目蛾遺体


「お兄さんは鮮やかって言われればどんな色を思い浮かべる?」

「鮮やかか…赤とか、青とか、紫とかか?」

 そう言うと彼女はおもむろに服をめくり、お腹を見せた。

「ねぇ、どう?綺麗?」

「君は女の子だろう、それに未成年だ、そういうのはやめなさい、後どう反応していいか分からない」

「綺麗って言ってくれればいいのに、鮮やかな痣でしょ、ふふふ。よく父親に殴られてたんだぁ、私」

 名前春野せな。年齢16歳。身長160cm。他は、プライバシーとして隠しておこう。


両親による虐待、その後叔父に引き取られたが叔父による性的虐待。周りには虐められていたとか、その虐めは酷く、腕をカッターで切られたり、バットで殴られたり、屋上から突き落とされたり、それ以上の事も。

 唯一助けてくれた保健室の先生、秋原良子さんは彼女を虐めていた奴らに強姦され、自害したらしい。


 彼女の精神は多分もう「壊れている」で済ましていいものでは無いと思う。


「君は、人を殺しては行けない理由は何か分かるか?」

「えぇ、わかんない」

「人としてやっては行けない事なんだ」

「なんで?」

「色々あるけど、人権の尊重とか、殺された人を大切に思ってる人もいるんだ、君だって大切な人を殺されたら悲しいだろ?」

「大切な人?あの人達を大切に思ってる人が悲しむ?いや、私に関係無いし、私だってあんなに酷いことされたのに、私を大切にしてる人が悲しんだの?私を大切にしてる人がいると思う?」

「…」

俺は何も言えなかった。常識的に、人として、やっては行けない事が分かると勝手に思ってしまった。人権がなんちゃらとか言ったが、そもそも侵害されてるのはこの子じゃないのか?俺は正しいのか?人を殺しては行けない理由はなんだ?遺族が悲しむから?そんなの感情論じゃないのか?論理的どうこうでいいのか?そういう疑問が俺の頭の中を駆け巡る。脳内が箇条書き状態。

「どうして殺しては行けないの?教えて?お兄さん」

「ほ、法が許さないからだ!日本人として法を守らないのは悪なんだ」

「は?意味分かんない法法法って、私も一歩間違えたら死んでたかも知れないよ?あの人達全員死刑にしてくれる?てか、そもそもあんな人達が生まれるから悪いんじゃない?」

「そんな事を軽々しく口走るな!」

「私はテレビに出たらインターネットで色々言われるんでしょ?私の事な〜んにも知らないのに、私が一方的に悪いって決めつけて、それを見た人が便乗して、また叩く。その繰り返し。ネットに毒された人達は酷いね、匿名だからって何言ってもいいと思ってる、いじめっ子となんにも変わんないじゃん」

「…」

またしても、言えない。正しい事を言っているように見えるだけで正しくない。

「正しくないと思ってる?私が殺人鬼だから、殺人鬼だから私が言ったこと全部正しくないように聞こえる?」

「親族が悲しむとか、人としてとか、知ら無いよ」

「君は何も分かってない!まだ高校生だ!君は人の話を聞か無すぎる!」

「高校生だからとか、古臭」

「君は何をしようがもう明日死ぬんだ、諦めろ…」

仕事を終えて帰ろう、家には家族が待っている、俺を大切にしてくれる人がいるのだから。

 翌日、彼女は死刑執行された。



 

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