~怪物~(『夢時代』より)

天川裕司

~怪物~(『夢時代』より)

「(あなたの言葉…)」

~怪物~

「(あなたの言葉…)」

専門学校時代のクラスで一緒だった親しい友達(先生も一人含む)が総出で、私家の一室を会場にして、何か〝授業?〟〝説明会?〟のようなものをしようとしていた。そう、私室の隣の畳の部屋だ。二階に備えた自分の部屋の隣室でもあり、全く私のテリトリーの内に外の皆を一掃して取り込めている結果と成っており、妙に、嬉しく、わくわくしていた。

私は何か、その会合の為に勢い余って、いろいろと用意をしていた様だ。階下から上階までてくてく歩いたり走ったり、時には外へも出たりして、皆で食べるお菓子でも買おうとしていたのかも知れない。又、少しでも快適に会合を進められるようにと、環境整備を講じた感覚(おもい)も仄かに残る。しかし自分の為に動いていたのが殆どである。

(時うつりかわって)(その友達、先生、私)皆して、次には、かなり広い廃屋となった工場跡のような場所に居た。

夜中の二時に〝奴〟が来る、という。この〝奴〟とは、まるで皆の宿敵のようであって、単身怪物の様であり、又、どうしようもない能力(つよさ)を秘めた〝未知〟という形容が適切にも成る生物である。私は一人、その工場内の高所へ上り、その皆と、怪物が入って来るだろうかと目星を付けた、木製の少々古く壊れかけた柵門を、辺りを見廻しながら注視していた。

二時の鐘(しんどう)が鳴り終わる途中であったか、その柵門を〝ガッガッ〟〝ドコン、ゴッ!ボゴッ、ガキッ!…〟と削るような音がし、案の定、奴が入って来た。正に、怪物の姿である。〝そやつ〟は結果に於いて、幾つの形態(すがた)に姿勢を変えた。はじめは、手が何本もあり、目も何個もあり、まるでエイリアンの様な出で立ちで侵入したのを、仲間と私の感覚により捉えることが出来た。友達は右往左往している。敵いっこないのを流動して行く空気の内にて具に感じ取りつつ、私の夢が講じて、逃げられないのを知っている様子で、しかしそれでも何とかしながら、私闘に燃え行く手先と成るのを、集った彼等は覚悟していた。皆、最後まで闘おうとしている。空には月があったかも知れない。まるでSFアニメのクライマックスの様だ。妙なロマンスさえある。

私は持前の向上心(きりょく)が物を言いつつ、その化け物の更に〝上〟を行く程の内実(じつりょく)を擁して、友達の前衛に立ちはだかり守っていながら、狂々吠え出す化け物の気力を仄かに悟り、拡がり始める自分の無様に対峙して居た。その化け物は己に匹敵する実力を悟ったか、急遽、私に視点の矛先を切り替え、独走(はし)り出すまま頭を押さえて間合いを詰め寄り、闇を抜けつつ私へ飛んだ。しかし、両者共、なかなかやられない。見方を変えて瞬時に閃く妄想の内では、〝勝負の型〟を象る様でもあった。どっちが勝っても負けても、別段誰にも体裁(ていど)が観えて、〝勝負の型〟に収めてしまえばそれで良いと息巻く、一計を講じた〝勝負〟を呼びつつ両者が浮かぶ。しかしその八百長でも、周りに集った観客(きゃく)からすれば、各自の実力(ちから)を大きく離れた別の次元(ばしょ)での取引(ちから)に見え行き、独創(こごと)に対する視座がないのか、唯々、固唾を呑んで見守り続ける暗黙の姿勢に在るのは自然ともなる。

その化け物は強かった。流石に宿敵のようにして出て来ただけあり、臨機相応の実力は兼ね揃えていた。私と、飛んだり跳ねたり力較べをしながら、時に魔術のようなものも使って来る。しかし、こちらも魔術は使え、力量(ちから)は引けを取らずに遊撃しており、技術や魔術にしても、それぞれがその化け物と比較したなら密かに私が上辺に咲いて、それでいながら奥行を擁する強靭(つよ)さがあった。得てして勝負の行方は一つの泥濘(たまり)に埋没して行く。しかし私の完璧な勝利の為には時の経過が逆行(ぎゃく)に要った。まだ、きちんとは勝てぬ。勝負は水もの、環境が流行(なが)れを変えつつ少しの油断に奴が這入れば、私の内実(ちから)をぐちゃぐちゃにして行き私の力は吠える間も無く尽きて行くのを結果に於いて私は観るかも知れない。もう少しだ。未だ、人間の脆弱(よわ)みが私には在る。アレを自身の内に具えねば。

「アレ」とは、かつて「JOJOの奇妙な冒険」という漫画で見知った〝エイジャの赤石〟、を捩った(もじった)〝プライマリ・ストーン《primary-stone》〟とかいうものである。それをキャラクターである〝カーズ〟がその「JOJO…」の内で仮面の額に埋め込み紫外線照射を以て究極生命体と成った、あの経過を備えた完璧な強さを、今、正に我も欲する、といった調子にある。〝パクリ〟にしても、夢の中故、光った。誰も気付きはしまい。例え気付かれても上手く逃げられるのだから。

その〝プライマリ・ストーン〟というのはここにはなかった。ないことは解っていた。なので、それを得るのを目的とし、その衝動を足掛かりにして、プレ・ステージ(前段)での産物とでもし得る、〝プレ・プライマリ・オーブ《pre-primary-orb》〟なるものを新たに創り、透った自身に植え込むことで、この場の始末を決行していた。その〝エイジャの赤石〟こと、〝プライマリ・ストーン〟はこの化け物を共に連れ行きこの先探しに行くものと、未熟な思惑(おもい)に温めて居た。

流石に私は強かった。化け物が繰り出す技、繰り出す技、全てを凌駕しており、喰らってもダメージがなかったりと、互いに奮闘している振りをしながら私の勇はにやにやしている。坩堝に飛び交う私の技とは化け物との対峙を見る際後手に廻るが、観客(きゃく)にとっては見当付かずのハイレベルであり、蛻の殻は幾つ在っても困りはせぬと、私の体は浮んだ案に密かにたえる。化け物を床に倒した後にて一瞬で原爆の火炎を空に作り出し行き、そのうえ散する熱の効果をその化け物目掛けて直射に向け当て、真向きに捕えた景色の破片を微動だにせず解体して行き、発光(ひか)った矢先は誰にも見せぬと、こうした科学の樞(ひみつ)を瞬時に講じ効果を成すまま美味を収めた手腕を見せつつ、徒然なるまま展開して行く次の場面では、「キン肉マン」という漫画のキャラクターとしてある〝ブラックホール〟の技を借りつつ、その技の程度をも少し大きく構えて立たせ、両手を拡げて次元を越え行く気色を捥ぎ取り落ち着かせる等、密室(へや)に浮んだ小宇宙(コスモ)を構築するのは化け物(やつ)にとっても観客(きゃく)にとっても、どうでも拾えない流行(なが)れにあった。一瞬、一瞬、咲いて飛び散る私の業には、毬が撥ね行く闇の矢先に、ひっそり掲げた孤独の安堵を一つ一つ煌めき立たせる希望(おもい)もあった。

これだけの条件が整っているにも拘わらず分が悪くなった私は、化け物の肩をひしと抱き、「どうだ?私と共に来ないか?今の私にはお前の力が必要なのだ。我々程の強者になれば好敵手が居て、ふさわしい、張りのある、人生を送れるというものだ。私と共に先ずはあの〝ストーン〟を探し出し、新たな我々の好敵手を求めようではないか!?」、私はいつの間にか友達の敵となり、その化け物を味方に付けて、共に旅をして生活をする、という約束を交わしていた。

途端にあの化け物はおよそ化け物の姿形から掛け離れたような人間の顔・姿に成り変わり、私の体を抱き、おんおん、泣き出した。寂しかったのだ、と言う。

(私の心)〝そりゃそうだろう、今までこいつを化け物とだけ見て、話し掛けたり、まともに相手をしたりする者など誰も居なかったのだろうさ。ここへ来て、仲間らしい奴が突如現れ、「仲間だ」なんて言われりゃあ嬉しいだろう。しかし、こいつの強靭(つよさ)はハンパじゃあない。いつ又、寝首をかく存在(すがた)に化わるか知れない。ずっと、って訳にゃ行くめぇ。〟

「…!」「…!」「…!」化け物が何か叫んで喋っている。その内容は、〝寂しかった〟、〝しかし、幾ら強者になって闘い続けて勝利を収めても、残るのは虚しさだけ。自分を取り巻く周囲(まわり)は暗黒だ。昼間でもな。〟、〝俺はお前に「仲間だ」と言われた瞬間(とき)、嬉しかった。お前に抱かれながらその胸の内に太陽のようなものを見た。俺の暗闇に光を照らしてくれた。人肌恋しく寒かった俺の心を温めてくれて、俺の身辺(まわり)と心の暗黒(やみ)とがその都度作り出す凍てつくような孤独の塊さえ溶かしてくれたのだ。闘うことから俺たち、暫く遠去かろう。いや、闘うことをやめよう。俺はそうして生きたい。…〟、というものだった。

(私の心)〝今はこう言っちゃいるが侮れん。化け物とて心は在るだろう。この先、いつ心変わりするやも知れん。俺は早くこいつを圧倒する能力(ちから)を手に入れ、安全圏を採らねばいくまい。こいつを手懐ける立場を採ってはじめて安堵を知るのだ。〟

(私)「私と共に行こう!そうして我等一族はこの地球に根を下ろし、我等の文化を構築するのだ。我等の子孫を増やそう。聞いたか皆の衆よ!我等がもう一度戻って来るまでに、もっと精進(鍛錬)をして、今よりもっと我等を楽しませる実力を身に付け、我等を迎え討て!」

皆の衆とは私のかつての友達の事であり、その友達は皆、呆気に取られて、ポカンと口を開け、何も言えない。

我等はそうして光り輝く漆黒の闇の内へと消えていった。

――――(第一幕完)


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~怪物~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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