第46話 (幕間)セレナリーゼのお願い
「最近レオ兄さまは何をしているのでしょう……?」
セレナリーゼは表情を
先ほどまで魔法の
もう少し続けていてもおかしくはない時間だが、年明けからレオナルドが鍛錬を短縮するようになり、セレナリーゼも何となくレオナルドに合わせて終わらせるようになったのだ。
「ミレーネは何か知りませんか?」
先ほどの呟きとは違い、今回の言葉は明確に
セレナリーゼは以前、レオナルドに部屋で何をしているのか
「誰も中には入らないように、とのことですので、何をしているかまでは私にも……」
お茶を淹れてからは、セレナリーゼの側に
「そう、ですよね……。きっと何か楽しいことをしているに違いないのです。いつも鍛錬を終えるとワクワクした様子で部屋に戻っていきますから」
セレナリーゼはレオナルドが何をしているのか知りたい。そしてできれば自分にもその時間を共有させてほしい。レオナルドにだって一人でしたいことがあるなんてことは考えるまでもなくわかっているが、それがセレナリーゼの本心だった。
「確かにこの時間を楽しみにしているような
レオナルドは一応隠そうとしているみたいだが、表情などがわかりやすいのか、セレナリーゼとミレーネにはバレバレのようだ。まあ、フェーリスにもしっかり気づかれていることを考えれば、やはりレオナルドがわかりやすいのだろう。
「今からレオ兄さまのお部屋に突撃してみようかしら……」
それは今思いついたことがそのまま口から出てきてしまったという感じだった。だが、その表情は真剣そのもので
「ミレーネはどう思う?」
「
ミレーネは
「そうですよね。さすがに
セレナリーゼはなんとか
セレナリーゼは
「……ミレーネはいいですよね。毎朝レオ兄さまを起こしに行けるのですから」
セレナリーゼは
「いえ、私はあくまで仕事をしているだけですので」
ミレーネは表情を変えずに事実を口にする。
「でも、ときどきレオ兄さまのことを
今度は
「はて?私には何のことだかわかりかねますが……。レオナルド様がそのようにおしゃっているのですか?」
平静を
(これまでのことでも色々と思い当たる節はありますが、やはりセレナリーゼ様は……)
「レオ兄さまが言う訳ないじゃないですか。でもレオ兄さまがミレーネに何か言われてあたふたするのは何度も見ていますから」
「
「それにレオ兄さまがミレーネの、む、胸を、その、時々見ていることも、わかってるんですよ?ミレーネは大きいですから。ううぅ……」
レオナルドは自身の習性を気づかれていないと思っていたが、ミレーネだけでなくまさかのセレナリーゼにまでバレていた。やはり女子はそういった視線に
「おや、セレナリーゼ様もお気づきでしたか。ええ、本当に困ったものなのです」
ミレーネは片腕を自身の胸の下に回し、もう片方の手を頬にやる。
「……本当に困っていますか?」
そんなミレーネをセレナリーゼは
「もちろんです、セレナリーゼ様」
「そうですか……。……けど、きっとそういうところなんでしょうね」
そこにはミレーネへの
「?…何が、でしょうか?」
メイドである自分から尋ねてもいいのか迷ったが、そういうところ、という表現が何を意味しているのかわからず、結局ミレーネは訊いてみることにした。
「ミレーネは大人だなと思ったんです。だからこそ、レオ兄さまはミレーネのことを信頼しているのかな、って」
「レオナルド様が私を?そのようなことはないかと存じますが」
セレナリーゼがなぜそんな風に思ったのか不思議で、ミレーネは小首を
「そんなことありますよ。だって、私が
「それは……」
ミレーネは思わず言葉に詰まってしまう。レオナルドがそう言った場には自分もいたが、ミレーネにはセレナリーゼの考えている信頼とは違うものではないかと思えるのだ。それにこの話はあまり続けたいものではなかった。だから、
「もしもそうであれば光栄なことです」
ミレーネは
セレナリーゼはそんなミレーネを特に
「ち、ちなみに、ミレーネはレオ兄さまのことをど、どう想っていますか?」
ミレーネの目をまっすぐ見つめてセレナリーゼは訊いた。それだけ真剣なのだろう。ただ、こういう話をすること自体恥ずかしいのか、その顔は少し赤らんでいる。
「私の
それに対し、ミレーネは
「い、異性として意識したり、とかは……?」
「いえ、そのような
ミレーネは未だ恋をしたことなどなく、正直そういう感情がよくわからなかった。
少し前までの―――、魔力がないとわかってからのレオナルドのことをミレーネは非常に
それを乗り越えたように見える今のレオナルドは、嫌らしさが薄れ、こちらが
そもそもこの年代の四歳差は大きい。ミレーネとしては、そんな年下を異性として見ることなんてそうそうあり得ない、と考えているが、それは空気を読んで言わなかった。
「なるほど……」
今のやり取りでセレナリーゼがどう思ったのかはわからないが、とりあえずは納得したようだ。セレナリーゼはニッコリと笑って言葉を続けた。
「わかりました。でしたら、ミレーネ。一つお願いがあるのですが聞いていただけますか?」
「はい。何でしょうか?」
「これからは私に協力していただけませんか?」
「協力、でございますか?」
ミレーネの中に、いったい何の?という疑問が浮かぶ。
「はい。私はもっとレオ兄さまのことが知りたいんです。だから色々教えてほしくて……。それに、私もレオ兄さまから頼られるくらいの
「かしこまりました。私でよろしければ」
これはもう確定だろうとミレーネは思う。兄妹で、という点は問題だとわかっているが、自分の立場でどうこう言えることではない。それに、こう言ってはなんだが、大人になっても続く
「ありがとう。ふふっ、嬉しいです。これからよろしくお願いします。あ。あと、ミレーネも心境に変化があったら言ってくださいね?絶対ですよ?それと何か困ったことがあれば何でも言ってください。ミレーネとは公平でありたいですから。それに、もしミレーネに何かあれば、レオ兄さまもきっと力を貸してくださると思うんです」
セレナリーゼの中ではレオナルドは
「はい。身に余るお言葉ありがとうございます」
こうしてセレナリーゼは強力な味方を得たのだった。
その後、早速、とセレナリーゼがミレーネに相談したのは、レオナルドは胸の大きな女性が好きなのだろうか、といったものや、どうしたらミレーネのように胸が大きくなるか、といったものだった。
ミレーネは困りながらも何とか答えを返したが、その内容は彼女達二人だけの秘密だ。
―――――あとがき――――――
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