第12話 予期せぬ事態

 それからも日々は過ぎ、いよいよ七月の今日、レオナルドとセレナリーゼがシャルロッテのお茶会に参加する日がやって来た。


 レオナルドとセレナリーゼは朝から準備に取りかかっている。メイド達は大変そうだ。特に大変なのはドレスを着るセレナリーゼの方だろうか。


 そんな中、レオナルドはワクワクが増すばかりだった。やっとこの日がやってきたのだ。

(シャルロッテともあんまりしたしくするのはまずいけど、やっぱ楽しみだよなぁ)

 メイドに手伝ってもらいながら準備をしているレオナルドは呑気のんきにそんなことを思っていた。

 ヒロインと親しくするのはレオナルドの死亡エンドを回避するという目標を考えればいいことではない。そんなことは重々じゅうじゅう承知しょうちしているが、好きなゲームのヒロインに現実で会えるというのは、前世で言うところの好きな芸能人に会えるような感覚に近かった。


 レオナルドは着替え終わると、紅茶を飲みながらセレナリーゼの準備が終わるのをしばし待つ。

 するとレオナルドの部屋にセレナリーゼがやって来た。

「レオ兄さま、お待たせしました」

「っ!?」

 レオナルドはセレナリーゼを見て目を見開く。セレナリーゼは瞳の色に合わせたのか、紫系のドレスを着ていた。可愛らしい感じだが、ちょっぴり大人っぽさもある。

「レオ兄さま?どうかしましたか?」

「あ、いや、ごめん。……すごく綺麗だよ、セレナ。ドレス、よく似合ってる」

 簡単に言ってしまえば、その姿にレオナルドは見惚みほれてしまったのだ。

「ありがとうございます……」

 くさそうにレオナルドがめるとセレナリーゼも少しほほを染めてお礼を言った。


 そしてとうとう出発の時間となった。

 王城までは馬車で行くことになる。二人のお世話係としてミレーネが同行する。


 レオナルド、セレナリーゼ、ミレーネの三人は馬車に乗り込み、屋敷を出るのだった。


 順調に馬車は走っていたが、王城まで後半分の距離といったところでそれは起こった。

 馬車が急停止したのだ。

「きゃっ!?」「うわっ!?」

 セレナリーゼとレオナルドは突然のことに体勢をくずす。

「大丈夫ですか!?レオナルド様、セレナリーゼ様」

「あ、ああ僕は大丈夫。セレナは?大丈夫?」

「はい。私も大丈夫です」

「お二人ともご無事で何よりです。いったい何事ですか!?」

 ミレーネはレオナルド達の無事を確認するとほっと安堵あんどし、続けて声を張り御者ぎょしゃに確認した。

「いや、それが……」

 だが、御者は困惑こんわくした様子で言葉が続かない。

 そんな御者の態度をれったく感じ、早く状況を把握はあくしなければと考えたミレーネは二人に断りを入れ、馬車から降りた。


 ミレーネが馬車を降りるとすぐに状況はわかった。

 馬車の目の前に男が倒れていたのだ。ただ、この貴族街には似つかわしくない貧民街にいるようなボロボロの服を着た男だった。

 ミレーネはすぐさま倒れている男にけ寄る。

「大丈夫ですか!?」

「うぅ……うぅ……」

 ミレーネの声掛けに男は答えることができず、お腹の辺りを押さえてうめき声を上げている。ただミレーネが確認する限り、出血はしていないように見える。押さえているお腹の辺りに馬がぶつかったのだろうか。

「まさかいてしまったのですか!?」

 事実を知ろうとミレーネが御者に問う。

「い、いえ!突然その男が飛び出してきて。ですが馬車はぶつかる前にちゃんと止めたはずです!」

 御者は突然のことで気が動転しているようだが、疑われてはたまらないと必死に言葉を発した。


 この騒動に周囲に人が集まってきた。

 ミレーネとしてはシャルロッテのお茶会に早く二人を連れていかなければならないが、公爵家の体面上、倒れている男を放っておくこともできないとあせり始めていた。場所が悪すぎるのだ。

 この場に回復魔法の使い手がいない以上、せめて医者に見せるか、お金はかかるが、教会に連れていくかしなければ……。ただどちらも距離があるため時間がかかる。

 だが一方でどうにも違和感をおぼえる。どうしてこのような身なりの男が貴族街にいたのか、と。いったい何をしに?それほど目の前の男は不自然だった。


「ミレーネ、どうしたの?」

 そこに声がかけられ、呼ばれたミレーネが振り返ると、レオナルドが馬車を降りて近づいてきていた。


 レオナルドとセレナリーゼが馬車の中で待っていたときのこと、外からミレーネの轢いてしまったのか、という声が聞こえてきたのだ。

「レオ兄さま、大丈夫でしょうか?」

 どうやらセレナリーゼは今聞こえてきた言葉で不安になってしまったようだ。凄惨せいさんな現場を想像してしまったのかもしれない。

 外の状況がわからないレオナルドは安易あんいなぐさめはせず、セレナリーゼに笑ってみせた。

「ちょっと外の様子を見てくるよ。セレナはこのまま馬車の中にいて?」

 もし本当に轢いてしまっていたら、セレナリーゼには刺激が強すぎてあまり見せたくない状況になっているかもしれないとレオナルドは考えたのだ。

「はい……」

 セレナリーゼが素直にうなずいてくれたので、レオナルドは馬車を降りて確認することにしたという流れだ。


 自分で対処しなければと思っていたミレーネだが、レオナルドが外に出てきてしまったため、簡潔かんけつに今の状況を説明した。


「わかった。そういうことならこの人を馬車に乗せて医者に連れていこう」

 話しを聞いて一瞬、当たり屋という言葉がレオナルドの脳裏のうりに浮かんだが、その考えを振り払った。身なりで判断するのはよくない。

「ですが、それではお茶会に……」

 間に合わなくなってしまう。それは貴族社会において大変失礼な行いだ。

「仕方ないよ。僕達の乗った馬車が原因で怪我けがをしたなら放っておくこともできないだろう?」

「それは、そうなのですが……」

 ミレーネがしぶる理由もわかるため、レオナルドは苦笑を浮かべると、倒れている男性に歩み寄った。レオナルドの動きに合わせてミレーネも付き従う。

「意識はあるみたいですね。よかった。この度は私どもの馬車がお怪我をさせてしまいすみません。今から医者にお連れしますのでもう少し頑張ってください」

「レオナルド様……」

 ミレーネは自身の不甲斐ふがいなさを痛感つうかんし、申し訳なさでいっぱいになった。


 皆が倒れている男に注目しているそのときだった。

「レオ兄さま!」

 さけぶようなセレナリーゼの声がひびいた。

 その声にレオナルドとミレーネがバッと勢いよく馬車の方を振り向く。するとそこではセレナリーゼが不審ふしんな男にかかえられていた。

 目の前の信じられない光景にレオナルドは一瞬頭の中が真っ白になった。


 ―――――あとがき――――――

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