第6話 突撃!



「えっと、すみません。怖かった、ですよね......」

「え、ああ、はい。まあ」

「ケガとかしてませんか?」

「それは大丈夫です。ありがとうございます」

「本当にすみません。まさかこんな朝っぱらから押しかけてくるとは思ってなかったし、合い鍵のこともすっかり忘れてました」

「合い鍵......。いえ、西成さんのせいじゃないです。それにしても、本当にお話の通りの方でビックリしました」

「毎度気に入らないことがあるとあんな感じです。今日はやけにあっさりと引き下がったので逆に少し怖いですが」

「これ以上何も無いといいですけど......」

「と、とりあえず朝ですし、管理人さんに連絡してみましょうか!さすがにもう起きてるでしょうし」


 時計を見ると9時過ぎといったところ。俺は自分のスマホを東雲さんに貸して管理人さんに電話してもらった。

 電話はすぐに繋がったようで、事情を話すと30分くらいで来てくれるとのことだった。


 電話を終えた東雲さんは、俺にスマホを返した後なにやらキョロキョロしていた。


「あれ?そういえば、私なんでベッドに......?」


 そこはあまり気が付かないでほしかった。


「いや、ゲームしてたら寝ちゃったんで、起こすのもどうかと思って運んだんです」


 これはもう正直に話すしかないだろう。別にやましいことはないしな。


「あ......すみません、わざわざありがとうございます」

「と、とりあえず管理人さんが来るまでに朝ごはんにしましょうか」


 なんとなく気まずくなりかけた空気を変えようと提案する。

 朝食は昨日コンビニで買っておいたので問題はない。二日酔いの体にインスタントの味噌汁が沁みわたる。





 一緒に食べてゆっくりしていると、すぐにインターホンが鳴る。

 2人で出ると、来たのは50代の気の良さそうなおじさんだった。

 改めて事情を話すとあっさりとマスターキーを使って開けてくれた。

 東雲さんが、鍵を探したけど見つからなかったことを謝罪とともに伝えると、気にしなくていいと言われた。

 それどころか、不安なら有料になるが鍵を交換したほうがいいと助言してくれた。

 俺はてっきり鍵を紛失したら弁償とか言われると思っていたのに、そこは負担しなくていいのが意外だった。


 管理人さんは鍵を開けたらこれまたあっさりと帰っていった。

 土曜日の朝っぱら申し訳ないとも思うが、対応も早くていい感じの管理人さんで良かったと思う。

 ホッとしたような東雲さんから頭を深く下げながら改めてお礼を言われて別れた。



 俺は部屋に戻るとそのままベッドにダイブする。頭痛いし今日はベッドで惰眠を謳歌しよう。

 なんだかほんのり甘いようないい香りがする。そのおかげもあってか、ぐっすりと深い眠りに落ちた。








 ——ピンポーン。


 なんだ?誰か来た?

 誰かさんのせいで寝てるときでも音にはわりと敏感になってしまっているのですぐに目が覚めた。

 このまま寝ていたい気もするが、気だるさの残る体を起こして玄関に向かう。

 のぞき穴から見てみると、そこには今朝までこの部屋にいた隣人の姿が。

 ドアを開けると、外は暗くなっていた。そんなに寝ていたのか。


「あ、こんばんは。すみません、もしかして寝てましたか?」

「ええ、まあはい。絶賛爆睡中でした」


 何も気にせずつい出てしまったけど、もしかして寝癖でもついているのだろうか。


「どうしましたか?なにか忘れ物でも?」


 寝癖があったら恥ずかしいのでとっとと要件を済ましてしまおう。


「いえ、そういうわけではないんですけど......西成さんお夕飯どうするかなと思いまして」

「夕飯?あー、特に何も考えてないですけど」


 今の今まで爆睡していたしな。

 言われてみれば朝食以来食べていないからお腹が空いてるような気もする。そもそも何もないから買い物行かなきゃ。


「あの、もしよければ、ご飯作ったのでご一緒にどうですか......?」

「え、わざわざ作ってくれたんですか?」

「昨日たくさんご迷惑おかけしちゃったので、なにか少しでもお礼がしたくて」

「いや、迷惑ってほどじゃないですよ。久しぶりに誰かと一緒にゲームできて楽しかったですし」

「そう言っていただけると嬉しいです。私も西成さんと一緒に過ごせて楽しかったです」


 上目遣いで喋りながら微笑む東雲さん。なんだこれ。デートの帰り道か?


「そ、それで、私の部屋にご飯用意してあるので良ければ......」


 え、ご飯って東雲さんの部屋なの!?

 一晩一緒に過ごしたとはいえ、そんな簡単に男を部屋にあげて大丈夫か?

 まあ、ご飯はあくまでもお礼だし、もう作ってあるというのならありがたく受け取るとしよう。


「分かりました。ありがたくいただきます。ちょっと着替えてきますね」


 急いで部屋の中に戻って簡単に着替える。

 鏡で見てみるとやはり寝癖が飛び出している。そりゃあ寝てたってわかるわけだ。

 手ぐしで治る程度だが、ソレでも見られるというのは恥ずかしい。


 玄関では東雲さんが待っていた。

 てっきり先に部屋に戻ったと思っていたが、律儀に待ってていてくれたようだ。


「すみません、おまたせしました」

「いえいえ、じゃあ行きましょうか」




 いざ、突撃!隣のお夕飯!いや、なんか違うけど。

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