第65話 激闘の裏で
レオナルドがブラックワイバーンと戦っていたその日、グラオム=クルエールは一人、ムージェスト王国王都ムジェスタにある教会に向かっていた。
クルームハイト公爵家のメイド―――ミレーネとの一件があった後から、グラオムはすぐに仕返しをしてやろうとずっと考えていたが、中々いい案が浮かばなかった。目の前で起きていることならば、
しかも、クルームハイト公爵家は
そこで今日、父親である、現クルエール公爵家当主、エルガ=クルエールに
自分達がいかに悪くなく、メイドの
だが、エルガからは、そんなくだらないことで圧力などかけられるか、と
自分はエルガの命令で、馬鹿な第一王子、イリシェイム=ムージェストの取り巻きなんてことをしたくもないのにしているというのに、エルガに取り合ってもらえなかったグラオムは、むしゃくしゃした気持ちそのままに屋敷を飛び出した。
そうしてやって来たのが教会だった。
この教会を管理している
中に入ると、すぐに
「ヴァイザス様!」
会いたい人物にすぐに会えて、グラオムの顔がぱっと笑顔になる。
「おや?これはグラオム様。どうされましたか?」
ヴァイザスと呼ばれた男は、
だが、グラオムにとっては、エルガとヴァイザスが親しい仲にあることもあり、以前から心を開いていて、何かある
ヴァイザスは非常に聞き上手で、
「実は……ちょっと気分の悪いことがありまして、話を聞いてほしいんです」
「ふむ。では奥でお茶でも飲みながらゆっくり聞きましょうか」
「ありがとうございます!」
それから教会内にある一室に移動して、グラオムは一連の流れをすべて話した。
時々相づちを打ちながらヴァイザスは
「それは大変な目に遭いましたねぇ」
(この男は本当にくだらないことばかり言ってきますねぇ)
内心ではグラオムのことを
「まったくです。それで何とかする方法はないかと思いまして」
(ほぼ確実に、自分からちょっかいをかけて
ヴァイザスは、グラオムの被害者
「それならば
笑みを浮かべながら答えをあげることにした。
「本当ですか!?」
「ええ、ええ。もちろんですとも」
「そ、それはどのような!?」
前のめりになってグラオムが
「その前に。グラオム様はクルエール公爵家の
「人を使う?」
「はい。今回のことで言えば、相手が同格のクルームハイト公爵家ということですので、グラオム様よりも立場が上のイリシェイム殿下、でしょうか。お父上から、グラオム様は殿下の
「それはそうですけど、使うといってもどうやって……?」
「簡単です。殿下に対する嫌がらせとして、セレナリーゼ=クルームハイトが裏で糸を引き、彼女のメイドが側近であるグラオム様達を
「ですが、それでは万が一のとき私が責任を取らされるのでは……?」
事を大きくしてしまって、もし相手から反撃を受けたらと考えるとグラオムは
(本当に小さい男ですねぇ)
これが公爵家の嫡子だというのだから笑わせてくれる。もちろん言動には一切出さないがヴァイザスは
「そこで、同じく被害に
「まあ、そうですけど……」
グラオムは不服を隠そうともしない。ヴァイザスの案では、たとえ上手くいっても、
「万が一のことがあっても、すべてネファス様の
グラオムは、ヴァイザスの説明を聞いているうちに、段々と確かにそうかもしれないと思えてきた。あのメイドのような
それを飛び
これがグラオムの
ならば実利はネファスに与えてやって、自分は高みの見物を決め込むのもそれはそれで気持ちがよさそうだ。それに、確かにエルガが望んでいた通り、セレナリーゼの弱みとなるかもしれない。
「……そうですね。ヴァイザス殿の言う通りです。その方向で話を進めてみたいと思います」
グラオムはいっそ
(まったく。単純な男ですねぇ。まあ、
ヴァイザスもまた内心でほくそ笑んでいた。
その後二人は、具体的な手順などを話し合うのだった。
グラオムと話した翌日、ヴァイザスの耳にも、黒髪の少年がブラックワイバーンを倒した、という
ヴァイザスはシスターに出かけてくることを
そして、空を飛んで北へと向かった。それはレオナルドがブラックワイバーンと戦った
「まさか、一夜で都を滅ぼせるほどの私の傑作が本当にやられたとは……」
もぬけの
「意識もほとんどなくなり、ようやく使い勝手がよくなってきたところで……」
まだまだ働いてもらうつもりだったブラックワイバーンが倒されてしまったことはヴァイザスにとってそれなりにショックだった。
「もしや、あなたの意思で自ら殺されに行ったのですか?ですが……」
ヴァイザスは、独り言を呟きながら思案に
「黒髪の少年……。ムージェストで黒髪は非常に
ヴァイザスは真剣な表情で自分が魔力測定に立ち会った場面を思い返していく。少年というからにはここ数年に行っているはずだ。その中でも保有魔力が大きかった者は数人しかいない。黒髪であることと合わせれば、すぐに答えは
「アレクセイ=スヴェイト?あの少年がすでにそれほどの力をつけているということですかねぇ?」
アレクセイ=スヴェイト。スヴェイト男爵家の嫡子だ。彼こそ、レオナルドが言うゲームの主人公だったりする。
「だとすれば、
言いながらどうにも引っかかる部分がヴァイザスにはあった。
「はぁ……。セレナリーゼ=クルームハイトの件もどういう訳か失敗に終わりましたし、シャルロッテ=ムージェストが彼ら二人を自分の陣営に引き込もうと動いているという話もある」
魔力量で言えば、アレクセイ、セレナリーゼ、シャルロッテの順、そして権力の大きさでは真逆の順になる。高いレベルでバランスが取れているといえた。そんな彼らが今後勢力を拡大していくとなったら、厄介な存在になるかもしれない。
「……実に
言葉とは
―――――あとがき――――――
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【連載版】死亡エンドしかない悪役令息に転生してしまったみたいだが、全力で死亡フラグを回避する! 柚希乃愁 @yukinosyu
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