第14話 追跡
ミレーネと別れたレオナルドはすぐに追跡を始めた。
レオナルドはもう見えなくなってしまった相手をいったいどうやって追跡するつもりなのか。
その答えはセレナリーゼだった。
レオナルドにはどうしてかセレナリーゼの場所がわかるのだ。
レオナルドの仮説では、自分は対外へと漏れ出ている魔力を感じ取れているのではないかと考えている。
前世の記憶を取り戻した後、セレナリーゼを初めて見たときに、彼女だけ薄っすら光って見えた。
魔物との実戦訓練でもそうだった。戦闘時、戦うために魔力を高めているであろう魔物から漏れ出る魔力がレオナルドには見えていた。
ただ日常の中でフォルステッドなどの魔力は見えないので、もしかしたら制御能力が関係しているのかもしれない。
そんななぜか見える魔力をレオナルドは少し離れていても感じることができた。実戦訓練の後、セレナリーゼが出迎えてくれたことがあったが、玄関扉を開ける前からそこにセレナリーゼがいるとわかったのはそのためだ。
ただ今悔やんでも仕方がないが、どれほどの距離まで感じ取れるかを実験したことはない。そのため先ほどは見失う危険性から焦っていたのだった。ミレーネにはきつい言葉をぶつけてしまい申し訳ないが、自分の感覚がこの程度のものだからこそ、ミレーネを行かせた。ミレーネなら上手くやってくれるだろうと信じて。
今のところセレナリーゼの魔力を順調に追うことができている。
そうして走りながらレオナルドはずっと疑問だったことを考えていた。いや考えずにはいられなかった。
それはどうしてこんな事件が起きたのか、だ。
(くそっ!こんな事件、回想イベントになかったぞ!?)
そう。セレナリーゼが
つまり今回のことはゲームでは起きていないはずのイベント、ということなのだ。
もちろんゲームでは毎日の出来事なんてわからない。日常のちょっとした出来事なんてゲームで語られる訳がないのだ。だから今日のお茶会の件もレオナルドは特に気にしていなかった。
けれどセレナリーゼが
レオナルドの受けた衝撃は計り知れないものだった。この世界を現実だと受け入れ、死にたくないと思って行動してきたレオナルドだが、どこかで自分以外の主要キャラはゲーム通りの展開に進んでいくという考えがあったのかもしれない。
その上、セレナリーゼの泣き顔が頭にこびりついて離れず、激しく胸をかき乱す。
こんなところでセレナリーゼに何かあっていいはずがない。絶対にセレナリーゼを助ける。今のレオナルドの想いはただそれだけだった。
走り続けたレオナルドの追跡はようやく終わりそうだった。
男達が止まったのだ。場所は王都内の貧民街、その中でも奥まった一角。貧民街は王国としても手を焼く半ば無法地帯といった様相の場所だ。
日々の鍛錬で体力をつけていて本当によかった。レオナルドは一つ息を吐くと自身も貧民街へと進んでいった。初めて訪れる場所のため慎重に進んでいく。こんな小綺麗な恰好をした子供がいたら浮きに浮く場所だし、レオナルドが捕まってもおかしくないからだ。実際、かなりの視線を感じたが、レオナルドの鬼気迫る様子にトラブルの気配でも感じて警戒しているのか幸運にも絡まれることはなかった。
そうして辿り着いた。
(間違いない。あの中だ)
今にも崩れそうな見た目の家屋の中にセレナリーゼの魔力を感じる。
場所が王都内でレオナルドはほっと安堵した。
(ここならすぐに騎士達も来てくれそうだな)
今頃はミレーネが屋敷に戻って報告してくれている頃だろうか。屋敷から貧民街までそれなりに距離はあるが王都外に出られるより余程いい。
ただ騎士達を待っている訳にはいかない。男達は雇われただけと言っていた。いつその雇い主がセレナリーゼを連れて行ってしまうかわからないのだ。
レオナルドはセレナリーゼがいる家屋に少しずつ近づきながら周辺を慎重に注意深く見回した。結果、どうやら外には男達の仲間はいないようだ。
(全員あの家の中にいるのか?)
見張りなどがいる可能性を考えていたレオナルドは、首を傾げる。家屋の大きさからして大人数がいるアジトには思えない。
(何かの組織に依頼したって訳じゃないのか?セレナを欲しがってるお方、ってやつはいったい誰なんだ?何の目的で……?)
疑問は尽きないが、見張りがいないのならばとレオナルドはゆっくりと家屋に近づき、中の様子を窺おうと試みた。このまま騎士達が来るまで見張っていれば一緒に突入してセレナリーゼを確実に助け出すことができる。
すると中から男達のゲラゲラと下品で大きな笑い声とともに話し声が聞こえてきた。
「これで金貨二十枚とか本当割のいい仕事だったな」
「ああ。しばらく遊んで暮らせるぜ」
(たった金貨二十枚でこんなことしたっていうのか!?)
「あの人も俺らによくこの話を持ってきてくれたよな」
「俺達がついてんだよ」
「だな。早く取りに来てくれねえかなぁ」
声は二つしか聞こえない。相手はあの二人だけだとレオナルドは確信する。
「そう言えばお前、袋に詰めるときあのガキ気絶させてたよな?大丈夫か?なんで欲しがってるか知らないが傷がついて商品価値が下がったなんて言われるのは勘弁だぜ?」
「そんなことは言われなくてもわかってんだよ。だから最初はしなかったってのに。それで叫ばれてバレたからな。道中も泣き声がうるせーからちょっと黙らせただけだ。袋に入れても暴れられたら意味ないだろ?傷らしい傷もつけてねえし、すぐに目を覚ますさ」
男達は派手な衣装のセレナリーゼをいつまでも見える形で運ぶ訳にはいかないため、途中で路地裏に用意していた布袋にセレナリーゼを詰めたのだ。そんな準備をしているなら最初から口に巻く布でも準備していればいいものを随分とずさんな犯行だった。
(なんて……ことを……)
レオナルドは拳を強く握り過ぎて身体が震えている。
「まあ満額もらえりゃそれでいいけどな。けど折角気絶させたなら目覚まされる前に来てほしいもんだぜ。起きたらまた面倒そうだ」
「ちげえねえ。ま、今は口も塞いでるからうるせーってことはないだろうけどな」
「「ぎゃはははははっ」」
そこでレオナルドの我慢は限界だった。怒りでどうにかなってしまいそうだ。
レオナルドは男達に気づかれないように潜入してセレナリーゼを救い出すとか、騎士達を待って確実に救い出すとか、穏便な方法がすべて頭から吹き飛び、激情に任せて勢いよく扉を開き、家屋の中に入っていった。
「キサマらーーーー!!!」
「なっ、なんだ!?」「お前はっ!?」
レオナルドが家屋に入っていくのを深くフードを被った人物が見ていた。レオナルドの感じていた視線の中の一つはこの人物だ。セレナリーゼを引き取りに来たタイミングでレオナルドを見つけ後をつけていた。
「おやおや。やはりそうなりますか。ですが、なぜ無能の兄が彼女を助けに?それにまさか彼がここまで辿り着いてしまうとは。どうやって迷いなく来れたんですかねぇ。興味がありますねぇ。…しかしあの二人、あんな子供にバレるなんて元冒険者と言っても所詮はゴロツキということですか。周囲に気づかれないよう近くに彼女が入る袋まで用意してあげたというのに。依頼人は彼女をご所望だったんですが…さて、どうしましょうかねえ。困ってしまいますねぇ」
声から男性だということはわかるが他はわからない。そして困ると言いながらその人物の口元は笑みの形になっていた。今の状況を楽しんでいるようにさえ感じる。
そんな風にフードの男が独り言を言っている間にも扉が開いたままの家屋の中から激しい言い合いの声が聞こえてきている。
「……確実に
フードの男の位置からは中の様子は見えないが、聞こえてくる言葉に呆れた声を出す。
そしてフードの男はさらに思案する。
「兄が来たということはそのうち騎士も来てしまうんでしょうねぇ。そうなったら彼らに勝ち目はない。まあ彼らが捕まってもこちらに繋がるような証拠は何もありませんが……。やれやれ、本当に困ってしまいましたねぇ」
フードの男がどうしようかと考えていると、家屋の中からはとうとう戦っているような声や音が聞こえてきた。
考えている時間はもう無さそうだとフードの男はどうするかを決めた。
「……仕方ありませんか。あの方が真に望んでいることは武の要たるクルームハイト公爵家、ひいてはムージェスト王国の弱体。ここは一つ、彼女のことは諦めていただいて跡取りを二人とも消してしまうとしましょうか。もしも騎士達が間に合ったらあの兄妹の運が良かったということで。まあ妹の方はダメでしょうが」
実に楽しそうな、まるでどちらに転んでもいいとでも思っているかのような言い方だった。
そしてフードの男は懐から手のひらサイズの漆黒の玉を取り出すと膨大な魔力を玉に注ぎ込んだ。
漆黒の玉は一瞬僅かに光ったが、それ以外特に変化はない。だが、それでやるべきことはやり終えたのか、フードの男は再び漆黒の玉を懐にしまった。
「今回のことは私の失敗だと責められるんですかねぇ。面倒ですねぇ」
フードの男はそう言いながらその場を立ち去るのだった。
―――――あとがき――――――
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