第5話 山賊討伐の嘆願



 町の入り口には長蛇の列になっていた。


 町に入る人や商人などでみんな並んでいる 、俺も列の後ろに並んだ。


 町に入るには入町税を払って入るのだが、領民ならタダで入れる。


 俺の場合は村の名前を伝え、ここに来た目的を言えば入れるのだが。


 「俺の住んでる村って、確か名前が付いてないんだったよな。」


 さて、どうしたものか。名も無き村ですと言って通じるかな?


 一応町の南に位置する村だと言えば、話が通る可能性があるが。


 そうこうしていると俺の番に回って来た、衛兵がこちらに来いと手招きする。


 衛兵の元に向かいながら声を掛け、挨拶をする。


 「こんにちは、ご苦労様です。」


 「挨拶はいい、お前の身分とこの町に来た目的は?」


 衛兵は端的に尋ねる、俺は答えを考えて言う。


 「名も無き村のジョーです、ここへ来た目的はマーロン様に嘆願したい事がある為です。」


 「嘆願か、お前の村の村長の名前は?」


 「モーリスです。」


 「だったらモーリス村と言わんか! 頭の悪い奴め! 入って良し! 次!」


 何だよもう、子供の頃から名も無き村って言われて育って来たんだから、知る訳ないじゃん。


 俺は会釈をし、壁の入り口を潜り町中へ入る。


 前世にやっていたゲーム「ラングサーガ」の知識を思い出したって、小さな村の名前なんて出てこないし。


 「まぁいいや、よーし、取り敢えず町に入る事は出来た。」


 俺の記憶にあるゲーム知識によると、今俺が居るのはロファール王国という島国だ。


 島国といっても中々広大な面積をしている、ロファールの副都市がここマーロン伯が治めるマーロンの町。


 副都市だけあって中々活気に満ちている、港もあるから人、物、金、それらが行き来するので、要衝になっている訳だな。


 「人が多くて迷子になりそうだ、俺の目的は領主様に会って、村に起きた惨状を伝えて、山賊を何とかして欲しいと嘆願する為に来た訳だ。よし、早速行こう。」


 マーロン伯が居るのは、おそらく一番デカい屋敷だろう。


 町の高台に一際目立つ屋敷がある、多分あそこだ。


 大通りを進み、俺は通行人にぶつからない様に避けながら歩く。


 馬車なども行き来しているから、轢かれない様に道の端っこを行く。


 それにしても流石都会だ、道行く人は人間ヒューマンだけじゃない。


 エルフにドワーフ、ケモ耳ケモ尻尾の獣人族もいる。小人族もいるし、中々ファンタジーしてる。


 「そうか、俺、異世界転生したんだよな。今更になって実感してきた。」


 大通りを歩く事数分、俺はデカい屋敷の門前までやって来た。


 門の両脇には衛兵が立っているので、間違いなく領主様の屋敷だろう。


 俺は近くの衛兵に声を掛け、目的を伝える。


 「すいません、ここはマーロン様のお屋敷でしょうか?」


 衛兵はこちらを一瞥して、フンッと鼻を鳴らして答える。


 「何用だ? ここはマーロン伯爵様の屋敷だ。貴様のような小汚い奴がおいそれと来ていい場所ではない、用が無ければ立ち去れ。」


 何か感じ悪いな、こいつ。


 「用事ならあります、マーロン様に是非お伝えしたい事がありまして。」


 「伝えたい事?」


 「はい、嘆願したい出来事がありまして、モーリス村からやって来ました、どうかお取次ぎを。」


 俺が言い終わると、衛兵は顎に手を添え、思案したのち返事をする。


 「嘆願したい出来事とは何か? 手短に話せ。」


 何か偉そうだなこいつ、俺はマーロン伯に伝えたいのだが、まぁいいや。


 「はい、実は自分達の村が山賊団の襲撃を受けて壊滅しました、生き残ったのは僅か数名、お願いです、どうか山賊を討伐して下さい。」


 「手短にと言っただろうが! フン、また山賊か………………。」


 また? 俺以外にここに来た人が居たのか? 


 他にも山賊の被害に遭った別の村とかがあるのかもしれない。


 山賊団め! 規模が大きいのか? それとも………………。


 「嘆願は解った、マーロン伯爵様には伝えておく。立ち去れ。」


 「ちょ、ちょっと待って下さい。自分の口でお伝えしたく思い。」


 こいつは信用できん、マーロン伯に嘆願の内容を伝えず仕舞いの可能性がある。


 なら、自分の口で伝えた方が良いに決まっている。


 「ええーい! 伝えると言っておろうが! 去れ去れ! 邪魔だ! マーロン様は忙しい方なのだ! お前の様などこの馬の骨とも知れぬ者にお会いになる訳無かろう! いいからどこかへ行け! 邪魔だ!」


 何だよこいつ偉そうに! 俺だってここまで必死こいて来たってのに!


 「そこを何とか。」


 「しつこいぞ! 邪魔だ! 去れ!」


 衛兵の目がキツくなってきた、これ以上ここに居たら牢屋へ入れられるかもしれない。


 「お願いします、マーロン様に是非お伝えを!」


 「解った解った! さっさとどこかへ行け!」


 「よろしくお願いします。」


 駄目だな、これ以上は頑として譲らないだろう。衛兵はこちらを睨み付けているし。


 仕方ない、こいつを信じて立ち去るか。正直、信用出来ないけどな。


 屋敷を後にして、俺はあても無く彷徨い、広場の椅子に腰かけた。


 「そういやあ腹が減ったな、どこかで飯でも食うか。」


 辺りをキョロキョロと見回し、食事処を探していると、武装した人達が出入りしている建物が見えた。


 「あれは………冒険者ギルドか。」


 丁度良い、折角ここまで来たんだ。冒険者ギルドへ行って登録をしてこよう。


 冒険者になって、色んな所を見て回るのも良いかもしれない。


 折角異世界に来たんだ、冒険者になって活躍したいと思うのは、俺が男だからだろうか?


 「自分の力を試したい、このユニークスキルがどこまで使えるか、やってみたい。」


 親父とお袋が死んでも、涙一つ流れなかったのは、俺が日本からの転生者だからなのか?


 前世の記憶には、一馬だったときの両親との死別を経験した過去がある。


 それでなくとも、カリーナを助けたい思いはある。


 ああ、強くなりたいな。


 せめて、自分の力で、運命を切り開けるぐらいには!


 

   マーロン伯爵の屋敷――――



 屋敷の中、執務室の机の椅子にもたれ掛かけていたマーロンは、衛兵からの報告を聞いていた。


 「以上が、先程嘆願に来たモーリス村の若者の言です。」


 「ふー、またしても山賊か。報告ご苦労、厄介な事この上ないな。」


 「はい、では、私はこれで失礼致します。」


 衛兵は敬礼をし、執務室を後にする。


 それと入れ替わる様に、扉を勢いよく開いた女性が部屋に入って来た。


 「お父様! 聞きました、何故山賊を野放しになさるのですか?」


 「エステル。」


 マーロンの娘、エステルが血相を変えて詰め寄る。


 「このままでは、村が全て失う事になります! 早く手を打つべきでは?」


 「立ち聞きとは行儀が悪いな、エステル。」


 「お父様!」


 「お前の言いたい事は理解出来る、だがな、山賊団の戦力はおよそ三百の大所帯、対してこちらで使える戦力はたったの五十。これでは兵を死地に向かわせるだけだ。」 


 「ならば! わたくしが山賊討伐に向かいます! ラケルお兄様と一緒に!」


 「ならん! お前は大人しくここにおれ。お前が聖騎士を目指しているのは知っている、だが危険なのだ。ラケルを巻き込むな。」


 「いいえお父様! わたくしは行きます! これ以上山賊に我が領土を踏み荒らされたくはありません!」


 「気持ちは解る、儂だって何とかしたい。だがな、兵の数が足らんのだ。せめて王都から援軍があれば。」


 「援軍など、あのゴッタ宰相が送るとでも?」


 「………無いな。だが、今一度王妃リーザ様へ手紙を送れば。」


 「その手紙が届いて、返事が来るのにどれだけの時間が掛かるのでしょう?」


 以前にも、手紙をリーザ王妃に送ったのだが、返事は無かった。


 マーロンもエステルも、山賊の問題は頭を悩ませている案件だったのだ。


 しかし、いざ討伐となると兵力差の問題から、軍を動かせないでいた。


 「お父様、領民が苦しんでいるのです。早く手を打つ為に、わたくしが出動致します。」


 「ならんと言っている、お前は女だ、ここにおれば良い。ラケルを向かわせる。」


 「いいえお父様、わたくしも行きます。」


 言うだけ言って、エステルはズカズカと歩き、執務室を後にした。


 マーロンは頭を掻いて、髭をしごき、考えを巡らす。


 「エステルめ、一体誰に似たのか。」


 ロファール王国は島国だが、他国よりリーザ妃を迎えた王は今、不在だった。


 カナン王国とレダ王国の戦争が始まり、リーザ王妃の故郷レダ王国の為に王は動く。


 ロファール王は国内で徴兵し軍をレダ王国へ派遣した為、ロファール王国は守りに不安の残る状態で国政を行っていた。


 王都を預かる宰相のゴッタは、マーロンとはこの上なく不仲であったので、迂闊に援軍を頼めないでいたのだった。


 マーロン伯領の町は、たった五十の兵で守らねばならない状態であった。


 「ラケル、頼むからあれを、エステルを頼むぞ。」


 マーロンは一人、頭を抱えながら呟いた。




 











 




 





 


 


 



 

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