第9話 ミステリH ⑨ 告白

雨上がり、黄昏時、控えめな公園


のち晴れとなる空から燦燦と勇気が降ってくる


目の前には女


心臓が強く揺れるようで

ブランコが視線を掠めた


滑り台の頂点を見据え

少年なりの頂の征服感を思い出した


鉄棒は美しく背の順に並んでいた

成長と共に右滑りに鉄を変えたあの時


砂場とジャングルジム


遊具から疾うの昔に卒業した

目の前には女

弱虫は卒業したか

目の前には少女

あの頃から告白の類は

できなかった


恥ずかしかった、少年


ふいに少年が背中を押した


「好きです」


笑った

彼女が笑った


二つだけ決めていた

本気の想いだけを確かに、やる

しっかりと眼差しを、やる


少し照れてるように見えた、女


「本気かどうかわからない」


ハミルはそのセリフをしかと受けて、正直に全てを伝えなかった


5月21日に拾った一通のラブレター

これの犯人探しが妄想を引き起こし、女への想いを膨らませた。

これは、省略した


その上で真実のみを正直に話した

日々、君のことを思い憚っては頭から離れない

その想いは苦しみに変わり、気持ちを伝えずにはいられなかった


しどろもどろしながら言葉がうまく出てこなくて、言葉を一つずつ思い出しながらゆっくり話した

覚えたての文字をゆっくり注意深く発音する幼稚園みたいだった


20分程、思いの丈のみを話した


うんともいいえとも、言われずに

公園を後にした


・・・


帰りの電車の中

右ポッケにメールが届いた


(ハミル、ありがとう。

とても嬉しかったです。

あんなに正直に想いを伝えてもらえたのは、初めてのことで本当に嬉しくて。感謝しています。

本当にありがとうございます。

あの、私でよければお付き合いさせてください)


文面を読み終えた頃に最寄り駅に到着した

階段を駆け上がり、外に出て緑の中へ小走りした


人もまばらになったところで

ハミルは右手を突き上げた

名城公園の木々達がざわめいた


誰一人、木も草もベンチとてお前の恋模様などに関心はない


薄暗がりの中

彼の拳を祝福したものは

彼の拳だけだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る