~鉄の悶心(もんしん)~(『夢時代』より)

天川裕司

~鉄の悶心(もんしん)~(『夢時代』より)

~鉄の悶心(もんしん)~

 愉しいようで強面張(こわもてば)らない不人気の京都(へきち)を後(あと)にして俺達家族は〝レトロマンス〟と名付けた旧びれた湾港が街並みの煙の向こうに覗く望郷の地へと三身(みしん)を伴い駆け続けて行き、泡好(あわよ)くば体裁欲しさに何処でも息衝く事の出来る淡い人体(むくろ)を俺は着て居たようで、美しく外景を透す硝子器の内にはのほほんと淀んだ人の青い吐息が所々で跳ねては消えた。屈曲の炎天を保(も)たない独り善がりの屈葬から成る私牢(しろう)の内には誰とも解け入れずの天然(しぜん)の空虚を程好く滲ませ、そこから何処(どこ)へ行こうと人の青い吐息を落す程にと能力(ちから)を蓄え髭を生やした一匹の下流紳士がどうも今頃俺の自宅の軒先に降(お)り、玄関先から遠い〝不毛〟と謳われ知り得た東京の旧来(レトロ)を体好く隠して経過を彩る技能の破片を俺に与えて、父と母と、俺に纏わる傍人(ぼうにん)達とを見事に引き連れ、やがては落ち着く地の果て迄へと総身(からだ)を押した。急流下りが亀岡の巷で隠れて輝く、六月の矢先の事だ。

 身を粉にしたまま過去(これまで)の成り行きを振る袖任せに全身蓄え前進させ行き、我等二人の扶養へ一介にさえ通じ得る糧の美味なる美味を悉く両手両脚、満身へ載せ行き、験担(げんかつ)ぎから成る脆弱(よわ)い孤独(ひと)の一念を蹴散らす強靭性は目下転がる生活(からだ)に寄せ行き占領せしめて、オレンジの夕日が過去(かこ)に阿りつつも自活に漂い結果を得ると、途端にその結果の内にはそうして燃やした父の想念とも言うべき開化に見られた熱気が練り生き、俺が体裁捕えて身を捩る内にはその厚みを帯びた父の熱気は俺を飛び越え生活を果たし母を取り上げて行き、俺はこの身を唯居候させ行く扶養に巻かれた怪児(かいじ)と成り切る。如何でも自身を患い、自分の孤独が熱を抱けず種々(しゅしゅ)の固陋と運命(さだめ)を共にし息絶えようとする頃、予め分身し終えた俺の躰は主(あるじ)を待たずに独創始めて各々の身を刈る群緑(ぐんりょく)の生気に絆され過ぎて、俺は片身(かたみ)を失って行った。母の右半身が未だ麻痺して身を横たえて居る頃、空の茜が〝ぴぃーっ〟と鳴って尻込み付け得る晩秋だった。地質学者が透明の服着て我等に迫った晩夏を燃やし行く頃、道程失くした蜻蛉(ドラゴン・フライ)が遠くに浮んだ主(あるじ)を見定めつつつ、と躰を揺らして行く頃、二つの時期(ころ)には瞳の澄んだ奇麗な姉様がその身を落して人家に佇み、誰の人家か分らぬ儘にて俺の苦悩は青く燃え行く。その火の穂先はまるでその娘目掛けて飛ぼうとするがあの蜻蛉の羽一枚に命を救われ時の瀬流(なが)れた無想の苦渋に一つぴかりと咲いた採色兼美(さいしょくけんび)な施行を求めて割拠を煩い、途方を続けて、見ず知らずの獣の陣中はその体裁(み)を化(か)え行き生誕隠して、秘密に彩り始めた〝生(せい)〟の行方を数え始めた。白色に浮ぶ白雲は虚空の青さにその身を正し、何処(どこ)へ行くのもあの〝姉様〟と称され得た娘の姑息を具に取り上げ観測しながら、俺はやがて定年迎えて再び働きに出た父への讃歌を口遊(くちずざ)んだ。

 何時しか知れた川端康成氏が今度は黒のスーツに見えた和服を擁してさらりと着熟す姿勢の程度は風流に重なり、日々の生活(ながれ)に陽(ひ)が照り落ち行くのを黒いグラスに透かして見ればその異彩が明度に表れ白紙に表れ、過去(これまで)に知り得た映画のシーンや漫画の一シーン、果ては小説の舞台とも成る僻地のシーンをピックアップさせ行く無量(むりょう)の地域に我等の家族は振り落とされて、偉く寂れた場末の妖気(ようき)を吹き吐きながら優しく三身(さんみ)を迎えてくれた都会の鼓動に良く良く流暢なる小言はその後も連呼され行き、雲の主(あるじ)は人の親身が沈んだ古池の内にひっそり佇む存在(もの)だ、と俺だけ抜け出てこっそり想った。周辺(あたり)を尽きせぬ妄想(ゆめ)が飛び漂った七月の頃である。

 実際に自分達が居る場所が京都(ふるす)を離れた東京だと知るや否や人の噂を尻目に外して悉く小躍りする小心の行方は宛地(あてち)を求めて風来表情(ふうらいがお)をほっそり両手(て)に取り役に就いたが、何もかもが真新しいのと、技術が付かぬ試算の分野(はんい)で乏しく萎え行く勝手を知り行き、如何でも手放す事の出来ない生活機体は先ず宿探しを我等に呈したようで、これも誰かの小説の内で知った一場面での展開であると先ず俺が認めて、実家が在りながら都会と言えでも別地(べっち)に家を借りる等の変異がこの際斬新とも成り、行く行く身を置く我等の肢体は共動(きょうどう)して行く運命の始まる馴れ初めの矢先で結託をして、誰にも見せ得ぬ青黒い夕なの炎(やみ)に身を焦がして行くのだ。悠々青白く成り行くバスタブの端(はた)には又丸く白く映り込んだ洗面器と風呂桶が在り、三人家族が一致団(いっちだん)と成り行き護身と保身を世間へ向けて刃歯(やいば)を剥くのを俺には数段灯(ひ)の点され得た生活の気流に見て取れ、平々凡々と唯生活して来た受け身の躍動内には伽藍に似せた致命の嗣業がその身を呈して表し終え行く静寂(せいじゃく)の細微が程好く薄れ、仄暗い桶の底には黒髪(かみ)を乱したオルガが佇み、友人に姿を着せて手首を切りつつ俺に見せた感情(きもち)の程度(ほど)は〝先住の者が先に風呂場で倒れて、未熟な意識を天井(うえ)まで擡げて夢を止められ沈んだ歩行(あし)の枷には譲歩を弔う一色(いっしき)の命(こえ)を埋め上げ、その生気が居直り正して俺に急襲するのは果して怖い…〟といった、恐怖へ連なり旋律(リズム)を奏でる静寂の穂先に類似している。そうしてその〝穂先〟を呈した変秘(へんぴ)な男性(やから)は狂ったように自分の屍(いろは)を水深(みず)に浮かせて目下滴る生活(ながれ)の歩足(ほあし)に己を対して躍動し続け、〝お前の親友を必ず一人は道連れにする…〟とくどくど話して、対した俺には自身を按ずる鼓動に感けて親友(ひと)に阿る空力(ばりき)を見出さず、遂には自身を安全な空域(くういき)へ留めて置こうと化物(ばけもの)の到来に構えて在った。

 川端康成氏は黒縁の眼鏡を外したり掛けたりを試みながら目下佇む生活の両端(りょうはし)には始終を束ねる遊興の美学を位置させ止(とど)め置き、昔ながらに遊びに興じた憔悴を採る栄華を火照らす青い場面を、春の到来と同時に棄てさせて行った未熟な坊の良くない体裁(みのほど)を幾多も映した〝褐色シネマ〟に順折り吸い取り無宿を気取らせ、人の五指から素早く解け入り頭髪、頭皮を湿らせていた黒色のポマードを幾度も重ねて塗り込めたような滑(ぬめ)り照輝(てか)った黒髪である。その一本一本は奇麗に束ねられつつ真っ直ぐ背後に落ちて行くほど誰から観ても博士を気取って、到底戻り得ない額の広さは庭より遥かに延び得た博識を語り、姿勢(すがた)を尖らせ、旧来から恰幅保って立身させ得た白色の硬皮(こうひ)に華(あせ)を流して、安全神話を象る程に人の嗜好はその時俺には二身(にしん)を立たせぬ双璧の様に完熟を見せ得て、首から下を蜷局に隠した新たな斬新(すがた)は氏を若返らせた活源(かつげん)と成りつつ、その若体(じゃくたい)が無用に幾つも英気を発散したのか俺の母は氏の真面目を偉く気に入って居た。東京へ出て来て僻地を知り得ぬ俺達家族は夢見るように右往左往して居る三身(さんみ)を寄らせて必ず何処(どこ)かへ蛇行して行く当地の気勢に沿って歩くが、どうも勝手を知り得ぬ三身(さんみ)の行方は誰から観ても覚束ないまま丈夫が無い為、俺達の目前を誘導するように自転車に跨りまるで空を独走して行く康成氏は、その車輪を水に浸して転がる速度を採って目的地を決め、その見知らぬ目的地まで三身は従い寄り添いながら順応追いつつ走って行った。その頃には俺も康成氏に好意を見て居た。

 傍観しながら流れて行く太陽の麓、軒下に並べられて行く人の連歩(れんぽ)を見分けつつ足元止りに咲いた二人の決心を背後に斡旋し得ると、康成氏の服装は又も透明を帯び出し晴でも雨でも変り映え無い斜視のドラマを又足元へ呼び寄せつつもそこへ踏み入るか否かについては到底議論が向かずの人模様を俺と恐らく康成氏も何度か網羅して居た。日々起きた事をハイテク担いで他人(ひと)に伝わるようにと融解し得ない言葉のリスクを背負(しょ)って誰にも知り得ぬ凡庸から成るドグマへの一歩も優柔不断、具に拡げた小熊の社(やしろ)へ踏ん反り打って胸高鳴らせ行き人の骸を被(かぶ)っても、日々訪れる修行(しれん)の歩幅は俺の躰を鋭く跳び越え声も冴えない無業の境地へ少なからず挨拶する結束の展開に始終肥え出し、説明不足ならぬ説明の要(つ)かない孤独を固めた終章(エピローグ)を書き終えて行く。白紙に尽きせぬ個人の思惑は必ず二人で出来ずに煙草の灰燼の体(てい)して始終苦しむ人望の末路をふっと跳び越え、誰にも解せぬ孤独の文様(もんよう)を躍らせ狂う。はっきり何度も決心し尽す己の境地を踏もうが生え行く喝采の再来を今日明日夢見て悶取り打って、必ず心中(こころ)に浮いた言葉はどんな切れ端さえも滑稽等も全て書き行く事を彼(か)の康成氏の胸中(むね)に生き行く教義(ドグマ)に肖り抜き出て決めて、白紙が踊った今夜も躰は俺の元へと帰還して行き緑色(りょくしょく)の淡さを奏でて果て行く。

 心中(こころ)が白日に陽(ひ)が突き刺した下天の家屋(あるじ)へ戻って俺の火種は思惑尽かせぬ尽力の源を活性させつつ氏との語らい半分成りして白日の下永遠に託ける魅惑の界隈を構築しようと口蓋阿る人の骸は哀しく宿した彼(かれ)の親身を遠くへ宿し、一つの事へと身を粉にしつつも諸事(しょごと)に転々従事して行く望郷の門口を大事としつつ、明日から夢見る孤狼(ころう)の真摯を浮かべ行く程の淡く輝く人(おのれ)の情景に身を浮ばせ入(い)った。俺は〝我が根城〟と称し得た自宅の内に白色に猜疑を呈し得ていた展開から成る血色の真相を肌身に感じ遂には暴落し行き、何度か灯(あかり)を点して直前を明度へ引き出し明後日へまで身を引き連れ行くと、そこには算段尽きせぬ欠伸の効果が背を押し始めた。促されながら俺の眼(まなこ)は誰とも何とも見ずまま他の得意を全て失くして物書きだけに修行し行くと氏に呈した儘にて、両親から成る烏合の不安は何処(どこ)を侵食するでも無いまま唯白紙の前まで俺を引き連れ出しつつ日の凡庸を胡坐を掻きつつ妬ましながら、母の再来を人生(きろ)に阿(おも)ね行く俺の精神(こころ)が弾み返るを知る頃には呆(ぼ)んやり叫んだ日の凡庸とは又縁が切れたようにまるで知る処無く臨んだ屈託の有り丈を熱望(ほのお)に注いで、小言の絶えぬ日常循環へ伴奏(はんそう)して行く。小言は次第に孤独を知りつつ呼んでもないのに孤独の体(てい)した明日の浅ましさを人の有信(ゆうしん)にほっそり聞返(きかえ)し、明日は明日で柔らかさを知る泥酔の〝木通〟に己を観たのだ。何にしろ、到底自己と現実とが歯止めが咲き乱れるように身も本心も飛んで見知らぬ湿地へ降り立つ程に個人の気力は無力を吐きつつこれまで見せた他人(ひと)への評価待ちの群象(ぐんしょう)奏でた個人の思考を直ぐさま知った人の表情(かお)の活気が明日を呈した。身に覚えが無いほど俺(ひと)の主(あるじ)は何処(どこ)とも何時(いつ)とも無く表れては消え話し掛けては阿りして行き過去に遍(あまね)いた図書館の輝きが人の言動に束の間何かしらの効果を与えようとも束の間に咲く淡い出来心に依り何を見るにも程好く廃れて、併せて掲げた己の希望の程度(ほど)は然程の効果も待たずに知恵袋より姿を消し行く。他人が急いで自身の目前を善を賭して独歩(ある)いて行くのを唯母の再来がこの身に赴く明日(あす)の準備を構築して行く助走だと決めても人の小言は孤独を病みつつ嫌悪を受けて、卑しいながらもクラスが飛び行き断絶した一時(いっとき)の場面を繋げて行くのだ。俺はその私家から時を離れて康成氏を避け群青に燃え行く遊覧が俺に見せ来た何かしらの再来の程(ようす)を手早にてきぱき通れの四肢と一頭(いっとう)に味合(あじあ)わせるかとして黄金に輝く真昼の逆光を俺の頭上にぴかりと乗せて、足元及ばずなよなよしながらどれでも自身の門へと闊歩して行く日々の労苦を程無く吟味して行く俺の真摯はこの父を愛し、人生(きろ)を探して、まるで各々が別々の行動を取ったかに見え実は煩悩が二人を仕合せ、抑揚付けた小言から成る一舞台を俺と父との目前にて体好く拡げた。まるで一家揃ってピクニックへでも行こうとして居た父親の試算は俺と母とをこの別境地へ誘(いざな)うような誘算(ゆうさん)の様にもその身を惜し気も無く打ち壊した後(あと)まだ見ぬ暁を求め財宝探し、まるで人が人に恋歌を差し出す程に響く曖昧に浮んだぶっきら棒が俺の身に居座りながら俺は父の背中に有終の哀楽を妬み見て居た。そんな小言を露も知らない我が父親にはもう一つの愉しみとでも言おうか俺と目標を異にした理系が束ねる明確な儀式の様な音頭(もの)が在り、俺が北へ父は百八十度正反(せいはん)して身を辿らせて行く結託知らず夢游の強靭を身に秀出(ひいだ)し、しばしば慌てふためく俺と母とを珍妙に驚かせた。何時(いつ)もは我々の日常に上手く同化しながら苦労を返し、生活の内に明度を灯して三人家族が誰かへ会いに行くといった神秘でさえもその胸中(むねおく)へひっそり宿して無情を呈して、どっさり積もった焼け跡の苦慮を一つ残らず積み終えたその指先にて日々の儲けを換算して行く一連の周到は父を飛び越え、俺と母とに明度(きぼう)を見せた。自分達の行く先に彼(か)の康成氏が手を振りながら〝おいで、おいで〟をして居ないでも一向に目標を失わないまま尽力して行ける苦労の受け口をこの三人の頭上と胸中にて物理の範囲を失う程に受け取る覚悟と実験可能として行ったのは矢張りこの父親が制した一家の再来でもあり、それでも彼(か)の康成氏の呆(ぼ)んやりとした雲の隙間にその背の有色(ゆうしょく)を表すような栄華を火照らす思想の膨張の程度(ほど)は止まる事を知り得ず、淡い骸は三つに呈され各々知った無垢な人道(ドグマ)を渡って行った。彼(か)の康成氏が程好く剣(けん)を落して見せたあの〝栄華〟の惨劇が手首を切り落とした為か彼(か)の紅(あか)い滴りは我々まで届いて進速(しんそく)を速め行き、所々で垣間見えた俺の情緒が有限を合せた場面を繰り出させたようで一つに連なり傀儡が集う街中の映画館を構築したようで、そこへ向けて我等が進行し始めたのは真昼が没した日の暮れだった。始めは氏か俺達か互いが居止まる自宅を訪れようと画策して居たようだがどうも昼の明度(あかり)が各自と各所の細かな遣り場を目撃させたらしく、己の骸が唯欲する場所へと案内され行けばその途中にてその予定は変えられたらしい。

 荒く象り静めた生活の灰汁達をその身へ染めた俺の優雅は静かに独歩(ある)く街並みの喧噪を飛び越え伽藍を見定め静寂して行き併せ持った孤独の妖艶を遠くへ置き遣り他人を見定めその身の内から吹く空洞の匂いがする酸味を味わい、初めて辿った街であるのにその動静の内では人を象るノスタルジアが無数に戯れ身を折らせて行き、何処(どこ)でも縋り付き行く俺の見知った憧憬(あこがれ)の美味を嗾けていた。程好く安心の独特(オーラ)を眼(まなこ)が終(つい)せぬ望景(ビジョン)の内に見知った俺には両脚(あし)を止める理由の無いまま肩透かしに観た孤独の連呼を街中に住む傀儡達が我が身を削って吠えているのは叶わぬ欲情の絆しであると緻密に戯れ、外方(あさって)見知らぬ抑揚の付いた今日の牛歩が身を果てさせようとも追憶から成る自己の過去(データ)を畳んで掲げ、仰いだ虚空(そら)には苦痛も見知らぬ慧眼秘めた独白(いみ)が独歩(ある)いた。

 悠長に経絡され行く無鉄砲な吟味をその身に絆した遊離な街には俺が独歩(ある)いた昭和の旧来(レトロ)が程好く舞って正味を借り見て、合せ歩調にて道行く先には大きく小さく身を呈せずまま他(ひと)の噂(ことば)に咲いた球場が在るのを知って空は独歩(はし)って夜と成り行き、その球場では巨人阪神戦か巨人とどこか別のチームが戦ってるのを尻目に憶えてネオンがちらつき歩行の多い車道の真中(まなか)を渡って行った。手を繋ぐでもないが俺と父とは歩調が調う程に付かず離れず互いに団結(とも)して往来して居り、母は母にて身元を消さずに他(ひと)の合間を歩先に縫わせて蛇行して在り、見えないまでもその存在は確かに見えて、黒に静(しず)み行くネオンの光景(あかり)の内には今にも発(た)ち行く継続され得た火の粉の活性等が運好く解け込み、俺の夜(よる)には明日が覗けた。良く良く知るとあの野球試合の観戦券を俺はそれまで二人分を用意させられ持ってたようで、しかし時行く儘に体(からだ)が移ろい姿勢が移ろい場所が変えられ行く際にどうも何処(どこ)か何時(いつ)かに失くして居たらしく、観戦出来ずに高価な物に手が出せずに居る自分達の就労の度合が大したもので淡く安まる間も無い事を淡く知らされ、俺の気力は躰の内にて黙って沈んだ。東京まで来て団結され得た家族の結束の落ち着き先を暫しの遊興に講じて落ち着けようとも一切叶わず、仕方が無いので給仕(メイド)を探すと夜の内にも昼の内にもそこそこ頭脳を活用(つか)い体(てい)を促す抑揚の利いた鉄道仕事に準ずる程度(ほど)の珍妙真面目な一場を設け得たけど終ぞ束の間満足出来ずに、そこそこの頭と成り得る時間制の一職か非常勤職か人の寄り着かぬ職(もの)まで探して見たが全く駄目で日がな織り成す苦労が増長(ふ)えて、一通り周辺(あたり)を見廻すと父親から賛美を受けた。その新しく昼夜に芽生えた戸外は朝でも昼でも夕暮れであり、灰色(グレー)に咲いた畦道の畔(ほとり)では雀の様(よう)に女子(こども)が歌って遠方に撓(しな)えた家宅の刃は又綽(しなやか)に冷笑(わら)って佇み消えていた。水黽が水田を対岸(むこう)寄りに辷って行く頃、雨が降り出したのか、畦道(とおり)には談笑が湧かずに足取り消えて、ほろ酔い気分の童貞の少年は体(からだ)を熱して曖昧にほろ酔う苦味を覚えて行った。俺が最近夢の対岸(むこう)で託つ消えずに人の凡庸を欲しがり夕日に窄める「三丁目の夕日」を見知った故の灯篭の物語であったかも知れずに如何でも拡げた気色を畳まない遊興の美談はあの独歩が動く虚空(そら)まで昇って明日を欲しがり、温もり欲した時雨の空袋(くうたい)には底々(そこそこ)見知った落葉(おちば)が舞った。

 時間に糸目を付けぬ、と言いながらも常に己の完遂を先見て遠回りするように沿道を歩いた俺には如何にもこうにも目下の諸業(しょぎょう)に収拾付かず、〝これでよいのだ〟等と恩師を思わす夢想(ゆめ)の師匠に絆されながら、「書くのに苦労は在るか」と問うた吟遊詩人に〝いいえ苦労等は…言葉が響き合って自ずと、自然に言を発する詩人が出て来て歌う訳です。ですから「草原の歌」って題を付けた訳です〟等と応えた未(ま)だうら若い青年(こども)の姿がぽつんと独りで脳裏に焼き付き、如何でも消さねば等と又々即断(まるみ)を欲する俺の司書とは苦慮に身を遣り己を静める。このような日々、連動して行く始動を片手に如何在る自分(おのれ)の言葉に効き目が在るかと試論しながら遠くの青海(うみ)に視線を落して、父母が纏わり住み行く軒先の絆しに滔々己の木画が突っ伏し入(い)って、如何とも成らずの現実(じかん)の発破にオレンジ掛(が)けた夕日の火照りを頬に添わせる。この度明日へ運泳(およ)ぐ自身の活気が彼(か)の遠江駿河の湾曲をくねって身を成し、陶酔するまで待って見ようと試技に徹して値踏みを待ったが一向に現行踊らず事実を伝(い)わない目下の活気(ほのお)に気熱も冷まされ、明日への賛美は思惑(こころ)に落(お)つる圧政(さんか)に入る。

 気性が激しい目下の俺には加減を知らない怒涛の晴嵐(あらし)が暴雨の様にすげ隠されつつ周辺(あたり)を散らして、怒涛は怒涛で煉瓦の焼き場に腰据え身を躍らすほど白色が勝った陽(ひ)の温度には揺り籠揺らし期待と砕いて、解明し得ない尽した究明(じょうじ)の小言の傘下で身震いしながら女性を待って、孤独を拗らす連歌の如くに脆弱(よわ)り果てた知己の異相に究明(ゆめ)を見果てて、如何とも言えずの苦慮の余震に身を顕わしつつ孤独を描(えが)いて、未(ま)だ寝屋(ぬくみ)を冷まさず夢想(ゆめ)を見せ遣るまるで没我の遊泳の仕儀に追憶重ねた走馬の化身に友好を観て、身を起すと身近に動いたふと見慣れない水色が縁取る時計の針見て小さく高く、溜飲叶わぬ吐息を突いた。今より以前に功を放った我が家の黒色の机は今でもその実(み)に端を発して取り取りに寝就かす遊泳の程度(ほど)を具に諳んじ俺の帰還(かえり)を待ってたようで、枕に敷いた白色の端布(ケット)は今から夢想(ゆめ)に揺るがぬ基盤(どだい)を構築し得て有義(ゆうぎ)に囁く〝夢の番人(バロン)〟を成し得ようとその実(み)を粉(こ)にして有力を呈し、俺は俺にて、これまで通い詰め得た学舎で学んだ試験への追想に気後れする程身重な肢体(からだ)を精神(ゆめ)に帰すまで私的な情趣(じょうしゅ)を消化する際至難を知りつつ我聞を講じて、身を切りつつも、恐怖に阿(おもね)た魅惑の逡巡が青色の春に託け入(い)った小国(しょうこく)の回顧に追想し始め、猜疑と懐疑が混迷し得た心安箱(たまてばこ)の実(み)に身を躍らせ行く我が身を知り得た。辛子種が農夫の手に依り路頭に撒かれ、自然に芽吹いた総身の闊歩は心行くまで自然(まわり)を諳んじ自然(まわり)の情趣(じょうしゅ)を元気(たね)に化(か)え行きその身を延ばすがその黄土の延長上にて独歩を許され得た身は追随連なる七色のカラフルへ身を纏わせた孤高の牧歌を背後へ廻して外敵作り、予算を許さぬ至極の恋情を追随させ行くオルガの炎を算段利かして牧歌を揺すり煙を焚いて、俺の行方を魅惑の園へも誘導して行く主(あるじ)の両手は母を呈して、何処とも言えず、何時(いつ)とも見果てぬ友好の教理を具えた巷の教会(いえ)まで我が身を連れ行き光沢(ひかり)を発した人の模様は、女が数人屯して居る説教壇に差し掛かった。白色の照明の内に魚籠ともしない無教の心胆がその身を焦がして防壁(かべ)を造り、ちっとも揺るがぬ仕合せの音頭に我(われ)の居座る心地が無いと俺の教理は女性(おんな)を妬んでそっと出て行き背後へ廻した茶色の扉に理想に適った女性(おんな)を識(し)りつつ、女性(おんな)の常識(かたち)を人体(むくろ)に宿らせ、行くは我が身の妃にしようと憔悴して行く「我が陥落し潰えた波行(はこう)の勇気」はその実(み)を諦め、祈りの内でも没我を兆した優美の傘下は人体(むくろ)を留める…。

 現行失せぬ孤高の人煙(けむり)は俺の家屋(かや)から外に這い出て、熱泥(ねつでい)冷ました涼煙(けむり)の便りは夢に根差した「密会」想わす独我(どくが)を以ては気性を改め、生粋撓むる悠遠の美核(びかく)をぽそと呟き、如何とも出来ない人流(ながれ)の数奇を所々で失墜させ得て、夢の孤独は父を欲する妖艶から成る微香(びこう)をせしめる。我が身を捩じり、樞緩めて、白色冴え成る夜行の旅路は屈強隔てぬ緩みの嫉妬(ほのお)を程好く占めて無業を徹し、ふと多弁に成った俺と父との不毛の緩みは用向きから観て恐れを失くし、明日(あす)に向える下等の両脚(あし)には、「俺」の身軽を両脇(ふたて)に抱える「明日(あす)の露足(ろそく)」が静かに灯る。故に俺と父とは夢想(ゆめ)に照り得た草原から成る人足間近の涼風の内にて小言を揺るがす口角へ視点(め)を遣らねども徒党を組ませた団結同士の主(あるじ)の様に好く跳ね好く語り、何時(いつ)とは見知らぬ運協の彼方にその身を遣る程失墜させ得ぬ夢話(ものがたり)を言い所々で相身(そうみ)を束ねた。

 今度は母と俺との追憶から成る淡い視点を固(こ)として現行の行方に咲かせて見ようと孤高を発するモルガの体(てい)した一個の軍隊に視力を与えて進ませようと、俺の指針は総身を隠して外界(てきち)へ乗り込み、慌てた両腕にしっかり絡まる苦境の運河は如何(どう)でも反省せず儘思考を重ねた海へ出ようと没我を漁り、漁った深海の紺の内には様相構えた至高を称する無人の音頭が身を倣えし、次いで体温発する人体の様に身を着せ具現(かたち)を成して、俺が世間を罰して孤独を罵(ば)した先読(せんどく)の雷(ほのお)はその身を解かして体裁(からだ)を緩めて、最寄りに構えたK駅迄の道程(みちのり)には母と俺との共行(きょうこう)の末路を程無く訓(おし)えて周辺(あたり)はしんと静まっていた。駅まで行くのに予めその身を呈する吉井のバス停等には向かい合って駄弁り続けた幾数人かの女の群れが狭い路肩に幅を利かせて算段しながら(算談して居り)熱気を漏らし、空にはもう直ぐ程好く掛かる八分(はちぶ)に咲いた月光(ひかり)の源(からだ)を折好く足らしめ微風(やわら)を発して、体を寄せる女性の群れにはその温度を知る俺の躰が体好く衝動(うご)きその実(み)を引かれて行って、又何時(いつ)とも何処(どこ)とも知り得ぬ懐かしの望郷の園へと誘(いざな)う女の柔らを未熟に表し終えた活源(ちから)の孤独を夫々散った女性の身内に俺は認めてあわよくばを知る孤独の要素を事細かく微塵に味わい遂には終える共行(きょうこう)の温度(ドグマ)を我が身に塗った。何処(どこ)が何時(いつ)かにこの彼女等との思い出や接点が現行して行く過去の路肩へひっそり生きては居まいか、現在(いま)を生き行く俺の肢体は一体(からだ)を伸ばして模索して行き、雲行(うんこう)して行く風の真中(まなか)へ未熟を観れども躯(からだ)に咲かずの他(ひと)との連鎖(おんど)は独身(こどく)と対(つい)成る魅惑の身内に一端(いっぱし)から成る繁茂の惑わす繋がりを知り行って、端(はた)では知り得ぬ郎党の審査を物ともせず儘混迷しそうな当座の人力(ちから)を唯退けていた。僅かに衒った微風を思わす他との連鎖を夢想に挙げた俺とは別に、彼女等の現行を成し行く気丈の体躯(からだ)は指針を折り曲げながらも親身を知らない冷酷を宿して行き果て、俺の体温(おんど)は滅法矢鱈に女性の行方を追っては見るが繁茂の制した始終の柔らは棘の突き出た俺の未熟を故無く包(くる)んで観得なくして行き、路頭に迷った俺の果てには一線咲いた黄色の光が露わを控えて時を満ちさせ、俺の気丈を丈夫へ変え行きその両脚には常に支える地面が顕れ他とも話して、楽観極まる新たな展開(ゆくえ)への身の躍らせようとは、鼻を掻き掻き真摯を揮って、俺の非凡を脆弱成るまま解体して行き女は俺を忘れる事に終焉して居た。彼女等全員が俺を忘れて居た為俺の非凡は曖昧の身内(うち)に鋭利を失くし、小言を凡庸なる魅惑の園へと終始奏でて歩を出し芽を出し主張を返(へん)じて闇に生き行く勝利を目掛けて俺は生き行き、渡航に疲れた俺の躰は苦し紛れに魅惑を嫌って熱を失くした小言の連呼に女性(おんな)を忘れた。忘れ得た俺の躰は意味を嫌って何も咲かずの不毛の暖炉に投身する程両脚蹴って現在(いま)から離れる地面の丈夫は冷たく成り行き、過去に積まれて重なる地面の固さは草をも咲かせぬ高さと成って俺を追い掛け、未来へ渡る俺の麓は宙を呈した風のオルガと成って、夢中に解け出すドグマの数多は天地を繋げて一体と成し、自然の憂慮に我が身を引き行き孤立を勇気へ諭した我とは〝俺〟とも言えずの一匹の野良への変貌をこよなく愛し他(ひと)を退(しりぞ)け、一点から成る主体の指針の果てにはこよなく縋った神秘の姿が忘却させない我が根城を拵え優越間近に降臨していた。

 彼女等を退け終えた瞬間(とき)の時空は逆行を呈した様(よう)に再度(ふたたび)根城を悪寒へ帰して瞬く間に散る俊敏極まる女性(おんな)の情熱(ほのお)は虚空(そら)から下りた黄色い光線(ひかり)に肢体を活かされ次元を異にされ、何処かへ散った〝彼女等〟の跡地にはふと見上げた夕日が程好く差し当たった粗末に懐かしめる父の単房(たんぼう)が在る。遠くも近くも成らない俺の過去には父が仕事で身を寄せて居た枚方交野の荒林(あらばやし)に咲く平屋一軒の木屋(きや)が未だ哀愁呟く西日の内にぽつんとその身を真横に横たえ、俺の孤独が何時頃(いつごろ)来ても好いようにと横開きの木窓(きまど)を体好く掲げて俺の身を待ち、ゆらゆら温(ぬる)い底上げの微風を何時(いつ)も吹かせている黄金の田畑を目前(まえ)に生やして所々で身が立つその一連に散りもしないで命を掲げている。父が単身赴任で赴いた一度の隣家が粗末な佇まいを持ち何時(いつ)の季節も微風に吹かれて如何とも言えずの黄金疾風に目を眩ませられてもこの俺の身内に火照った秋の日長は魚籠ともせずに唯一匹の秋虫の延命に賭して傍景(ぼうけい)を眺めたように身の誂えに尽力して行き、翳りを見知らぬ夕日の黄金色には俺の帰還に唯献身的にその身を掲げる忘却の主(あるじ)が何時(いつ)も表情(かお)をあられに映して弱味を合せる包容の一途(いっと)を呈したようで、俺の身元は空(くう)を辿ってその空袋(くうたい)へと押し込まれて居た。

 唯わくわくと寂寥を感じ始めて数多の、幾多の慧眼が見知った出来事の矢先(さき)には日輪を云とも寸とも描(えが)いて解(ほつ)れぬ〝魅惑の園〟が表情(かお)と肢体を運好く覗かせ俺に悲鳴を見せ行き、そうして空々(からから)音を発てて順風を連ね行く日毎のオルガは主(あるじ)を忘れて流行の一端(いったん)を牛耳る徒党に組まれた活路を飛び越え、俺の身元を底上げする程勢い良く咲く臨風(りんぷう)の音頭に俺の正味は我を忘れて浪漫を味わい、尽きせぬ底冷えさせ行く京都の厳冬束ねる気骨の行方は何時(いつ)しか終った展開(ストーリィ)の内に咲き始めて居た。



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~鉄の悶心(もんしん)~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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