~空に浮かぶ島~(『夢時代』より)
天川裕司
~空に浮かぶ島~(『夢時代』より)
~空に浮かぶ島~
透明の飛行機が空から落ちて来る頃、途轍も無く大きなギンガムチェックのエナメルスーツは雲間の内から陽光(ひかり)を浴びて、大胆不敵にもまるで人々の頭上を覆って来る様子であった。暫く何も書かずに居たロバートと称する日本人こと俺は、この途轍も無い機会(チャンス)に巡り会えた事を未(ま)だ手放しには喜べないが手中に収め、胸中実り豊かなドルフィンの葛藤を散々希望と共に掲げた儘にて無償の報酬を貰える目下の残党の内に自分の分身を覗いた様(よう)だ。あらゆる危機的な進化を遂げて来た此処日本に住む日本人でもイタリア人でも、同じミスを犯すのならと、次第に高まる虚構の病苦に打ち勝つ陽を見て四肢を四方に芽吹かせ、自然に依り与えられたもう見得ぬ空気を吸い込み、闇の内より人間の姿を象って行った。何も賞状等無い天下の豪勢に苛まれた儘何時(いつ)かは命を空高く持ち上げようとして折れた翼を漸く拡げて、黒く縁取られたPC(パソコン)の内より外に放り出された身体(プライド)の銀色を唯当然と大事にして居た。海が割れてその狭間より何者が出て来ても驚かない、と言った風来の姿勢で臨んだこの小春日和の内では、都会も田舎も燃え尽きないまま際限を尽して行く迄人の希望を縁取り危踏み、一度は人人を困らせて蛻の空とも成った一個人体の様な自然の骸を白紙の儘にて帳を破らせ、人にとって未だ知らない望郷の心臓部に在る鼓動の音迄、孤独と共に聴かせて行った。通り一遍の修行を終えた人草(じんそう)の丁寧な発声ではこうした濃く輝く古色(こしょく)の一層を受け取れないで、机に拡げた自由への活路へ全き炎の灰燼を携えた儘にて自身への悲愴の挽歌を掲げて行くのだ。これは人の諸相で在り田舎の小言でも在り、〝寝耳に水だ〟と孤独迄の人の悲愴の程を掴み損ねた有名無実の下等の程を終ぞ見ぬ儘、一人部屋にて小さく佇む孤独を呈するのである。白染(しらじ)んだ哀れな孤独を人の文句と合唱されても誰も尽きない命の火照りに身を突き出す儘、自然はとっくにこの一連の縦列を見納め何処か見知らぬ人の郷里へ還った様(よう)だ。何も書かずに幾日も過ぎ、人の諸動(しょどう)は怯える事無く世相の渦へと丸め込まれて、何処吹く風と又見知らぬ悶絶を想定したまま字を書く人の早さに起草を重ねた。今し方にも電話が鳴って白日の晴天日和を教えてくれる者が自分の周りへやって来るか、と時折り電話を見ては又悲観に暮れて行く…。俺はこの頃白張(しらば)っくれた黄泉の州(くに)へと片足入れて、もう一方では俗世の怪人と対決して居るように何時迄経っても先が見得ずの路頭を知った。キリスト教へと改心すれども幾日経てば夢想の眼(まなこ)に現実灯して、或る友人と或る罪悪とを枯れ木に見せつつ、縦横無尽に野を駆け廻る孤高の体裁に身の程を窄めて堕とし、明日(あす)からの陽をと、天涯孤独を何かに偽り今も居座る。先人に見た文士の輝きを漸く爪と筆先まで灯して、傀儡の身元から一端(いっぱし)に成れたと喝采したのに、自賛への空路は腕を揮って俺への声を震わせながら、又都会と田舎の超絶死闘を拡げて見せた。何枚も何枚も白紙を燃やして自ら命を書き込み自然を写して孤独と永遠(とわ)を描(か)き続けたのに、いざ他者へ向かおうとすると死にたがってた鼓動が頭を擡げて意識を直し、白熱するまま言葉を吟じる。誰も付いて来れない孤島の丘には荒れた野辺が拡がるばかりで太陽と月とが夜半(よわ)の麓で明日を夢見て、回想して行く我を助けた。我の僕(しもべ)は人に在らず物に在らず、植物に在らず、宇宙に在らず、霊的な樞秘めた白い幽体に形を秘めた夢想の産物である。ギターの音色(ねいろ)はその体(からだ)を抜けて後ろへ解け込み、朝の光も心を抜けて遠くへ翳り、硝子に映らぬ白き眼(まなこ)は俺の麓でずっと意識を見て居る。「こんなものか」と呟いた儘で足取り重い傀儡の逡巡は太陽と月との下(もと)を一瞬で駆け抜けて行くようで、譬え曇り窓の向こうが何も見得ない闇の内でもしっかり足場を固めて文句を着飾り、俺は素直に終点(ゴール)迄行く。その場所から又一筋の果(さき)が表れ、俺の体を闇に吸い込まそうと自然の儘で硝子ケースに表情映して、苦悩を象る人の生来の元(もと)を俺に返した。もう七月である。もう直ぐ初夏の暑さに人が遣られる流れを控えて俺と他人(ひと)との晩年を又悲愴に連想させる蜻蛉の命を落して行くのに、俺の巷は七月の嵐を遂に掴んだ。童貞過ぎても大人に成れず、今にも朽ち果てて行く小金の問答を身に置き去って、人は、俺は又、此処から遠くへ駆けようとして居る。迫真の演技に満ち満ち満ちても、挙句の果てには友人の声が辺りを木霊し、こと地獄絵図の風景を頻りに避(よ)けさせ、俺は巷じゃ臆病者と揶揄されて居た。あの鼓動の源を探さねば何時(いつ)か精神(いのち)を奪われて生きた過去さえ燃え尽きてしまう、と一人儚く問答打てどもその発声(こえ)を聴く者は一人も居らず、始めから独りで居るのと何ら変わらぬ殻を見守って居る。弱音を吐くな、と知人の声在り他人の声在り、幾日待てどもこの果てし無き自身(こどく)を慰(なぐさ)む者は現れない儘、やがて遠くの空に俺はパラダイスを見た。雲に掛かって始めの内は視野(め)が届かなかったが、段々霧が晴れる様に風に吹かれて人の煙が宙へ還った後には、始めから在る俺だけの為に創られた程の一つの世界を俺は全身で知って居た。実体(からだ)を呈したその孤島は行く行く俺の生身(からだ)を両腕(かいな)を以て引き上げ、この世の泥に塗れた苦悩の縁(ふち)より甦えらせ得る力を秘める内実を見せ、俺の言葉に、要求に、素直に応じてくれ得る寛容の強靭(つよさ)を程無く見せた。〝人の世界に到底生きては行けまい〟と一片の泥酔を知った俺には、その哀れ成る国の人への賛歌は猛烈に勢い付けられて〝遂に救われ得る〟と、人の陽(ひ)を見た俺には他に行く当て無いまま渾身をその光の内に知らされ続ける孤独を渡して居た。下界の晴天に気を紛らわしたまま私家(しいか)の門戸の内で一端(いっぱし)に翼を拡げて巣立った俺の孤高は漸く映した晴天の霹靂の内に一つの傷を付けて、宇宙の風を難無く見せ得る強大な力の様な物を未熟な死地へ落して行った。〝託(かこ)ち顏なるわが涙かな〟と、忌(い)みじく黄色い晴天の薄暦(はくれき)を遂にこそ読み、遠くの宇宙へ囀り木霊す小鳥の生命(いのち)は俺の枝には止まらず遂には私家の屋上目指して翼を拡げた。その儘消えない生命の翳りは春の陽気へ宣(のたま)う様(よう)に、身を絆されつつ在る孤独の歌声を俺へ読んで聞かせて、眠れるようにと又もや宙に夢見た。明日から俺も、と一端(いっぱし)に生きられる程の努力の成果に肖り始める我(わ)が改悛の精神とは見るも無残に捨て去り置かれて、軽く集まる子供にとっての格好の遊び道具に撓(しな)り果てつつも、未だ静かに生命を待った。尽きないお詫びを数々捉えて自然の大空にと明日(あす)を始める景色の力を心の内に叩き込んでも、何時(いつ)ぞや見知った佳境成る我が心の詩(うた)は子供の頭上(うえ)にも注いで白々明けた。くっきり浮んだ空に孤島と飛び立つ我が名を冠した小鳥は何時(いつ)まで経っても折れてはくれず、あの朝の窓から見得た充電中の小鳥をも思い出させた。
俺の身辺では或る日を境にして遠近を問わずに個々の身内が死に絶えて行き、真っ黒い闇に火照った雪の花が静かに、夢の内に咲いては寂しい涼風を俺に吹き上げて来て、俺はそれでも自身の生命(いのち)を大事として居た。七月の朝である。言葉に詰り、詰りしながら諒闇への灯(ともしび)をふと又失くした我が軌跡の快楽はとても淋しがり屋の俺には少し荷が重かったとして、又少しずつ背に負う俺の孤独の数を減らして行って、生きる為の負担を削いで行ったようである。家内(いえうち)には母が居たようであるが、父は恐らく居ないで、三人家族にひっそり咲いた無人に近い解放感を俺はその時、家内に、母に、父の内に、遠い記憶の内に又感じても居た。七月の朝の事。家の外へと不意に降り立った軽装の我が身を傍(はた)から眺めて居る俺はその時ふと又自分のフィギュアの内へと入り込み、意識と視野とを重ねた儘で、今は以前の五月の晴れ間を彷彿させてる高い晴空(せいくう)を見て居た。仰ぎ見る儘隣家の灯(ともしび)にふと目を遣りつつも誰も巷を通らぬ道路の上には、土から咲いた緑の葦が勢い良く立ち、同じく自分と一緒にこの晴空を見上げて居る生命の香りを程好く俺に発光していて、通り相場な俗物の想いを、具に壊して新たを見せたあの青空に浮んでいる孤島の大きさとは、自分の周囲で死んだ命に比例する程サイズを表し、その俺が私家の内より跳び出して地面の上より見上げた際には、もう海洋に浮んだ一つの島程にまで成長していたのである。そう、始めは陶磁器の様(よう)に光沢を重ねた青空の面に一つ小さな一線程の傷が出来ていたのに、その一線は、丸、四角、長方形、台形へと次第に人の嵩を増して行ったように知らぬ間に大きく成り果て、その時俺が知ったその大きさ迄へと、言葉通りの急成長を遂げていた。泡(あぶく)に映った人の孤独の限りがまるで何者かに依り宛がわれた成長への糧の様(よう)にとその時に俺は見て知って、限り無く見る青の一面の向こうに、何処から来たのか誰なのか知らない、芥を束ねる大魔王様の様(よう)な巨人がのっそり佇み、寝そべって居る様(よう)にも見て取れた。見る見る大きく成るのかも知れないその孤島の端(はし)には、これからもっと別の形容を冠する力を込めた微動が露わに生気を打って居り、俺は不思議に子供の頃観たウルトラマンの怪獣の行方を追いつつその儘深い瞑想にでも解け込む様(よう)な、現実に生きる人の辛さをも一度知って居た。
まるで宇宙にでも浮んだように見得たその孤島の果てにはこの地上で知ったまるで人の活性を捩り採って成された様(よう)な躍動が降り立ち、その未来は決して虚しくない儘人人の頭上と心中迄へとその触手と結界の局部を延ばして来そうで、俺はつい又転寝(うたたね)の内に見知って捉えた孤島への妄想を一瞬で真実へと変えた儘、現実の中で生きる自分の活力とも成る題材の内へ一投を試みる迄その真実の嵩は又、大きくも成った。いや、本当に島の様(よう)に見得たのである。小さく火照った外郭部にはまるで引き潮が木霊す白浜の様(よう)な盛り上がりが在り、遠い宇宙の闇は程好く青を呈して海を想わせ、七分(しちぶ)から成る人の源を惜し気も無く伝えて残す自然の効果を目に映えさせて有力の物とし、人は己の頭上を仰ぎ見ては手を翳した儘にて、自身への生(せい)の流転を程好く統べる。陸が在り源が在り水面(みなも)が在り程好く命に起した模様さえ見せ、彼(か)のバリア・リーフがその様相を変えさせた儘俺の夢想の内にて、孤独にこの表情を呈したような、そんな光景・情景さえ採れ、俺は少々その島の美しさの内に人間が創る奇妙の形とそこから連なる模様の気持ち悪さとを知って居たが、一度瞬きした後再び見れば、その様(よう)な憤悶(ふんもん)を巡らす針の骸は遠に姿を失くして消えて、俺は又始めから唯「美しい」と心中へ秘めた紫色の憧れの想念と諦念とを共に持ち合せて来て、相槌打つ様(よう)に空の巷は俺に笑って居た。その海の色は島を囲むようにして在るエメラルド・ブルーの新築を構えて来ていて、丁度、そう、グァム島に匹敵する程、少し大きく嵩を募ればニュージーランド島程にも大きく見得る存在(もの)として在り、俺から映るその群れの内から外されたような白い孤島の内には未だ見知らぬ旧い奥床しさを灯す人の源への末路の程がしっかり目を見据えて置かれて在る様(よう)で、俺は何時(いつ)迄経っても、その孤島の姿を自分に映された孤独を救い得る鏡の様(よう)に保って居た為、涙を見せても見上げる姿勢に飽きないで居た。
空の流れと白雲の流れとが目まぐるしく何者かに依り動かされた様(よう)に速く加速し燃え立つ生命(いのち)をその身に灯らせ、俺に雲海の灯(ともしび)を煌めかせて魅了した後、俺は又、自分の家から跳び降り立った。先程迄の心境と外観とを持ち合せており、まるで一時(いっとき)が転じて心中へと流れ込まされた程の衝撃をこの身に知った。始めにこの「空の夢の島」を見上げて黙した時にはこの「空の島」とはほんの小さな心の染みの様にして在ったものだが、一寸見方を転じて吟味を煽れば、その一傷(ひときず)の程は忽ち大きく成り変わって行って個を画した一種の芸術品の体裁を採りつつ、先程迄には気にも留(と)めなかった俺の興味の主(あるじ)を叩いて起し、「これはお前に関係深く在るものなのだ」と、白刃(しらは)を立てる程の大きな喧騒を灯して来るのであった。俺は故に、その大空に聳え立つ様(よう)にして在る雲海の魔性に見入るのであり、その触手に触れた所で天蓋魔境の様(よう)に吠えた俺への主(あるじ)は一時(いっとき)ずつの大喝を残して辺りを静めて通り去り行き、孤独を呈した俺の心は、この大喝を秘め足る天蓋薀蓄にとって格好の犠牲にも餌食にも成り変わったのであろう、と、俺は道行く人を見付けた後(のち)には時を返じて語りたがった。その様(よう)な嫌いを含めた泡(あぶく)に混ぜた追憶の彼方を俺は見定めた儘、この時、この魔境の様な怪物の行方を空に追った訳である。
あの島にこれ迄人の世界に命を尽した者達、又もしかすると自分の知人が隠されて在るのだろうか。そう思い始めた矢先に一閃後光でも差して来たかのように俺の心中と辺りは明るく成り行き、何時の間にかソドムとゴモラを排除した様(よう)な、地上(ここ)では明るい鶴翼の大地が自信に満ちて、この地上で図面を引く様(よう)に算段しつつも俺の頭上と目前とに急に表れていた。俺は驚き、自分の胸の釦を外して見たら、そこに夢の設定装置の様(よう)な物が在る事を知りつつ露わに成ったスクリーンの内には自身のその思惑が採用されたと記して在った。その時からこの「夢の島」には空へと引き上げられた生死人達(いきしにびと)の生家として在る、空城(くうじょう)の規定を盛り込んでいた。誰も見知らぬ生人達(いきびとたち)にとっての空城である為に、城は城で、自ら自身の内へと或る活気と生命への人道(みち)とを含ませたようでもあった。俺は熱い眼(まなこ)に涙を認(したた)め、夢虚ろの儘その或る人道(みち)を辿って行くと、自分が以前に働いた元職場が差す校庭へと出され、何度も遣った介護の手順をも一度踏まされて居たのである。館内利用に浸った利用者へのサービスではなく、外へ出たまま所謂社会の責任を負わされ続ける送迎サービスの手順をもう一度一から問われ直され、良く見知って居る太目の単細胞と共に、大きなキャラバンの中で体を捻り合せて居た。そこにはその自分達を監督して行く施設長代理も居たようで、噛み合わない人と人との土を上手く丸めて収まらなくても推し進めて行く強い人の流れを自然の内にてまるで謳歌させている様(よう)でもある。その太目の坊より自分の方がキャリアも丈夫で何彼付けて上手に捌ける、とその場の仕事に大きく目処を留(とど)めた我(われ)には怖い物無く、場を仕切る事だけ考えながら、利用者への注意は三の次程と成って仕舞った。送迎車は大きなキャラバンである。この車体を以て三メーター道路、おまけに路肩が或る程度深い田舎特有の側溝にでも成っている場所では思う様には動けまいと、地団駄踏みそうに成る程の勇気をその場が与えたものだが俺と太っちょは、仕方が無いけど〝無理はせずに居よう〟と暫く和んで休戦体制に入ったようである。大きなキャラバンはまるで七月の朝陽に照らされて我関せずと何食わぬ表情(かお)して利用者の家まで連れられるのを、唯じっと待ちながらその巨体は二人の「笑い」を覗いたようだ。一度事故を起した俺の記憶はこのキャラバンの右車体のドアの部分に光って残り、それを知らない太目の輩は颯爽とした儘空いた助手席の上に腰掛けた。俺は図らずもエンジンを吹かそうと努力して居たのだが結局一向に掛らない儘七月が向こうへと、過ぎて行った。
その仕事を終え、俺は早く空に見た「夢の孤島」が見下ろす光る麓へ身を戻らせたいとも構築しながら夢は、何時(いつ)しか見知った職場の会議室と自宅の私室とを暗く涼しい一本の通路を以てミックスさせた様(よう)な、暗い次の仕事場へと一つ目の職場が我が身を変えていた。熱いカップ珈琲の煙と匂いが程好く似合いそうなマンションの一室の様な暗い職場の一室、俺はその一室に何人かの従業員、又父親と、沢山出入りをして居た。俺の家にはその職場に辿り着く前、これ迄使用して居た旧いパソコンとコピー機に代わる新しいPCとコピー機が送られていた。まるでオンラインで購入した程に値段が張って又良い機材のようであったが実際どうだか分らず、又機会も無いので俺は親父にさえも訊く事はせずに居た。その二台はとてもサイズが大きく、まるでNASAや、何処かの専門研究所等で使われそうな大仕掛けの物であり俺はその二台の置き場所に困って居たが、良く良く考えれば、今使用して居る(これ迄使用して来た)コンピューター二台を取り除け置いたら嵩も張らずに又丁重に扱えるだろう、と一案に至った。その通りであり、そうする事で、俺と同様にして悩んで居た親父の苦しみも解消させられ、旧いPC、コピー機は無残な姿でコードを巻かれて、部屋の隅で埃を被(かぶ)るのを待つ身と成った。
二台の機器を夫々に分けて置き、俺は説明書もちらっと見た儘でどんな未知なる万能を醸す機器能力が在るのか期待を置いて、取り敢えずそのPCの内に内蔵されていた野球ゲームを見付け出し、一通り愉しみ、機械と自分との取っ掛かりを掴もうと身を乗り出した。しかし遣り始めてから十五分過ぎた所で、そのゲーム内では自分の創作チームは以前迄の旧いファミスタの内でしか作れず躍動されないと、これは説明書を読んで知り、以前の旧いPCに内在された同じ様な野球ゲームでは創作チームはメインの各ダンジョンにて創る事が出来、自分の欲求を叶えながらに熱狂させてくれ得た怒涛の様な過去が思い出されて、その新機器の著しいクオリティ落ちに激しく落胆して居た。「最近の新しい機材(ゲーム)っていっつもそうやねんな!必ずと言って好い程素晴らしい物を削り殺した後でその面に不要の、要らない下らん物ばかり付けて来る!最近の世の中、下らない物が多過ぎる、作り過ぎる、ってあの人が言った事は正にその通りやわ!!」と、俺の他にそこに集った仲間達にも聞えるようにして俺は大きな声を以て独り言を叫んで居た。本当に聞えて仕舞ったかな!?と聴き耳立てるようにして自分の周囲を見渡した俺はそこには始めから二人程しか自分より他の他人が居なかったのを知り、その二人がこの新しい機材を持って来てくれたのだと分って居た。その二人とは自分にとって赤の他人の様にして在った職場仲間と、もう一人は俺の身内である。中々聞え辛かった俺の先程の大喝を余所目にして時が過ぎ去り、二人も取分け何食わぬ表情(かお)して新しく来たその機器に触れつつ興味がそちらへ在った様(よう)だった為に俺は、又気分新たに体裁を立て直した儘、もうこれ以上新しい機材の文句を言えんじゃないかと心で喚きつつも、置き換えるしか無かった残念・後悔の様(よう)なものを俺は夜の露を身に湿らすように、暫くそのまま悲観に暮れて居た。
逃走経路を何とかして図り直したかった自分の心境を又自分の足元に何時(いつ)の間にか置かれて在った羅針盤に火を灯しつつ知ろうとした我(われ)の前に、又雲間が急速に大きく成長する程青空が覗く光景を心中で想定し得た為、俺は道形(みちなり)に来た一つ目の角(かど)で、あの「空に浮んだ夢の孤島」の在り処を探り始めて居た。白雲は殆ど動かずに此方を眺め下して在るようでその流れて行く先は何処迄も青空(せいくう)で、地の果てよりも大きな天空の境界を俺は白々指で差して確認する様(よう)に、自然の内で生きる自分を確認して居た。唯、雲間だけが何故かぽつんと一つ青空(あおぞら)に在って、その内から俺の身体(からだ)と心とを救い上げてくれ得る程の心地良さを感じて居ながらでも、自然が音を立ててあの島を見せようとする時必ずその一度ずつに目を覚まして仕舞う自分の存在に呪う程の怒りが込み上げ、この儘の体(てい)では必ずあの麓へは辿り着けない、と俺は空虚を背負って行った。
~空に浮かぶ島~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji
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