その〜〜私の名前はフローラっ! この近辺にある村に引っ越してきたものなんですけど……」


「おお、こんな辺境にまで引っ越してくるとは。歓迎するよフローラさん」


 一瞬訝しんだような表情を浮かべたけど、私がここに引っ越してきたと伝えると、彼はニコリと笑う。


 その後、何かを忘れていたかのように彼はこう口にする。


「そういえば僕の自己紹介がまだだったね。僕の名前はアレフ。よろしく、フローラさん」


「あ……は、はいっ! よろしくお願いします! と、突然なんですが、貴方は自分が勇者だと聞いたことありますか!?」


 な、何を突飛なことを言ってるんだ私!?


 真の勇者……その意味が知りたくて、私はついつい彼へそう聞いてしまう。


 そんな彼の反応は分かりきっていたもので……。


「…………はて? 勇者ってなんだい?」


 彼はそう言って首を傾げる。


 ……ってええ!? こ、この人勇者のことを知らないの!?


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