第30話 間


 僕も、覚悟を決めた宮原に応えなければ。

「そうだな、ここに注意を引き付けるしかない。だけど、バリケードは強化されていても残りの矢は6本しかない。あとはゴムチューブで飛ばす砲丸が1つ、釘はまだあるけど吹き矢が数本……」

「あとは感電トラップがある」

 剣道部の長尾が横から口を出す。


 宮原との最後になるかもしれない会話に割り込まれて、僕は少し心が騒いだ。だけど、それが顔に出るのを必死に押し隠す。蒼貂熊アオクズリを前に仲間割れしていたら、間違いなく死ぬ。自分の感情に暴走させてはいけないんだ。

 そこへ岡部と鴻巣がやってきて、僕は宮原と2人で話すのを完全に諦めざるをえなくなった。


 鴻巣がずばりと切り出した。

「3つ話がある」

「なんだ?」

 単刀直入に話し出す鴻巣に、僕も短く応える。


「まずは、吹き矢の人員だ。間藤と中島は吹奏楽部だからと手を上げてくれたけど、吹奏楽部じゃなくても吹けるはずだ。威力とか落ちるかもだけど、それはもうしかたない。誰か2人、新たに志願者を募る。それでいいか?」

「聞くまでもない。誰でも来てくれればそれだけでありがたい」

 僕の返答に鴻巣はうなずく。だけど、これは話の始まり、マクラに過ぎないことを僕は理解していた。


 鴻巣は話を続ける。

「次に、さっき長尾が顔を出したのは、赤羽を探していたんだろ?」

「そうだけど……。ひょっとして鴻巣、お前の差し金か?」

「そんなわけはない。いくらなんでも考えすぎだ。おそらくはアイツの行き先は保健室だろう。なら、宮原に矢を射てもらう必要がないよ」

「鴻巣、やはりお前も行き先は保健室と考えるか?」

「間藤のことを思っていると知れば、誰でもそう思う」

 てか、赤羽、「間藤が好き」を動機に、ここまでの行動ができるものなのか?

 それとも、今までなにもできなかったことの反動なのか?


 それでも……。

「好きな女子のために命を張るって、なかなかできることじゃない。赤羽はすげーよ」

 僕の言葉に、鴻巣はうなずく。

「保健室には冷蔵庫があって、氷があるだろう。もしかしたら、冷えピたとかもあるかもしれない。頭を打ったときは冷やした方がいいらしい。そのあたりも、赤羽には知識があったんだろうな」

「……なるほどなぁ。サッカーはヘディングするからかな?」

「そこまではわからん。でも、ありそうなことだ」

 鴻巣の言葉に、僕はうなずく。


「で、これにリンクしてだが、赤羽のために蒼貂熊の注意を引き付けておきたい。そう思っていたら、岡部が生物部として嫌なことを言い出した」

「えっ、なんだ?」

 僕の質問に、鴻巣に代わって岡部が話し出す。


「蒼貂熊の攻撃、おかしくないか?

 最初の2頭を撃退したあと、なぜ襲ってこないか、だ。間が空きすぎているとは思わないか?」

「言われてみればたしかに。だけど、それだけのダメージを与えたってことじゃないのか?

 現にそのうちの1頭は、蔵野のダンクで叩きのめされてる」

「ああ。だけど、殺すべきではなかったかもしれない」

「そんな手加減はできないけどな。で、なぜだ?」

 僕の問いに、岡部はさらに深刻な顔になった。


「アイツら、校内で縄張りを決めていたと俺は考える。つまり、職員室とこことだ。それぞれ2頭ずつ。おそらくもう2頭が校内をうろついて、別の獲物を探すとかしているはずだ」

「なんでそう思う?」

「来客用玄関を突き破って来たのが、怪我しているヤツだったからだ」

 岡部の答えに、横で鴻巣が大きくうなずいた。



あとがき

第31話 テリトリー

に続きます。

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