第39話 チャンスを待つコト
「その、灘さんはお弁当なに、選んだの??」
緊張してしまった僕は、咄嗟に隣にいる灘さんにそんなことを聞いてしまう。
灘さんも、お弁当を開けながら、え? みたいな顔をしてる。
「えっとね、たぶんマコトくんのと同じだと思うよ」
「そっ、そっか」
灘さんは普通に答えた後、開けたお弁当を淡々と食べ始める。
なので、僕も気まずい雰囲気を誤魔化すようにお弁当のおかずを口に入れる。
確かに、クラスメイト全員に同じやつが配られてたなと思い出す。
お弁当の中身は、おにぎり二つと5種類ぐらいのおかずとたくあんが入ったセットで、僕はとりあえず佃煮を食べる。
そうして、しばらく喋りかけられないまま、無言の時間が流れる。
灘さんも、森とお弁当に目線を交互に向けて食べている。
時々、こっちをチラッと見てくるけど、すぐに向こうを向いてしまう。
(早く灘さんと仲直りしたいのに、話せない……どうしよう……)
なんて思っていると、遠くから内田先生が歩いてくる。その手には大きなカメラがある。
「二人ともお疲れ様〜〜! ってあれ、相田さんと湯川くんはどこかな? 一応各班で写真を撮って回ってるんだけど」
「あ、相田さんと湯川くんは二人で少し遠くのトイレに行ってます!」
「そっか、確かにここの休憩地点で行かないと夕方までトイレあんまり行けないもんね」
先生はうんうんと納得すると、笑ってこっちにカメラを向ける。
「じゃあ、せっかくだし灘さんと柳くんで写真撮らせてもらうね! 二人とも仲良いし! じゃあ、はい! 二人とももっと近寄って〜〜」
そう言われて、思わず目を見開きながら、少し遠い位置で座ってる灘さんの方を見る。
すると、灘さんも急なことに驚いた様子で、僕の方を見る。
そして、仕方なく近づいて座る。
「おっいいね〜〜、だけどもう少し近寄って〜〜、もう隣に座るぐらいの距離〜〜そうそう〜〜」
先生の指示に従う為に、仕方なく二人とも距離を近づけて、いつも電車の席に二人で座る時ぐらいの位置に座り直す。
僕の心がバクバクし始める。
「おおおおそれ!! その位置!! はいじゃあ笑って〜〜! はいチーズ!」
僕はなんとか笑顔を作って、ピースサインをする。
チラッと横を見ると灘さんもピースサインをしている。
そして、パシャパシャと音がする。
「はい! 二人ともありがと!! 良い感じの写真撮れたから先生嬉しい! じゃあ、相田さんと湯川くんが戻ってきたらまた写真撮るから、その時もお願いね!」
そう言って先生は他の班の子たちの元へ歩いてく。
そして、ふと隣を見ると、顔を真っ赤にしてる灘さんが淡々とお弁当を食べているのが見える。
それらを一気に駆け込んで食べると、灘さんが急に立ち上がる。
「あ、あたしもちょっとトイレ行く!」
そう言って、灘さんがどこかに行ってしまう。
そしてその十分後、相田さんと湯川くんが帰ってきて、その後にすぐに灘さんが戻ってきて、お昼休憩が終わってしまった。
ーーーーーー
午後になり、ここから先の野外学習についての説明を、内田先生がし始める。
「えー、これから行う野外学習2では、湖周りの森をもう半周しながら、ここから先にあるキノコ園に行きます。そこで様々なキノコの観察をした後、15時から二時間の班行動になります。そこからは事前に提出した通りのコースを、班ごとに散策して貰うので、各自身を引き締めて学習に取り組んだください!」
そう先生が話している中、脇腹をツンツンとされ、横を向くと相田さんがいる。
「それでなこちゃんとはどうだったの??」
相田さんが小声で話してくるので、僕も先生にバレないように気をつけながら、小声で返す。
「えっと、結局ダメだった……」
そう返して、相田さんの顔を見ると、え? なにやってるの? という顔をしてくる。
そして相田さんにさっきのことを話そうとする。
「そこの二人聞いてる??」
急に先生が僕達に言葉を向けるので、胸の底がドキンと跳ねる。
ヤバい……! そう思った途端、相田さんが手を挙げる。
「今柳くんが、先生の説明で分からないところあると聞いてきたので、それを教えてました! もう終わったので大丈夫です!」
「そ、そう。ならよし! さすが相田さんね! 班長としてしっかりしてて偉いわ!」
相田さんがニコニコと普段と同じ様子で話すと、先生の怒ったような表情も溶けて、いつもの優しそうな顔に戻る。
こんな状況でもサラサラとウソをつける相田さんに驚きつつ、やっぱり頭がいいんだろうなと思う。
ーーーーーー
説明が終わった後、僕達は出発し、予定通り順調に野外授業を行なっていった。
キノコ園は思いの外広くて、色とりどりのキノコが飼育されてて面白かった。
湯川くんなんかは、キノコを勝手に触ろうとして、それを相田さんに怒られていた。
そんなこんなで、あっという間に班行動の時間になってしまった。
ここで灘さんと仲直りしないと、今日は二人きりになれるタイミングがない。
そう思っていると、相田さんがコソコソと近づいてくる。
「マコトくん、もうここを逃したら今日二人きりになるチャンスがもう無いから、絶対仲直りしてね! 私も頑張って雄太を連れ出すから! 今から巡るコースの半分ぐらいの地点に、見晴らしの良い山頂での休憩があるから、そこで仲直りして欲しい! 頼むよ!」
そう小声で言って、ササっと僕から離れていく。
そして、班行動の確認を相田さんがし始める。
「じゃあ、今から班行動だけど、みんなしっかりコース周ろうね! それと、役割をしっかり行うこと!
私は班長、なこちゃんは記録係、マコトくんは写真係、雄太はレポート用の動植物発見と採取係。
班として、林間学校のまとめ記事書く為に必要だから、みんなちゃんとやろうね!
雄太が見つけて、マコトくんはその写真を撮って、なこちゃんはその過程とかそのものを書く!
私はサポートしつつ、コースを周るガイドをする!
そんな感じで行くから、みんな張り切っていこうーー!」
こうして僕達の班も出発した。
森を抜けて、山の方へ行き、でこぼこした山道を歩いて行く。
晴れてるのに、どこか湿った空気感が心地よくて、木漏れ日も眩しい。
そして、その中で野生の鳥の声が木霊していて、不思議な気分になる。
ビルを抜けたところの神社の森とは違った空気感だなと思う。
そんなことを感じながら、息を切らして山を登ると、やっとのことで山頂付近に到達する。
あと予定だとあと10分くらいで到着、そう思った頃ぐらいに、相田さんが僕の隣に歩いてくる。
そして、周るコースの資料を見せてくる。
「もう少しで多分山頂に着くから、そうしたら私はここから少し離れたとこにあるとっておきの場所に雄太を連れていくから、その間になこちゃんと仲直りして! 休憩ポイントだから、ここで時間たくさん使えるから、ゆっくりでもいいから頑張って!」
そう言って、相田さんがグッと親指を上げてくるので、僕も同じようにして返す。
そうして暫く歩くと、木々が開けた場所に出て、山々が見える絶景が目の前に広がる。
「うわぁ、すご!」
思わず声を出してしまう。
「おおーー!! すげぇ!! 超キレイ! マコくん写真写真!」
「う、うん!」
湯川くんに急かされながら、僕もすぐに写真を撮る。
「生で見るとすごいね! なんか気持ちが良い気分になる! ね? なこちゃん!」
「う、うん! これはすごいね」
みんながそれぞれ目の前の壮大な景色に感想を述べる。
青々とした緑で埋め尽くされた山々の真ん中に、大きな湖がドーンっとあり、そこに太陽の光が差して、湖面が光っている。
そして、そこに周りの山が映り込んでいて、奥には所々に滝も見えて、すごい光景が広がっている。
そうしてあっけに取られていると、相田さんが号令をかける。
「はい! じゃあここで一旦休憩なので各々好きなようにくつろいでください! 集合時間は20分後ね! 記録書いてもいいし、トイレに行っても良いです! というわけでよろしく!」
「やっと休憩か! じゃあ俺あのベンチで壮大な景色観ながら寝る!」
「あ、でも雄太は私と来てください!」
「ええ、なんで。好きなようにしていいんじゃねぇの??」
「班長命令です」
「あ、はい」
「でも雄太、これ観て。今から行くところ」
「え、カブトムシの里!? え、え」
そうして、相田さんは見事に湯川くんを連れ出して行った。
山頂の広場には、僕と灘さん二人だけが残る。
ここで今度こそ言わなきゃ。
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