第19話 魔素と生気(プネウマ)


「……仕様としての弱点、という可能性ですか?」

 ヨシフミがそうつぶやき、悠は深くうなずく。

「前に母から聞いたのですが、米は機械で刈るから、それに適するように背を低く育種をしてきたと。それに対して、酒米の品種はそっちの角度への育種が進んでいなくて、背が高くて機械での稲刈りが大変なんだと聞きました。

 でも、背の高い品種と低い品種が混じれば、高い方が光合成できて絶対的に有利だ、と。

 これと同じように、弱点としても他の見方では有利……、というより『便利』になるような身体の作りってことはあるんじゃないでしょうか?」

蒼貂熊アオクズリが、魔素とか生気プネウマを集めるための生き物だという可能性を前提としたら、ってことですよね?」

 ヨシフミの確認に、悠は再びうなずく。


「瑠奈さんの言うとおり、自然の進化である可能性はあると思いますけど、蒼貂熊がそういう生き物だとしたら、その魔素とか生気プネウマとかの回収手段があるんじゃないでしょうか?

 身体の弱点ってのは、器官の中心ってこととも言えますから、その可能性、ありませんか?」

 その質問に、ヨシフミの表情はさほど変わらなかったが、瑠奈は辛そうな顔になった。


「昔、歴史上のできごとでだけど、大量虐殺の際に大量の生気プネウマを集めた事例があるのよ。クリスチャン・ローゼンクロイツC.R.C.が中東に行く前、1380年代のことだけど、70,000人もの人間の生首のピラミッドが作られた。10,000人分ほどは回収できなかったけど、60,000人もの人間の生気プネウマが練り合わされて、1本の短剣が作られた経緯がある」

 部屋の中は静まり返った。


 誰もが、衝撃を受けたという顔になっていた。瑠奈ですら想像するのがおぞましく、口に出すには辛い歴史上の事件だったのだ。だが、ヨシフミだけが、人類の蛮行に対して距離を置くことができた。みなが人間でいようとする中で、唯一人間以外を志したのがヨシフミだったからだ。そして、前から知識として持っていたということもあって、動揺が少なかったのだ。


「人類史の中で、生気プネウマの物質化が行われたのはその事例だけよ。他にはない。

 ともかく、人間から生気プネウマを奪うには、殺すのが一番手っ取り早い。それに関しては、洋の東西、規模の大小を問わずたくさんの例がある。本当に、考えたくもないことだわ。

 でも、他の生き物で、生気プネウマを集めるための仕組みがあるなら、殺さなくてもいいのかもね」

 部屋に、瑠奈の声だけが響く。


「じゃあ、蒼貂熊の弱点は、魔素とか生気プネウマを集めるための穴、だとか?」

 という悠の質問に、ずっと黙ってきた星波が口を開いた。

「私は、魔素をコンデンサに入れてここまで持ってきています。その出し入れに、身体に穴を開けてというのは、考えたこともありません。呪文で、手から好きに出し入れができるからです」

 それに対して、瑠奈が聞く。


「魔素と生気プネウマが同じものだとして、というか、私はほぼ同じものだと考えているけど、そもそも呪文ってなに?

 言霊みたいに、口に出しただけでそういうことが起きるとは考えられない。なんらかの因果関係があるはずよ。

 呪文の音の波が影響しているの?

 それとも、呪文を唱える術者の心理状態を整えるためのものなの?」

 そう聞かれた星波は考え込んだ。





あとがき

第20話 魔法の文法

に続きます。


本日は、挿絵入り。

花月夜れん@kagetuya_ren さまにいただきました。

感謝です!!!!


https://kakuyomu.jp/users/komirin/news/16818622177383488252

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