第40話 キミに話すコト
相田さんが湯川くんを連れ出して、しばらく経った。
二人の声も遠くなり、やがて聞こえなくなると、山頂の芝生が整えられた上にあるベンチに、僕と灘さんだけが取り残される。
さっきから僕も灘さんもお互いをチラッと見合うだけの、無言の時間が流れてる。
「あ、あのさ! 灘さん、その、山頂の景色綺麗だよね……」
「うん、確か本当は紅葉が綺麗なんだったよね」
「そ、そうだね。まだ暖かいからかすごく緑だけど……」
頑張って話しかけてみても、会話が一つ済んだら終わってしまい、また気まずい時間が流れる。
どうしよう……。
いざ話そうと思うとそのことが話せなくて、つい他のことを話しちゃう……。
今ここで話さなきゃなのに……。
早くしないと……。
そう僕が思っていると、視界の端の灘さんが急に立ち上がる。
「マコトくん、とりあえずるみちゃん達のところ行こ。班行動バラバラになっちゃいけないし……」
そう言って、灘さんがこの場から離れようとする。
僕は思わず立ち上がって、灘さんを呼ぶ。
「な、灘さん! その、この前はごめん!」
冷たい風がサーーっと吹いて、木の葉が舞う。
「あの時は、いきなり帰っちゃってごめん……。僕、灘さんがやろうとしてたこと、本当は嫌だったのに言えなくて……それで、どうしたらいいか分からなくて逃げちゃった……。これが一番ダメなコトなのに……。だから、本当にごめん!」
灘さんは僕と近くの木を交互に見ながら、右手の人差し指で頬をかいている。
「その、それで、僕にとって灘さんが初めて出来た友達だから、こういう時どうしたらいいか分からなくて、それでずっと話しかけられなかった……。だから、それもごめん! だけど、その、仲直りしたい……」
僕がそう言い終えると、あたりがシーンとなる。
僕の中の心臓の音だけが聞こえる。
そして、一泊置くと、灘さんが少し近づいてくる。
「ま、マコトくん、その、あたしもごめん! あの時マコトくんのこと何にも聞かずに、私がやりたいことやろうとしてた……! 友達なのに、いつもわたしばっかりわがまま言って、マコトくんのこと聞くことも出来てなくて……本当にごめん。これって友達としてダメなコトなのに……」
ギュッと閉じられた灘さんの目が開いて、僕の目と合う。
そして、灘さんは足元に視線をずらす。
「それでその、私が謝らなきゃいけないのに言い出せなくて、ごめん。えっとね、わたし本当は、友達全然居ないんだ。だからその、楽しく遊べる友達るみちゃんとマコトくんしか居なくて……。だからその、マコトくんに嫌われてたらどうしようと思うと怖くて、言えてなかった……」
そう言い終わると、灘さんが開いてた手をギュッと握る。
「だ、だからその、私も仲直りしたい。今度はマコトくんの意見もちゃんと聞いて遊びたい……ダメかな」
僕もズボンのポケットのあたりをギュッと握る。
「う、うん。その、僕も灘さんにいつも誘ってもらってばかりで、よくなかったから、今度からは僕からも灘さんを誘いたい……」
「うん、分かった」
さっきまで静かだった周りの森が、ざわざわと風に吹かれて揺れる。
言いたいことを言った後で、僕はどうしたらいいか分からなくて、思わずその場で立ち尽くす。
そうしていると、なぜか急に灘さんがクスクス笑い出す。
僕何か変なことしたかな? そう不思議に思っていると、灘さんが指を指してくる。
「ふふっ、マコトくん肩にカミキリムシ付いてるよ……あははっ」
「え!? うわ、ホントだ」
肩の辺りに大きなカミキリムシがくっついてる。
剥がそうと思っても中々離れない。
僕が必死になってる間も、灘さんはケラケラといつものように笑ってる。
こういうのなんか、久しぶりな気がする。
なんて思っていると、灘さんが近づいてきて、ヒョイっとカミキリムシを手で掴む。
「はい、取れた。マコトくん服大丈夫??」
「うん、切られてないよ」
「そっか、なら良かった!」
「なんかこういうの久しぶりだね」
「そうだね、やっぱマコトくんが驚いてる顔見るの面白い」
「僕だけ楽しくないやつだ……」
なんてやりとりをしていると、相田さんと湯川くんが戻ってくるのが見える。
そして、相田さんだけ駆けてこっちに向かってきて、僕と灘さんを交互に見たあと、腕を組んで頷き始める。
「うんうん。その様子なら二人とも仲直り出来たみたいね! もう〜〜仲直りするまでに時間かかりすぎだよ! それに私の身にもなって!」
ニコニコした笑顔から、少し怒り顔になる相田さん。
「るみちゃん、その、ごめん! 迷惑かけた!」
「そうだよ全く! でも知らないなこちゃん見れたし、私は満足! だから気にしてないよ〜〜よしよし〜〜」
相田さんに捕まった灘さんは、そのまま頭を撫でられる。
「相田さんその、仲直りするの手伝ってくれてありがとう」
「いいよいいよ! 私は二人が仲良くしてくれてる方が嬉しいし楽しいから! まあでも、とりあえず、ここからの林間学校は二人ともはしゃぐ感じで行って欲しいかな! 私達の班だけこのままだと集合写真ほとんどなくなっちゃうから」
「「確かに……」」
そして湯川くんがゆっくり歩いて戻ってくる。そして、その手にはカブトムシが居る。
「見ろよマコくん!! カブトムシ!! なんかカブトムシの里歩いてたら居た!! しかも赤カブト!! 運命だと思って連れてきちゃった」
湯川くんがそう言って掴んだ手を見せてくると、ワシワシしている赤い甲羅のカブトムシがいた。
「え!! 雄太それまだ持ってたの!? さすがに持って帰れないって!!」
「ええーーいいじゃん!!」
そうして、相田さんと湯川くんがカブトムシで揉めてる間に、休憩時間が終わった。
僕達はその後、無事コースを歩き終えて、時間通りに林間学校に戻った。
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