第17話 毒


 悠は話し出す。

「僕たちは、学校に入り込んできた蒼貂熊アオクズリと戦い、そのすべてを倒しました。その際に、何人もの重傷者と1人の死者を出しています。5mもある蒼貂熊が相手では、人間のフィジカルじゃどれほどの格闘技の達人であっても勝てません。ラグビー部が複数いても押し勝つのは無理ですし、刀の刃ですら通らない固く厚い筋肉の壁相手では、空手でもお話になりません。

 僕は和弓を引きますが、まともに使えたのは最初の1射だけでした。すぐに学習され、それ以降、単純に射た矢は掴み取られました。用心深く、賢く、そのたびに新しい方法を考えないと倒せない相手だったんです。

 結局、直接は戦えなくて、おびき寄せて高いところから落とすとか、感電させるといった手に頼ることしかできませんでした」

 話を聞いている誰もなにも言わない。ただ、視線だけが悠に先を促していた。星波も、この話を聞くのは2回目だが、それに変わりはない。それだけの緊張感と危機感のある話なのだ。


「巨体であるがゆえに自重があり、落としたら大ダメージが与えられること、エアコンのコンセントから取った200Vでも感電死させられたこと、それが僕たちにとっては僥倖でした。

 さらに、弱点はそれだけじゃありません。動体視力はよいようですが分解能が低く、米粒以下の大きさのものは見えていないようです。それから毒にも弱く、シソ科の植物の絞り汁が体内に入れば、その身体は崩壊を始めます。

 僕たちの報告で、シソ科の植物の成分の大量生産と備蓄が始まっていると聞きますし、より有効な毒素がないか研究が進められています。きっと、大口径の銃よりは時間は掛かるでしょうが、誰でも確実に倒せる方法だと思います」

 それを聞いて、ヨシフミは耳をそばだてた。


 ヨシフミは、毒に詳しい。

 なぜなら、ヴァンパイアになるときに、さまざまな薬品を自分の身体で試したからだ。

 錬金術の薬の基礎、ニグレイニグレドは陽の硫黄と陰の水銀の化合物である。そこから陽陰の合一たる賢者の石を作り出せれば、鉛などの卑金属を金という貴金属に変えることができる。また、賢者の石を人体に使えば、不老不死を実現させることもできる。

 ヴァンパイアになるということは、そのような研究を知り、追試していくことが求められるのだ。


 星波も言う。

「蒼貂熊は、魔素を集めるための人工生物かもしれないと、父は話していました。

 もしそうだとしたら、回収のための手順が蒼貂熊のどこかに組み込まれているはずです。毒に弱いっていうのも、それとなにか関係しているかもしれません」

「……まさか、身体を溶かして回収とか?」

 実際に蒼貂熊の身体の崩壊を見ている悠がつぶやく。


「何頭もまとめて溶かし、殺菌効果もあるから腐りにくくて、魔素とか生気プネウマを回収できるのかも……」

 さらにそう続けるのに、ヨシフミがストップを掛けた。

「そこまで行くと想像が飛躍し過ぎかもしれません。

 人類の歴史で、毒殺という話は多いから誤解しちゃうんですけど、人類は毒に強すぎな生き物なんです。人類を基準に考えたらどの動物も毒に弱いことになってしまいます。

 ただ、これ、忘れてはいけないこととして心に留めておきましょう。そもそも人工のとか、人造の生物がどういうものか、今の僕たちはあまりに知識がないのですから」

 その言葉に、悠だけでなく、全員がうなずいていた。




あとがき

第18話 弱点の意味

に続きます。

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