第15話 異変

 レオナルドがセレナリーゼのいる家屋かおくっ込んですぐのこと。

 男に途中路地裏ろじうらで気絶させられたセレナリーゼは目を覚まし、パニックになった。

 なぜなら手も足もしばられ、口には布をまされていて、何か布袋のような物に入れられているのか視界が真っ暗だったからだ。声も出せず、全く身動きできない状態だった。


「セレナを返してもらうぞ!」


 だが、布袋越しに聞こえた声で急速にパニックがおさまっていく。ずっと身近で聞いていた声。今は声から怒りの感情が伝わってくるほどあらくなっているが聞き間違えることなんてない。それはレオナルドのものだった。そして自分が誘拐ゆうかいされた事実を思い出す。

(レオ兄さまが助けに来てくれた!?)

 レオナルドが来たということはきっと騎士達をひきいてきたに違いない。セレナリーゼは驚きとともに希望がいてきた。だが、それは続く男達の言葉によって否定されてしまった。


「おいおい。まさかお前一人で来たのか?」

「マジかよ。このガキ、騎士気取りってかぁ?」

 突然入ってきたレオナルドにおどろき、一瞬固まって、騎士達が続けて入ってくると思いあわてた男達だったが、レオナルドが一人だとわかるとすぐにニヤニヤ笑いを浮かべ始めた。

(レオ兄さま一人!?)

 なんで、どうして、とセレナリーゼの中に疑問や不安が広がる。レオナルドは自分と年の変わらない子供だ。それにそもそも戦うための魔力がない。それでは大人の男達と戦うことなんて無理だと思ったのだ。セレナリーゼの考えはこの世界の常識じょうしきだった。そして何よりもセレナリーゼだからこそ感じる疑問が大きかった。

 彼女だからこそ感じるものというのはともかく、常識という部分は男達も同じ考えのようだ。言葉や態度からレオナルドのことをあなどっているのがよくわかる。


「……もう一度言う。セレナを返せ!」

 室内には同じような布袋がいくつかあるが、セレナリーゼの魔力を感知してどの袋に彼女が入れられているかレオナルドはすでに把握はあくしている。袋は全く動く様子がないため男達の言っていた通りセレナリーゼは気絶しているのだろう。

「ぎゃはははっ。お前も馬鹿ばかだよなぁ?俺達は知ってんだぞ?お前が魔力なしの無能むのうだってな。あのメイドならともかく、お前一人でいったい何しに来たんだ?」

「本当だぜ。俺達は元冒険者だ。そんな俺達と戦うつもりかぁ?」

「……素直すなおに返さないって言うなら戦ってでも返してもらうさ」

 レオナルドに魔力がないことなど少し調べればわかることだから本人は全く気にしなかった。ただあのメイドならというのは少し引っかかる。男達はどこまで知っているというのか。が、今は些細ささいなことだと考えないようにした。

 そしてレオナルドが覚悟かくごのこもった言葉を口にするが、男達はニヤニヤ笑いを止めず、方向性を変えてきた。

「妹がいなくなるのはお前にとっても好都合こうつごうだろう?」

「何?」

「だってお前さぁ妹のことうらんでるんだろ?聞いてるぞ?」

「そうそう。出来できの良い妹に次期当主の座をうばわれたってな。お貴族様ってのも大変だよなぁ?けどこのまま妹がいなくなればれて元通りだぜ?どうだ?お前にとってもいい話だろ?」

(っ……そうだ。私さえいなければレオ兄さまは……)

 男達の言葉にセレナリーゼの胸が痛む。その通りだと思ったから。

「ふざけるな!それは俺も納得済みのことだ。そんなことで恨んだりしない!」

 だが、レオナルドは即座そくざに否定する。

「そうかぁ?ならもっといいこと教えてやるよ。お前とあの妹な、血のつながりがないんだぜ?お前は赤の他人に家をうばわれたんだよ!」

「なっ!?」

(なぜそんなことまで知ってるんだ!?なんなんだこいつら!?)

 レオナルドは目を見開いて驚きをあらわにした。セレナリーゼのことを知っているのは王国内でも極僅ごくわずかのはずなのだ。

(え……?)

 一方、セレナリーゼは袋の中で呼吸も忘れて呆然ぼうぜんとしていた。男の言っていることがすぐには理解できなかったのだ。

「ぎゃはははっ!さすがに衝撃しょうげきが大きかったか?けど事実だぜ?依頼人はお前らのことよーく調べたらしいからな。そんな他人のことなんてよ、放っておけばいいじゃねえか。なぁ?」

「そうだぜ。そうすればお前は奪われたものを取り戻せるぞ?無能のお兄ちゃん?お前が継ぐ方が都合がいいらしいからなぁ」

 魔力がない無能のレオナルドが一人でやって来たからこそ男達は言葉でレオナルドのことを甚振いたぶって楽しんでいるようだ。

(俺が継ぐ方が都合がいい?誰が?なぜ?)

 新たな疑問が浮かぶが、答えなんて出ないため棚上たなあげする。

「……はぁ。言いたいことはそれだけか?セレナと血の繋がりがないなんてお前らに言われなくても知ってる」

 レオナルドはセレナリーゼが気絶していると思っているため、すんなりと肯定こうていしてしまった。

(レオ兄さまは知っていた!?私と本当の兄妹じゃないことを?……じゃあ私は本当に?)

「ああぁ?」

「それでもセレナは大切な家族だ!義妹いもうとだ!だから返してもらう!」

 レオナルドは心の底からのおもいを言い切るとかまえを取った。

(レオ、兄さま……)

 レオナルドの断言だんげんを聞いてセレナリーゼの目からは涙があふれていた。いまだ信じられない思いが強く、うまく考えることもできないが、レオナルドの言葉は確かにセレナリーゼの心にひびいた。

「チッ!大切だとかなんとかごちゃごちゃ言いやがって。聞いてた情報とちげえじゃねえか!」

「もういい。相手は無能のガキ一人だ。やっちまおうぜ」

 男達もそれぞれナイフを取り出し構えるのだった。


 二対一での戦闘が始まってすぐにレオナルドは苦戦をいられた。

 人数差はもちろん、相手は武器持ち、レオナルドは素手すでという差もあるが、大きいのはやはり魔力だ。男達は以前、身体強化魔法しかできない程度の底辺冒険者だったが、それすらできないレオナルドとは大きな差だ。

 レオナルドは魔物との戦いのように、相手の魔力の動きを読むことで何とか致命傷ちめいしょうけて戦えている状況だった。それでもナイフによって浅い傷がいくつもできていく。

 そんな中、身長差がいい方向に作用して、レオナルドはカウンターの要領ようりょうで主にお腹から下にこぶしを当て、りを入れる。アレンとの鍛錬たんれんは確実に実をむすんでいるのだ。


 だが、それも長くは続かなかった。

 男の蹴りが思い切りレオナルドの胸元に入る。

「かはっ!!!?」

 身体強化されたその蹴りによってレオナルドは大きく吹っ飛んでかべ激突げきとつした。

 胸を押さえて激しくき込むレオナルド。痛みが強いため骨が折れているかもしれない。

「おうおう。これで終わりかぁ?」

いきがってた割に随分ずいぶん呆気あっけないじゃねえか」

 まだまだ余裕があるのか、男達はニヤニヤ笑いながらレオナルドにとどめをすべく近づいていく。

「くそっ、まだだ……」

 レオナルドはあきらめることなく男達をにらみつけながら何とか立ち上がる。

 そのとき――――。

「ぐぁがっ!?」

「うぐぁっ!?」

 男達が急に苦しみ始めた。

 そしてそれは男達二人だけにとどまらなかった。


 ―――――あとがき――――――

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