第19話 捕食者
ノアールの言う通り、他人を殺すことが恐くなって逃げ出した。戦えなくなった自分が不甲斐なくて、死ぬこともできずに、そんな自分自身を呪った。
「あんたも・・・わたしの呪いに引き寄せられてきたの?」
「いいえ」
ノアールの触手は、確実に鈍くなっている。異形のメイドは、炎の剣でノアールを圧しているように見える。
なのにノアールは、わたしとの会話を微笑みながら続けていた。
「妾にとって、魔は滋養なんです」
ノアールの口が耳まで裂けた。真っ赤な口の中には鋭い牙が並んでいる。大きく開いた口で、自身を拘束している白い靄に噛みついた。そして食い千切る!
ノアールに食い千切られた部分は、黒く変色し、そこからサラサラと砂のように崩れ始めた。白い靄は、身悶えするようにうねりながら黒い砂になって消えていく。
元通りの端正な形に戻った唇から、赤い舌が覗いた。上唇をぬるりと舐めて、ノアールは満足そうに眸を細めた。
「とても濃いですね」
白い靄の拘束から脱したノアールは、切断された右脚を拾い上げた。右脚はすぐに繋がってゆっくりと立ち上がる。
「あなたと仲良しになれたから、妾はこんなに濃い滋養にありつけました。感謝しています」
オオォォォォーン
人狼の咆哮が、ズレた世界の玄関ロビーに響き渡った。
異形のメイドが、白い塊に戻って二つに分離する・・・二つの白い塊はそれぞれ人の大きさまで膨れ上がり、一方は人狼に、もう一方は異形のメイドとなった。
異形のメイドの姿は、触手に削れられた部分も元通りに再生していた。
「羨ましいです。ドレスがちゃんと再生されるなんて!」
異形のメイドはノアールに向かい、人狼はわたしの方へ向かってきた。
腰を落とし
だが、わたしが剣を振るうより先に人狼は突っ伏してしまう。人狼の脚には、ノアールの触手が絡みついていた。
ギャイン
ギャイン
「仔犬さんのことは許さない、と言ったはずですよ?」
人狼は憐れな鳴き声をあげるが触手に引き摺られて、ノアールの側まで引き寄せられた。右手の鉤爪に首を押さえらると更に必死に鳴き続けた。
ギャイン
ギャイン
ギャイン
「ノアール!後ろ!」
右の鉤爪で人狼の首を鷲掴みにするノアールの背後に、異形のメイドがいた。
異形のメイドが右手を振る!空気を裂く音ともに、ノアールの首が切断されてしまった!
だが。
切断されたノアールの首は、宙に浮いたまま異形のメイドに振り返った。
「もう。こちらのモノは、順番も守れないんですか?」
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