~今日の夢~(『夢時代』より)

天川裕司

~今日の夢~(『夢時代』より)

~今日の夢~

映画「エクソシスト」の夢を少し久しぶりに見た。細い、(見方によっては広い)街の通りを神父の様な恰好をした二人が、私の所へ向かって来る。内一人は伊東四郎が演じていた。よくある、見ている側と、経験する側との成り行きを混流(混在)させた様な状況だった。何か、忙しそうにしている。場面が後先する。

 登場人物は伊東四郎、もう一人の神父、リーガン、藤本氏(私の元職場に居た)だ。何の脈絡も無い様に見えるが、元職場の名を見ると、何か、少々、脈絡性があるのだろうかとも思う。夢とはこんなものではっきりしない。唯、エレン・バースティンが出て来なかったのが不思議な位である。

 リーガンがソファの様な物に座り、というより寝そべって、僕の方を見て居り、あのダミ声と、恐ろしい形相を以て語り掛ける。台詞ははっきり憶えちゃ居ないが、誘っていた。大きく小さく股を開き(しかしスカートの長い物を履いて居た様に思うので、実際に観た映画でのあのネグリジェを着て居り、チラリズムを醸し出して居た様に記憶する)、手を差し伸べて指を歌手の中森明菜がよくする様に小指から折り曲げて誘う、いった粋な行為をする。顔はやはり笑っている。TVで見た、自分の局部に右手を持って行き、ゴチョゴチョする様なあの行為をするのか、と予測したけれどそこまではなかった。少々、誘って、それで終わりである。見透かされて居る様なので(僕が予測した事により)嫌になり、態(わざ)としなかったのかも知れない。その行為は暫く続くが、〝自分が誘われた〟と僕が思った事を知った様子があり、その辺りからは熱心なものではなくなり、リーガンの顔はあさってを向いている。声だけは、こちらに向けていた。僕は、リーガンに見透かされている、否、悪魔パズズに見透かされていた様だった。苛立ちが少々あったが、仕方がないと思った。今の自分の生活を思えば、こうなるだろう、と。自分は色魔に取り憑かれているもの、とする思惑が、僕には在るのだ。これは日頃から考えていたものであり夢の内にも影響している様子で、仕方がなかった。今講義で「狐が嫁に化けて男の家に来る」という話を何気に教授はしているが、その話を聞いてさえ「ああそれでも良い、それでも何でも良いから、俺にも女が欲しい、嫁が欲しい、理解者という名の嫁が欲しいよ」と思ってしまう程である。密かに、以前から比べると、自分の程度は重傷だと思っている。これだけの身の上だから「色魔」の「魔」とは「悪魔」の「魔」であると私的に捉えた上で、自分に取り憑いて居る「色魔」を「悪霊」の一種だとしている。弱さ(脆さ)がそこに在った。このエクソシストという映画の恐怖とは、いつどこででも襲って来る普遍的な恐怖に基づいて居る様にも思え、人の「心」という弱く、あやふやなものにいつでもメスの様な物、指、がすっと入って来るような恐怖感を煽る摂理の様なものが在る、と考えている。僕はいつも、この映画に、否、この現象に、そこでやられる。

 リーガンの誘いは(その行動は)短いものだった。僕がすぐに誘い乗るだろう、ときっと踏んでいたのだ。榎本保郎先生のこの言葉を思い出す。「悪魔を安心させる者に悪魔はそれ程執着して誘わない。こいつは放って置いても大丈夫だろう、とされてこの領域(悪魔の側)から暫くでも抜け出る事はないだろう、と安心して自由にさせている。この「自由」とは悪魔が知る処であり、やはり悪いものである。…悪魔というのは、いつも決まって必ず、いざ、という時に出て来る(私は、この辺りを現実に於いて詳細に憶えている為、この「いざという時」というのは、人が神の側に付こうとする時、だと私的に解釈する)」というもの。僕は、何かこの時、リーガンの顔(向こうを向いたり、時々こっちを見たりする行為、又、その姿勢、情景)が、その様に「安心」を言っている様にも思えた。「これではいけない、どうにかしなきゃいけない」とその時、又その後で、僕は思う事になる。僕はベッドにぺちゃんと座っていた。リーガンは右斜め向こうのソファ(確か赤かオレンジ色した物)に堕落した様に足側をこちら側にして、寝そべっている。そして、僕とリーガンの左隣にもう一人、時々、窓から入る明かりを背にして誰か居た様な気がしたが、結局わからない。その人は伊東四郎にも、他人にも、変わるのだ。(それまでに、以前同じ元職場で働いていたKTが、AV男優の大熊金太郎に襲われる、否、正確には襲われ掛ける、という光景をその同じ夢の内で見ている。私は二度寝していた様子が在る。それ等の影響等もあるのかも知れない。この「夢」については又、改行して書く。)僕は、気付いた時には、又、案の定、リーガンの胸にしがみ付き、露わに成ったその乳房を揉んで居た。以前からも時折見せて居たが、リーガンの様子はチラッ、チラッ、と怖くなくなったり怖かったり、美しかったりするのである。よくある、悪魔得意の人に対する変わり身の早さ、だと感じる(思える)。手招きされた後、僕は素直に従ってその乳房にしがみ付き、しゃぶり付き、リーガンの体と顔を弄んで居た。「こいつを犯せ!」の、映画(小説)でのパズズの声(言葉)が思い出される。しかし、僕はその時、リーガンが足を開き、愛液の様な緑色(?)(よく憶えて居ない)した液体をテロ~~~っと右手、左手に付けて引き延ばし、「ここも舐めろよ」とパズズに憑かれたリーガンは誘って来たのだが、乗らなかった。今までの教訓で、女性の陰部は汚い(不潔だ)という思いが生きていたからだった。僕は、女性の陰部は舐めなかった。舐めたくなかったのだ。しかし、拒否しても、もはやリーガンは何も焦って居なかった。「ついでに」、位に思っていた様子だった。僕は、リーガンをモノにして、パズズは僕をモノにした、様な様子(情景)が在る。このパズズは、僕にとって、の場合は「色魔」に摩り替る訳だ。心当たりが今在るのは、この「色魔」だけである。否、先ず、この「色魔」である。

 僕は、「色魔」に負けるのは、心のどこかで、仕方がない事、と思い込んでいる節がある。男に生れたから、という理由に依るものであって、それ程のものである。

 誰かが、このリーガンと僕の密室の中に、勢い良くドアを開けて入って来た。そこで一旦、この空気は途切れる。リーガンの胸は妙に綺麗で、それ程大きくなく(少女を思わせる)、しかし弾力がある様子で、手触り、肌の感触は、相応に良いものだった。

      *

 外に出ていた。リーガンはほんの子供に成って居り、まるで三~四歳(否、もう少し年上か)程に成って居り、エレン・バースティンではなかったが、母親役が登場していた。しかし、この母親は誰なのか、てんでわからなく、登場人物(先述の)には挙げなかった。それ位の存在である。親子(母子)の関係と情景を表す場合に、役に立っていた。藤本が居た。藤本は僕の事を気遣ってくれて居た。伊東四郎が間道を縫う様にして向こうへ歩き去って行く。

 山が在り、登る。皆も一緒だった。山の上にゴールの様なものが在り、神父を含めた仲間とそこで会う予定だったが、道程は遠く、山の間道・山道の様な場所を僕と藤本は歩いて居た。ここで藤本は煙草を吸う僕を気遣い、灰皿の有無に配慮し、進もうとする道を選んでくれて居た。皆集まって、リーガンの中の悪を退治する算段をしようとしていた。リーガンは、何か、デパートの様な所で、泣いていた。泣いて母や、皆の注意を引くのである。ここら辺りは、〝オーメン〟の要素が含まれている様子だったが、その効果と背景が功を奏してか、我々はなかなか落ち合えない。山とデパートは、夢の中故に距離感がなく、どこかで繋がっている様だった。リーガンは、この「落ち合い」を妨害している様子だったが(泣く、等して)、別に、会ったら会ったでも、とりわけ、焦る節はなかった。

KTが金太郎に犯された。僕は滅茶苦茶に嫉妬して、自分がKTを犯したいという衝動に駆られた。金太郎が彼女の太腿に執着しなかった事が不思議で、又、早く自分がKTのあの足(太腿)を取りたかった。金太郎には妹が居たのか、後で急に真面目に成り、警察から逃れアジトに居たが、KT(?)を抱えて歩く時、センサー(床に在ったボタン)を踏んで、警察は来た。

警察と金太郎は知らぬ間にどこかへ消え、抱き損じ落としたのか、KTが自力で逃れたのかして、僕の目前にはやたらと古びた水道(蛇口)があるアジトの舎と、人里離れた様な鬱蒼とした森と、汚れたと知るがそれでも可愛らしく見えるKTだけが残った。しかしKTはもう遠い僻地に居る人であり、その顔も身体も見る事を許されない存在である。

空は曇っていたが、不意に雲の隙間から一線の陽が差し、陽の輪が出来たその内にKTは居た。「助けてくれた礼に」とKTは僕が欲しくて止まない肉付きの良い太い太腿を目前で開いて僕を誘った。その恥ずかしそうにしている少女の様な表情に〝手招き〟が見えた。大好きな太腿の根元にはあの緑色した液体が出て来そうな少々黒い局部が在る。僕は当然の様に、知らぬ間に、そのKTにリーガンを重ねて見、結局は同様だと後退りした。やる事はやっても気分が晴れなかった。その後KTはうっすらと白い両腕を伸ばして少々汚れた白いブラウスの袖に腕を通し体裁良くして、最後にニコッと僕に向かって微笑んでから忙しそうに山を下りて行った。山の中でカラスが鳴いていたがすぐ消えた。僕はそこにあの赤い、オレンジ色したソファが在るか否かを確認し、ない事はわかっていたが、尚KTとリーガンの誘いを重ねようとしていた様子がある。もう、誰も泣かないが、僕と女の間に在る「色魔の壁」の数を一網打尽にする様に取っ払おうとはするが、生きている以上それは無駄で無益な努力だと、密かに思っていた。



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