「分身。」~10代から20代に書いた詩
天川裕司
「分身。」~10代から20代に書いた詩
「分身。」
彼はサッカー選手である。彼は野球選手である。彼はバスケットボール選手である。彼はバレーボール選手である。彼はテニス選手である。彼は陸上選手である。彼は棒高跳び選手である。彼は走り幅跳び選手である。彼は100M走選手である。彼は800M走選手である。彼はハードル走選手である。彼は剣道の選手である。彼はあらゆるスポーツの種目で常に頂点を極める選手である。
又、彼は歌手である。作詞家である。作曲家である。テレビにそれ程出ずとも売れている。彼は詩人である。常に良い詩をかいている。又、彼は小説家である。常に売れるものをかいている。彼は芸術家である。絵画を描き、余程良いものを描いていて、人には理解できぬ程、常に良いものを描いている。彼は映画脚本家である。彼の映画は、人に売れるものと、そうでないものとがあり、使い分け、常に頂点を極めている。幾つか世間にも認められた。彼は作家の道でも常に頂点を極めている。
又、彼はピアノ弾きである。ショパン、ベートーベン、バッハ、ビバルディ、どれにおいても引けをとらない優秀かつ有望なピアノ弾きである。幾つかの作曲品も、世間に認められている。彼のピアノは、情熱に溢れていた。
彼は俳優である。数々の映画に出ており、ぞくぞくする程の奇才をも秘めていた。ドラマにも何本か出て、話にならなかった、ドラマの器では合わなかった。彼は若いながらに奇才を発し、数々のアカデミー部門で奇才故の評価を浴びていた。彼は奇才であった。
彼の器は底知れなかった。
彼は、どうしようもない壁を越えようとしていた。生れながらにして、目の前にある壁の真実、それから目をそむける事はどうしても許されなかった。それを生きる事だと知り、彼は自ずと、その壁に玉砕の精神でぶつかる事を努めた。散っても、それが真実である。生きていると、何かと“生きる光”のような刺激が、身をゆるがし、狂わせる。詰り、どうしても、その壁を越える事を望まなければ、仕方がなかったのだ。彼のところへ友人が来る。その友人の体は、否、体の内、雰囲気中が、光り輝いていた。彼は、自分の横たわっている姿を見ている事ができなかった。悩みである。彼はこれを“ハンデ”と呼び、障害と呼んでいた。苦戦である。一風、違った白衣の看護婦の姿も、彼の目には灰色く濁っていた。悩みは幾つもある。一葉の葉で、その病魔を非道し、あざやかに表したあの作家の心情のある場所へ、どうしても、知らず内に心が行ってしまう自分を、哀しく、少々、心強く思った。同情。彼は――…(作家の名)…――を読んだ事がある。
「哀れな勇者。」
その体はむなしいもので、強い力で叩かなければその身は地に眠るのに、その暗黒の強靭に向って日々、葛藤しているようだ。その勇者の真の力とは、常に、内に秘めているものである。
「無題。」
女の真剣。幼児の戯言。私達は、そんな戯言には尽き合っていられない。もしも尽き合う時は、それはあそび(戯)の時である。
「現代ドラマ。」
脚本はしっかりしていてもアメリカ映画(外国..)のようにはいかない。現代のドラマである。その大半が、普段つかわないようなピッタリしたロボットのような言葉であり、決して一言もまちがわない美辞麗句。それにしても、個人の底浅。(底がすぐに見えている。何の味もない。)東京にお似合いの使い捨てカメラよ。現代日本のドラマ。それはそう、悪く言えば玩具である。飽きてしまった面白味のない、幼児の玩具に似ている。それははじめから新しいものであるから、懐かしさもない。まるで別世界の玩具(ひょうげん)である。人は娯楽でさえも、見れなくなってしまった。
「TVの裏暴露の話を、あえて知らぬ振りで人に話した。すると人は、以前僕が、人から同じ事を持ちかけられた時に言った事と、同じような事を言って返してきた。それが計算だと。そして僕は又人に、その事を『やっぱりそういうものかなぁ、」と又あえて知らぬ振りで、悟すように言った。その一連の事は救いがある。人を信じているのだから。」
「労苦。」
誰かの身に起った悪い事が、他の者の良い事となる。それはこの世の人の錯覚の上において、よく目にする事である。
「成敗。」
自分の身を守るのは自分において他にない。法は人を守れない。法が守るのはいつだって、その人が死んだあとの事だ。そこで哀しみ、僅かな余韻がまわりの人達をおおう。しかしそれは永くは続かなく、すぐまた日々の苛立ちを見て、歩き始めるのだ。その死んだ者は、生きている者から見れば生涯不憫な者に映り、唯、そのどうしようもなさを、神にのみ依り頼むしかなかった。悪は、各々のところに起り、又、光も各々のところで起る。「食物連鎖」というのがあり、最期の火口を私は神のところと見た。その思惑の意味は、その者にしかわからぬ程他人(ヒト)の目からはくもっており、その思惑は常に、この世では孤独の地にあった。
「打算。」
私は、私が思っているようには他人(ヒト)には映ってはいない。その落差をなくするには愚かな打算が入った。
「秘密。」
あの笑いの秘密は知っている。流行を見たんだ。いい世の中だねぇ。袋小路の感情は、地下鉄の階段を、冷たい風と歩いている。一人というのはなかなかに辛く安心だ。ことごとく期待をウラギってくれるから。楽しくて々、しようがない。この世では、本当何にもしたくない。正直、それが正直だ。成功してもしなくても、この世では無に等しい。ほら、ごらん、おちぶれた武士も今やあんなに輝いている。
「分身。」~10代から20代に書いた詩 天川裕司 @tenkawayuji
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