第51話 回想イベント

 レオナルド、セレナリーゼ、フェーリスの三人は、それぞれ大満足といった様子で買い物を終え、屋敷に戻った。

 母妹と別れ、自室に向かう途中、レオナルドはフォルステッドの執務室から出てくるミレーネを見かけた。側近そっきん執事しつじであるサバスが控えているはずだが、お茶でも頼まれたのだろうか。一瞬そんなことを考えるが―――、

「それでは失礼致します」

 お辞儀じぎをして扉を閉めたミレーネの顔が強張こわばっているように見えて、すぐにそんな考えをあらためた。ミレーネは本心をかくすのがうまく、感情もほとんど表情に出ないため、気のせいかもしれないが、嫌な予感がしたのだ。

(まさか今日がその日だったのか!?)

 当たってほしくはないが、その考えを否定できず、心がザワザワとして落ち着かなくなる。

『確かめてみるしかないでしょう』

 そこにステラの声がひびいた。

(……そうだよな)

 声に気遣きづかうような優しさが含まれている気がして、レオナルドの心がゆっくりと落ち着いていく。


 ミレーネも一つ大きく息をいた後、その場を離れようとしたところでレオナルドに気づいた。はっと目を見開き、一瞬気まずそうに視線をらしたが、すぐにいつものうすみを浮かべレオナルドに近づいてきた。

「お帰りなさいませ、レオナルド様。お買い物はいかがでしたか?」

 先に口を開いたのはミレーネで、レオナルドは出鼻でばなくじかれてしまう。

「あ、ああ。楽しかったよ」

「それは何よりでございます。それでは私は仕事中ですので申し訳ございませんがここで失礼致します」

「うん…って、あ、ちょ、ちょっと待った、ミレーネ」

 流れに乗ってしまいそうだったレオナルドはあわててミレーネを呼び止める。

「はい?」

「……今さ、かない顔をしていたように見えたんだけど、何かあった?」

 レオナルドは一つ気持ちをととのえてからいた。

 レオナルドの言葉にミレーネは息をむ。自分の表情の変化なんて気づかれるとは思わなかったのだ。ただ決して気づかれたのが嫌だったわけではない。レオナルドは自分と違い表情に出やすく、心配してくれているのだと伝わってくるから。

「……いえ、たいしたことではございません」

 レオナルドに余計な心配はかけたくなくて、ミレーネは否定しようとした。だが、何もない、と言えばよかっただけなのに致命ちめい的に言葉選びを間違まちがえてしまう。それは気のゆるみか、それとも―――。


「大したことじゃない、ってことは何かあったんだよね?……もしかしてだけど、買い出しに行って何かあった?」

 レオナルドは、なんでそんなピンポイントで訊いてくるのかと言われたら答えられないというのに、自分からんだ。この質問の回答かいとうではっきりする、と考えて。

「っ……もうわけございません。レオナルド様に買い出しは控えるよう言われていたというのに」

 だが、結果としてミレーネがそんないをしてくることはなく、彼女は真っ先に謝罪しゃざいした。

「そんなことはいいんだ。それで何があったの?」

「……買い出しの途中で貴族の方と少しめてしまいまして。ですが、たった今旦那だんな様にご報告申し上げまして様子を見るということになりました。この程度のことで実際にクルームハイト公爵家を相手にできることなんて何もないだろう、と」

「そっか。ミレーネは大丈夫だいじょうぶだった?」

「はい、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

「うん、わかった。大事おおごとにならなくて本当によかった。教えてくれてありがとう、ミレーネ」

「いえ、こちらこそご心配をおかけしてしまい申し訳ございません。それでは失礼致します」


 ミレーネと別れたレオナルドは真剣な表情で自室に向かっていたが、

(間違いない。ミレーネの回想かいそうイベントが始まった。だあ、くそっ、時間が足りない!)

 心の中はあせりや不安でくるっていた。

『落ち着いてください、レオ。ゲーム通りなら解決されるものなのでしょう?』

 だが、そこで再びステラの落ち着いた声が響く。

(っ、……ああ、そうだな。その通りだ。ありがとう、ステラ。ちょっと焦り過ぎてたみたいだ。……前に話したけど、たぶん近いうちにこの件に第一王子が関わってくる。第一王子とミレーネが直接会う機会きかいなんてないだろうから父上経由けいゆでってことなんだと思うけど。でも父上にはミレーネとのがあるから、ミレーネを守るように解決してくれるはず)

『先ほどの確認でゲーム通りの流れが発生していることはわかりました。でも解決されるのならなぜそんなに焦っているのですか?』

(……たぶん不測ふそくの事態にも対応できるように保険ほけんがほしいんだと思う)

『ゲームの知識が信用できない、と?』

(わからない。ただ漠然ばくぜんとした不安があるんだ。……俺はゲームの流れそれを変えようとして動いてる。だからゲームとは違う行動をする人があらわれるかもしれないって思ってる、のかも?)

『そうですか。私には……いえ、今は不確定なことを言うのはやめておきましょう。ではこれからどうしますか?』


(時間も金も足りてないから、とりあえず必要な金を一気に稼ぐ。……ワイバーンが居る場所に心当たりがあるんだ。ワイバーンなら一体でおそらく足りる)

 自分の必要な金額と売値を考え、レオナルドはそう結論付けた。

『ワイバーンというのも魔物ですか?』

(ああ、竜だよ)

『竜?竜と魔物は別物ですよ?』

 ステラから予想外の指摘してきが入った。

(え?そうなの?)

『ええ。竜は私と同じように霊力のかたまりのような存在です。今のレオがもし竜と戦ったら確実に死ぬでしょうね』

(マジかよ……。………いや、でも違う。ワイバーンはやっぱ魔物だ。ちゃんと魔核まかくがあるはず。皮や牙は超稀少ちょうきしょうだけど時々防具や武器にもなってるし。それに……、そうだよ、ワイバーンは亜竜ってことだったはずだ)

 レオナルドはゲームで買えた武器や防具、ワイバーンの設定などを思い出しながら語った。

『なるほど、竜になろうとした魔物、ということですか』

(ステラの知ってる本物の竜のことを考えればそうなんだろうな)

 レオナルドの表情が少しにがいものになる。魔物が元はただの生物で、変質へんしつしたものだとステラに教えてもらってレオナルドはもう知っているから。いったいどんな生物がワイバーンになっているのか……。


『ワイバーンのことはわかりました。早速さっそく行きますか?』

(そうだな。早い方がいい。明日にでも行こう。こういうときイベントの具体的な日時がわからないってのは本当こまるよな)

『そうですね』

(けど、ステラの言う竜ってのにはいずれ会ってみたいなぁ。なんだかすごそうだ)

 ゲームにステラが言うような竜は出てこなかった。だからレオナルドにとって竜は未知の存在なのだ。この世界でもどれだけの人が竜の存在を知っているか。

『……空を飛べるレオなら行けるでしょうし、居場所が変わっていなければいずれ案内しますよ。話は通じるはずですが、戦闘になる可能性が高いので、もっとレオが強くなってからですけどね』

(話は通じるのに戦闘になる可能性が高いのかよ……)

 レオナルドは一気にげんなりしてしまう。

『竜は強き者が好きですからね』

(そうなんだ。ちょっと会いたい気持ちが減ったかも……。まあ、でもわかった。仮に竜に会いに行くとしても、もっともっと強くならなきゃだな。自分のためにもなることだし!)

『はい。その通りですね』

 そうして、レオナルドはやるべきことがさだまり、気合きあいを入れ直すのだった。



 ―――――あとがき――――――

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