~向上~(『夢時代』より)

天川裕司

~向上~(『夢時代』より)

~向上~

 何とも言えない白い洋館の様な場所に俺は居り、そこに集ったアイドル、スタッフ、友人、知人、司会者、等と共に俺は、何の会かも知らないが、芸能界が催す運動会の様なものに参加して居た。タモリが司会者であり、最後のゲストであった。

 賞金○千万円が掛った勝ち抜き戦仕立てのクイズレースであった事が段々白い霧の中から浮かび上がる様にして分った。そこで参加者は俺とアイドルと友人・知人、その模様を撮るスタッフとに区別して分れ、それぞれがそれぞれの体裁と分を守って居た様だった。体育会系用・レース用にと分配されて居た競技服(それぞれの色した短パンとランニングシャツ)に男女共が身を包み、ワンヤカンヤと相応の楽しそうな時間を過ごす中、一瞬にしてバックが暗闇の薄いガラス板の様なものが現れ、パリィンと割れ、その割れた向こうに(同じく暗闇を背景として)「エクソシスト」(ウィリアム・ピーター・ブラッディ著)に登場する悪霊パズズが現れて居り、その「ガラスが割れる現象」はそうした運動会のワン・シーンが奏でたものと上手く一致するかの様に何かに計算されたものの様に俺には思えた。まるで運動会中でのその「パリィン(ガラスの割れ)」は〝パズズの出現〟とは確立された現象の様に思えたが、パズズはそれが「一緒だ」と語る。誰にも分らないでも俺だけには分る、として俺は唯自然に身を任せて居た。この夢を見た日の昼頃、俺は大学の図書館で原文の「エクソシスト」(ピーター著)を探して居たのだ。

 しかしパズズが出現したからと言って別段何も変わった所も様子も無く、我々(俺、スタッフ、ギャラリー、アイドル、友人・知人)は卒なく熟して行く一つ一つの競技に得意気に成ったり気落ちしたりしながらも、やはり楽しんで居た様子で、内の競技種目の一つ、借り物競走に皆して参加する事に成った。何故か借り物競走なのに、学校の体育館等で良く見るジャンプ力測定で使用されるセンチ目盛の付いた細長い黒板が目立つようにして、立て掛けられて在った。やはりその借り物競走が始まった際に場所はどこかの学校か施設のどでかい体育館に変って居た。その体育館の(校長がよく式辞を述べる)壇の上でタモリが(黒い背広姿で)会の司会(進行役)をして居り、祝典でもないのにリボンの巻き付けられたマイクを手に持ってボソボソといつもの退屈な言葉を唯並べ立てて居る。

 その借り物競走に成った途端に、私が中学校の時に知り合った曽川が俺の目前に立ちはだかった。借り物競走開始のパンが鳴り響き、私はタモリからメモを手渡され、そこには〝最後の試練〟と明記した後に、ハブラシ、煙草、海苔、酒(確か、出来ればウィスキー等と書かれて居た)、服、等と簡単に手に入る物から日常品の細々とした物に至るまで、〝各自集めて来るように〟と言い切って居た。そのメモを手渡す際、周りにも多くの選手が居るにも拘わらずタモリは、俺だけに横目を投げ遣って手渡そうとして居た様に見えた。が、その手書きで書かれたメモをその身長差を利かして急に横から出て来た曽川に見下した様な笑みを浮かべられながら熱気の中、「スッ」と奪われてしまった。私にはその様に見えた。負けても仕方ないか、と自分と相手との一五㎝強程も在る身長差に尾を引く様な落胆を覚えながらも私はなるべく客観的に、第三者的にそれ等の光景と情景を眺める事に努めて、又別の楽しみに夢中に成ろうとして居た。

 こんな、アイドルがする何々合戦の様なものは昔から芸能界ではよく在り、その内でアイドルもスタッフも観客もその一つに向かって皆がどこかで総力を挙げて夢中に成れるのだなぁ、と少し感心した様な目付きを以て、俺は自分に与えられた純朴な役割を熟すと同時に、早く別の楽しみに投身したがって居た。「昔流」の「流」の字が「龍」の字に見えて、現実では考えられない位の奇想天外、イメージ、夢、が飛び交う天空の御殿へ皆して飛び立って行く様な、そんな幻影を見て居た様な気がする。全てが豪華に、チャチく、一瞬、一瞬、断片の様に切れ端しか見せずに次から次へと豹変して行く為、「~の様な気がして」としか物を捉えられない自分が居る。しかし〝夢の力〟が奏して俺は遂にその〝断片〟を一カ所に集める事の出来る箱の様な物を手にし、全てを把握した上で、ここで光るどれもこれもが「自分の為に存在する物」として捉える事が出来、挙句に一緒に競技に励んで居た女子アイドルの女体に目が入った。一生懸命与えられた競技を頑張る俺にその彼女等の女体は密かに「静かに」誘い掛けて来て、頑張りながらも俺は「これで良いのか?もっと俺の気ままに、自由に、奔放に楽しまなくても良いのか?結構あの子美味しそうで、…美味そうな身体をして居るぞ、きっと触り心地は抜群だぞ、良いのか?このままこの競技に身を挺して居たら結局お前は身を持ち崩す様にして後悔し、奈落の底へ堕ちて行く破目に成るぜ…」等という誘惑が不断(ふんだん)に飛び交うが、同時に、「騙す爽やかな顔」がその「女体達」から見え隠れして居て腑に落ちないのだ。

 まるで司会者から貰ったその白い紙(メモ用紙)がサービス券か何か、特別な事が出来る為の証書、或いは中国の三国志時代に君主・皇帝から部下に手渡される特別な効力を持った命令書、の様に姿を変えて今(その時の)俺の手元に在る。曽川は知らぬ間に俺に〝一つの目的は果たしたから俺にはもう用無しだ。これやる〟と言った形でその紙(メモ紙)をくれた様で、俺にとって掛け替えの無いそのメモ用紙はきちんと回り回って俺の手元に在った。この紙は「用心」に使うのか「尻を拭く紙」に使うのか未だに分らない俺はそれでも密かに自分にとっての幸運を期待し、ここで働く住民、又俺に紙をくれた曽川までを「自分の物」にしようと躍起に成って居たのだ。この夢を見る前にその同日、俺は(大学の)図書館で長渕剛著の「前略人間様。」を読んで居た。その時もそうだったが、俺は長い事随分憧れて来たその長渕が大した事は無いと高を括れる身の上に成って居た。その書いて居るものに共感出来る範囲が少ない、と感じ始めて居たからだった。



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~向上~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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