夢喰い追放聖女は赤毛の天使と水蜜桃の恋をする 王国の未来? わたくしは存じ上げませんわ

杏樹まじゅ

【一.謁見の間にて】

「聖女フレデリカ・アッシュフィールド! オレルビア王国国王、アレックス・ウィンザックスの名において、お前を今日付で王室から追放する!」


 ざわつく謁見の間。

 大臣たちは突然の宣言に顔を見合わせて右往左往。

 伯爵夫人達は扇子で口を隠してひそひそ。

 冷や汗をだらだらとかく人。

 指をさして笑う人。

 大衆の面前で失礼にも指をさし叫ぶ新国王陛下のもと、みなの視線の温度はとても冷たく感じます。


 ……はあ。

 やっぱり、こうなるのね。


 それがわたくし、王室専属聖女「夢喰い」フレデリカの第一の感想です。

 初めからわかりきっていたこと。

 だから、驚かないしショックも受けません。

 初めからわかりきっていたこと。

 だから。


「お待ちください陛下!」


 わたくしの大切な妹、オフィーリアが声を上げても驚くことはありません。


「なんだい、オフィーリア」

「それはあんまりでございます!」


 可愛い可愛いわたくしの妹は、陛下の前に跪きました。


「血は繋がらないとはいえ私の姉は、この王室の呪いを解くため、幼い頃より尽力して参りました。その功績と努力を思えば、そのような仕打ちはあまりに非情。どうかお考え直しを!」

「……だめだ」


 けれど妹の必死の訴えも、もう彼の耳には入りません。


「君も、今の此度の戦禍のことは知っているだろう」

「ですが……」

「ああ、見目麗しいオフィーリア。僕は君に聖女をやって貰いたいと考えている」

「ええっ、私がっ?」


 本当に馬鹿なひと。

 誰のせいでこんなことになっていると思っているのでしょうか。

 まあ、妹は相変わらず可愛いのですけれど。


「そうだ、オフィーリア。戦禍を討ち払えなくなった姉君に変わって、君が聖女になるんだ」


 国王・アレックス陛下は立ち上がり、膝をつき、わたくしの妹の手にキスをしました。


 ぱちぱちぱちぱち。


 みな大きな拍手で陛下に賛同します。


「陛下……」


 オフィーリアは頬を赤らめて、こくりと頷きました。


「わかりましたわ、その任、命を賭して果たしてみせます!」


 聖女オフィーリア、ばんざい。

 聖女オフィーリア、ばんざい。


 拍手と歓声が満ちたこの謁見の間は、もはや必要としていません。

 能力を失い「黒髪になった」、元聖女のことなんて。

 悪夢を喰えなくなった、わたくしのことなんて。


 さようなら。

 わたくしの妹。

 さようなら。

 未来のオフィーリア王妃陛下。

 ないしょにしておきます。

 悪夢と災いのみなもとが、そこの未来の旦那様から始まっていることを。


 王国の未来?

 わたくしは存じ上げませんわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る