第9話 帝国と、村と



 馬車に詰め込んだ拘束されたファンナム村の人達。それを囲うように歩く兵士と、馬に乗り指揮を取る隊長達がいた。

 アレックスも隊長格の一人であったが、彼は自らの足で歩くことを選び、最も敬愛するべき主人と魂を分かち合った二人の部下と共にいた。

 アレックスには他にも部下はいるが、今話すことはないためあえて離れた位置で移動してもらっている。

「アレックス隊長……俺達はこのまま帝国へ戻っても良いのでしょうか」

「構わない。ヒナ様から命じられた最重要事項は『裏切ってるとバレないこと』だからな」

 アレックスが思い出すのは自らの主人と離れた直後のこと。

 ヒナは「後で会おう」と言っていた。村で会おうだなんて言っていなかった。

 兵士たる自分等に向かって言った意味────ヒナが帝国へ向かうということだ。

 その場合、自分達は何をすれば良いのかを考えなくてはならない。

 帝国を乗っ取るのか、それともヒナは我々と同じく国の人間全員を

 その場合、アレックスにとっての目的はヒナを問題なく帝国へ入国出来るようにすること。そしてヒナ自身に不快な思いをさせないことだ。

 一番大事なのはヒナからの命令。アメミット帝国の王に支える使命より大事なものが出来たことを、周りに悟られないようにしなければならなかった。

「ヒナ様は必ず帝国へ────我々の元へお越し下さる。それまでに我々はやるべきことのために動こう」

 懸念点があるとすれば嫌悪を示していた人体実験のための人材をファンナム村から集めたこと。おそらくヒナは彼らを解放するために動くはずだ。

「ファンナム村に犠牲者を出すことなく、全てをヒナ様の元へ集めなくては」

「隊長────村に残ったウォルターはどうしますか」

「……ヒナ様ならば何の問題もない。我々は命じられた通り、裏切りをバレないように帝国へ帰ることが第一だ。いいな?」

「「はっ!」」

 ウォルターは帝国一番の召喚者。村で集めた死体で作ったキメラを操ることの出来る実力者でもある。

 鍛え上げた兵士ですら勝つことの難しい奴らだが、ヒナ様であればきっと────。





「どう足掻いても勝てるわけねぇだろこんなラスボスもどきの魔物ぉ!!」

 思わず叫んでしまうぐらいにはこのマンティコアもどきチート過ぎるんだよ!

 崩れかかった建物が火炎放射により抹消し、焦げた更地へ激変する程度の攻撃力。

 身体の一部でもいいからとヒビキが何度も消化を試したけどびくともせず、俺がリルに協力してもらって寄生し、魔法を使っても倒れない防御力。

 アオイが頑丈な蜘蛛の糸で四肢を拘束しようとしてもすぐ引きちぎるぐらいの馬鹿力だ。

 ボロボロに腐ってる身体のくせになんでこんなラスボス級がいやがるんだよ!

 このままリルに寄生していても彼女を怪我させるだけだと思い、身体から離れた。

「リルちゃん! 危ないから下がってて!」

「は、はい!」

「ヒビキ、身体貸せ!」

「キュッ!」

 俺が寄生すれば生き物の限界値まで能力を上げられる。リルちゃんの魔法が駄目なら魔物の方だ。

 ヒビキのスライムたる身体に入り込んでやれることを認識、身体を限界まで大きくさせ、マンティコアもどきの身体全体を包み込み全力で溶かしていく。

 しかし奴はそんなの関係ねえぜとばかりに俺を弾き飛ばした。

「グルルルァ!」

「キューゥゥイ!!」

 ムカついてしまい、ついヒビキ独特の鳴き声を上げてしまったがこいつマジでどう対処すりゃあいいんだよ!

「ハハハ! 無駄だよ、何やってもね」

「ああ?」

 聞こえてきた声に目を向けるとそこにいたのは金髪の少年。

 いやいや待て待て!

 あいつ明らかに海ノ旅団で出てきた中ボスじゃねえか!?

 

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