~一つの結末・夢おろし~(『夢時代』より)

天川裕司

~一つの結末・夢おろし~(『夢時代』より)

~一つの結末・夢おろし~

 私は、自分が洗礼を受けた教会に居て、知らぬ間にその教会の二階へ上がり、そこに住む家族、又他の信者達を前にしていた。私の目前には一番右から安沢、一人ずつ右に未知、栄子、幹夫、K、と並び、私の周りや前には信仰の篤い他信者、そうでもない信者達が、立ち止まって誰かの話をずっと聞いて居たり、何か用事で走り回ったりしていた。皆、それでもそこに私が居る事をきちんと認知して居り、何かと気にしている様子だ。〝その中で誰が一番清いのか?〟について決めている様子だった。清くなる為の日頃の自分達の言動の中で誰のものが一番優れているか、等照らし合せる様にして少々笑いながらも、決めていた。夢ながら、私は馬鹿らしいとも思いながらそこに流れる流儀の様なものに合わせていた。しかし結果的に答を見た様子がなく唯栄子がその家族と私の間を行ったり来たりしていたのを覚えている。私は安沢や未知と喋りながら、その安沢と未知の過去の(私が知る限りの)経験や言動を二人の内に見ていた。二人は確固とした、他人には揺るがされない物語の様なものをその内で手中にして居り、とりわけそれを武器にする様子はないのだがそれでもしっかりと、その際立っていた土台を構築する為の一要素としている様で、なかなか誰にもつけ入らせなかった。二人の勝ちか、或いは未知の勝ちかとも私と周りは思ったが、答えは有耶無耶だ。幹夫はちょこちょこと柱の陰から顔を覗かせる様にしてその存在をアピールしていたが、やはり直接は私に関係して来ない様子だった。Kはその教会の内で一番別嬪の風貌を奏でていたが一瞬で私の前から姿を消し去る。残したものはこれ迄の清楚な残像と、誰か他の男とそろそろ結婚するのか、それとも独身で通すのか、はた又、もう知らず内に結婚しているのか、等という自分から離れてしまう不安がとりわけ目立ち、他には華やかで幼く、可愛い言動、体裁、面持ち、を仄香(ほのか)の様に漂わせた。他の信者の内に川辺というもう初老に近い女が居て、一度だけその列の中より歩み出て来て私と家族の間に居座り、始めは笑顔だったがその後急に真面目と成り、私に日頃の信仰について問うた。恐らく私のていたらくについて話したかった様子で私の口から出る〝日頃〟を思わせる言葉の一つ一つを紡ぎ合わせて形とし、私に眺めさせようと二人で会議の様にして話す体裁に持ち込んだ。自分のこれ迄の言動を棚に上げている様にも私からは見えたが、それでもそうした彼女の言動の辺りには彼女なりの信仰に纏わる苦労が在ったのだろうと又私は勝手に思い、話題にしなかった。彼女は流暢に喋るが、一つ一つの言葉は私に届かず宙をさ迷う形と成り、又その言葉の数々は周りに居る皆に見える形と成った。私は少々やり切れない思いをして佇んだが、その場の空気は空気でそれ以上嬉しい方向へ動く様子はなく、私は黙っていた。

(私は二度寝した為夢をはっきりと覚えていない)

 二階の会堂には洒落たシャンデリアの様な照明や、少々古く埃が溜まって日光を余りクリアに通さないステンドグラス、信者が快適にメッセージを聞く事が出来、その後の会合等でも色々使い道がある様にと工夫された角に飾りが付いている木製の長椅子等が、態良く在り、どれも形だけを成して居り、夢を見る事が出来る様な奥行きを感じさせず、そこでは私の前に神は現れなかった。在ったのは人間臭い泥沼の様な心をした俗世の巨人や小人であり、それ等の持つ心(オーラ)は、目の前の人間は良く見るが、その集団の内では独りで天を仰ぎ神と自分とが対峙する体裁を取るものではなかった。皆、二つの心を持っている様であり、一つは神の方向を向くもので、もう一つは人間の方向を向くもの、皆はそのもう一つの方をその場では大事にしていた。故に目の前に見えるものははっきりと人間であって、神を天空の雲の上の城へ押し込める形を採り、現実と夢の世界とをはっきり区別した上で人の輪を作り、その場では人の内実だけの評価をする。例えばその心がどこから来ているか、見ようとする者はなかった。詰り彼等の思考には限界があったのだ。会堂の空気は空気の入れ替え用にと少し開けたステンドグラスの窓からゆっくり漏れて行き、その明りが灯った教会を陰から支える人々を巷に作る事は容易く、又彼等の密かな糧にも成った。

 D大学で秋学期を迎えたのか、教壇で牛川独歩が持ち前の乏しい熱気と時折見せる急な静けさを以て面白可笑しく熱心を振るいながら恐らく国文科の授業で発表をして居り、寒風が教室の外を吹き抜けるのを小耳で聞きながら私は、教室内で自分に当てられた机と椅子に付き彼の発表を聞いていた。講義というよりも授業で、クラス全員が静かに黙って牛川が振るう熱弁を聞き、その牛川に全てを託している。教授は目を閉じたり開けたりして腕を組み、時折彼を真顔で見ながら大袈裟に耳を傾けたりと、臨時の熱心を以て拝聴している。牛川は国文科一年次の学生であった。

 牛川は始め、向かって黒板の右端で何やら問答、図解、草案、の様なものをしらじらかいて居たが、書きながら話す途中で、突然忘れていた大事に気付いた様に慌てて次は黒板の左端まで走って行き、今度はおよそ牛川の動作とは思えない程の手さばき足さばき口捌きを以てその忘れていた大事を書き始める。その書き始める大事はかなりの長文を思わせるもので、ここだけ唯一、課題として課されたコンテンツの中でも彼自身が真面目に試行錯誤した様な箇所と成っていた。しかし唯学生達は皆、何事もなかったかの様に聞いている。とりわけ誰かが質問する訳でもなく、自分の意見を言うのでもなく、そのうち校内放送でチャイムの代わりに誰かが「ハイ、授業はここで終わりですよ―」と言ってくれるのを暫く待っているかの様に、一線を越えないで居た。まるで覇気が無い様に見えたが、しかし男子学生女子学生共、一旦蓋を開ければそれぞれに自分達の思惑を雄弁・流暢に語ろうとする技量はそれでも在る様に見え、男子は逆光で影黒く映るがその彼の向こうには快晴の空を覗かせる窓が在り、その内の一つは風が入るように開けてあって、吹き込んだ〝夏の風〟は教科書とノートをパラパラめくり、その彼の功績(業績)が無言の内に知られる処と成って彼の学士の成功を称えている様に見える。〝一個男児書生と成りて学問に向かひ闊歩する事幾年月、熱弁、所業に謳歌を見知り、いよいよその命を費やすのは是又学問の為成り、….〟等の文句は彼を強くし、背筋を伸ばした文学少年の思惑が不動の青春を象りながらそこに在るのを私は見た。又女子学生はそこに華を添え、男と男性教授をその熱意と体の虜にする程の余った魅力を生かして〝私は私の道を…〟と一歩ずつ、牛歩の態で闊歩する。二人の真面目は確かにその時の私を魅了したのだが、何分、日頃の授業講義の光景に煩悩が祟ってか、それ等の二人は遠く離された一個の空間へと押しやられ、代わりに出て来た光り輝く日常が始めから在るものの様にして私の前で色めき立つ。

 私はなかなか自分の正体を掴めぬまま寒風の中に居た。まだ初秋なのに妙に肌寒く、体感は良いが心が寒い為、余計な寒さを感じて、その感覚から生れる思いは孤独を生んだ。あの栄子や家族、教会の存在は何だったのか、私がその時、あの空間に見た偽りの様な〝ていたらく〟は何だったのか、眠る前に読んだSの拙(つたな)い、作品にも成らない小咄(こばなし)に見た下らぬ悶絶が妙な形で功を奏したのか、等とりとめもない事を考えながらも、いや待て、文学は一人、神学も一人、世間に纏わる事件の数々も一人がやって除ける内容だ、その一つずつが重ね合わさって一つの物語を作る、一人ずつの問答、苦悩を馬鹿にしちゃいけない、等、翻り翻りしながら元ある道へ自分を戻す。

 そうしている中、いつも要所で常識を弁えないSから、夜中にも拘わらずに電話が入る。午前三時である。

S「すんません、僕あかんかと思ったんやけど、やっぱりいつもの癖で思い立ったらやらな気がすまん質で、つい電話しました。日本文学についての話やねんけど、いいですか?」

と要を得ない内容で、いつぞやその男が私に持ち込んで来た小説の内に登場する主人公のSからは想像も付かない様な物言いと言動だったが、

N「今、何時と思ってる、普通ならもう皆寝ている時間だぞ。それ程大事な話なのか?だったら明日にでもしてくれ。」

と少々冷たく突っ撥ねながらも、それでも話だけは聞いてやる、といった態で会話を続けた。

S「いやすんまへん。僕一年前に早稲田落ちてどうしようもなかったやろ?だから学歴に負けたらあかんとその年に入学して今居るこの文学部だけは自分のものにしよう思うてな、それで日々奔走してんねんけど、一杯創作文かいてもどもならへん。何をどうすれば早稲田文学に対抗出来るか見当がつかんねん。かいてもかいても全部琴絵との恋愛物語になるし、いや後から覗いてみたら、あれ、全部、琴絵への悪口憎音、て事に気付いたんや。気付いてしもたんや。それからというもの、短歌にしても、長編の小説にしても手につかへんようになってな…」

一転、三転する内容が話の中で展開されるが、夢の中故か私は上手くその男の心情を掴み出し、語り始める。

N「やっと君にも事の顛末が見えた様だね。君は一度、あの琴絵という女から離れてみたらいい。彼女は国文学科に配属された唯の一女だよ。いいかい?君のお嫁になる人でもなければ彼女になる人でもない、取って付けた形だけの肖像なんだ。君が近付くにはアテが外れた対象であって、それにあの人にはもう許嫁が居る。(その際は、本当に歴とした許嫁が居る様であり、彼女が以前講義の中で呟いた「私は子供産むのは所詮無理やけど…」の言葉を翻す程の良い男が、時折彼女がD大学で講義している日に仕事の帰りか休みの日を合せて、彼女の下を訪れていた。そして彼女が講義をし終えるのを待って、笑顔で小走りになりながら駆け寄る彼女を抱擁するかの様に温かい眼差しを以て彼は受け入れる。時折彼女は密かにその人の弁当を作って持参していた様で、丁度心理学部の舎が在るその裏手のベンチに二人で腰掛けて、陰の中で今日あった事や、今後の事、二人の結婚後の夢の話等をして、楽しんでいるのだ。これ等の一連の事を、Sは終ぞ全く知らなかった)君は彼女の幸せを壊すつもりかい?それと君の文学だが、あれは君、長編でも小説でもない。日記文学にも成らない唯の箇条書きだよ。でも君の短歌は時々春の光の様に良いんだから、その分野から伸ばしてみたらどうだ?きっと芽が出る。君相応の芽が出るだろう。」

S「……(暫く声が途切れて、呆然と立ち竦む)、そうやったんすか、知らなかった。でも!その間に僕が割り込むって事は出来ないスかねェ!?その相手の男よりももっと良い所見せて僕がその男よりも男として勝つ、文士として勝つ、学歴で勝つ!なんて事になれば、彼女も一転、天使の様に僕に振り向いてくれるのでは!?」

N「甘い!君はよく『勝つ』と言うが、何を以て勝つのかね。学歴というが彼は一高、詰り現代でいう東大理学部卒業だ。しかし彼はそんな事噯(おくび)にも出さない。君の様に露呈する事を嫌う。理学部だから彼の興味は文学にはなく、実益を兼ねる工業技術専門だ。今じゃ、ネット会社に勤め、IT革命なるものをこの界隈ででも本気で勝ち取る気らしい。奇遇にもITだが(この言葉は元祖イギリスのマルクス主義者ジョン・デスモンドから継承し、以前、早稲田理学生が流行らせたという噂がありここでもSと対抗する)文学を走り書きしている今のお前にそんな事が出来るか。(話している内にSの過去のていたらくと常識を逸した言動を思い出し、私も少々苛立っていた様子だった)彼女はそんな彼を好きになったのだ。愛したのだ。君は今、文学とやらだけに精進していれば良い。余計な色恋沙汰には君を今よりももっと奈落の底に落とす罠が仕掛けられて待っている。これで判らなければ君は彼女の誠意と仄かに生れた恋心までもを彼女と彼の内実を無視した上で蹂躙する事になり、犬畜生にも劣る存在に成る。人として在りたければ、人間のルールを守るべきだ。私も誰も彼も皆、そうして生きて来た。」

長々と喋ったが、それは一瞬の事の様だった。

S「(真顔でうつむいて、口は軽く開けられている。以前にかいた自分の短歌や、琴絵あての物語、日記、箇条書きを無造作にパラパラめくったり、飛ばしたりして、内から一枚のかいたものを拾い上げてじぃっと見入り、何か確信の様なものを見出した様に又喋り出す。)Nさん、文学の話をしましょう。琴絵さんの事は又後で、遠く後で考え始めます。

僕この前〝日月報新聞社〟という所に少し以前にかいた『紫小糸(むらさきこいと)の牡丹』という題の作品(もの)を持ち込んだのですが、〝単調過ぎる〟、〝主人公が一人遊びで躍動に華があり過ぎて人間味がない〟、〝もう少し地に足が着いて尚且つ人を魅了するのは書けんのかね〟、等と脅される様な形を以て全て突き返されました。内、その『紫小糸…』とは別に何本か短編をいつもの様に短歌を差し挟む形を採って作ったものもあったんですけど、内何部かは行った新聞社(さき)か帰り途中で失くして、残りの二~三本は〝短歌とこの話のストーリー(展開)が噛み合っていない。まるでそれぞれが確立してしまっている〟という理由で今手元にあります。でもどうしたら良いでしょうか。」

それでもSの持ち前の向こうっ気の強い、無鉄砲で無謀にも見える勢いは衰えない。

N「〝京日月間新聞社(きょうにちげっかんしんぶんしゃ《だった様に思う》)〟か。あそこは厳しいがその分ハイレベルで選ばれる作品(新人投稿の部に集まる作品)は八割方が何やらの賞を取っている。賞がその作品の価値では決してないが、見る目が確かな腕利きの編集者があそこには確かに居る。君は〝脅された〟や〝突っ返された〟とか言う感情論を述べているが、きちんと持て成され、丁重に説明された後で返されたんじゃないのか。唯、その時の〝返された(受け付けてくれなかった)〟というのが怒涛の如くいつもの様に君の心に押し寄せて被害妄想が君を包んだ、と。それでハァハァ息を荒立たしく急かして今、まるで新聞社に自分が急襲されたかの様に話している様に見えるんだが。そのままの結果を受け入れるべきだ。それが君に与えられた答に変わりがない。君はどうせそれでも持ち前の勢いを以てこの先に精進して行くのだろう。大きな牙を持って。文学にも。恋愛にも。」

S「(少々、かなり、むかっ腹を立てた様子であったが、言葉の内にそれ等の感情は表わさず平静を保ち、言葉に詰り詰り、して会話を続ける)僕ももっと精進しようと思います。Nさんも頑張って下さい。ですが、あの人(琴絵)を諦めるつもりはありません。必ず僕のものに出来るように(その辺りの土に落ちていた革の板・布の様なものを拾い自分の身体、頭に単純に付け始め、格好を付けようとする様だった)、……明日の僕を見ていて下さい。(遠くで、今は静かだが、きっと真上真下に来れば物凄い轟と地鳴りだという事を予測させる響きが、その辺りから聞こえ始めた)あの時、僕は自分の文学、文学に於ける手腕、知識、がNさんに勝つ、という様な事を言いましたが、…です。(有耶無耶で聞こえなかった)。でも、知識だけは僕が上だと思います。それは絶対変わりません。絶対変わりません。……」

最後には自分は勝つ、という様な事を謝りながらでも言って居た様子だが、どこかで「負けている」事をSは内心で気付いている様だった。勝ち負けのない規準(=基準)に敢えて勝ち負けを設定し悶絶しているその姿の行く末にはSの目指していた春の光はなく、Sが去った後の土の上に落ちていた。

N「ああ、知識は君のものだ。全部ひっくるめて君のものにしたら良い。唯、その知識も君が掴む事の出来ない雲(心)の内から出る事を君は覚えなければならない。」

空は灰色に成り始めゴロゴロとどこかで雷が鳴り響き、Sがずんずんと歩き去って向かうその先は、地平線と空とのスカイラインが接する暗黒の様な闇だった。君も又、俺の元から去って行くのか…、と私は暫く、いつまでも、白いランニングシャツの背中を丸めて一度も振り返らず牛歩して行くSの姿を、少々愛惜しく、それでも割り切らねば、という断固とした儚さを以て、見送っていた。


~雨音~二〇一二年十一月十二日(日)雨

大学の友人何人かと音楽サークルを作り(男女含む)内には結構仲の良い奴等も居り、ああやっぱり、やっと、このサークルが出来たかー、等と私は嬉しく思って居りY氏がいつもの通りリーダーの様子で場を仕切って居り、私は気心知れた奴が多かったので何とか上手くやってゆける、と思えながら嬉しかった。何か、今は講義で使って居ない空教室で集会をして居り、今後の事や部費の事、各パートの事、各楽器の事、特にドラムスの位置、又誰かやれる人が居るのか、誰がやるのか、について問答して居たのを覚えて居る。私はいつも通りに無責任に親友だったY・Tに口八丁手八丁で押しつけようとして居た。私達は何やかやと色々喋り教室の外へ出て、買い出しの様な唯の散歩の様な、とにかく外出しようと皆それぞれの思惑を胸に(中に用事で帰る者や皆と行動を共にしない者も居たかも知れないが)、始めは燦々照る中、次第に少しずつ曇ってゆく(とは言っても向こうの空はまだ明るい)中をずんずんずんずん歩いて行き、私はどこへ行くのか行き先を知らなかった。教室を出ると、何処にでも在る様な高校、又は大学での休み時間の様な和気藹藹としたムードが漂い、クラス毎に、開けられた教室の内に学生が駄弁って居り、その様子が私達には歩きながら見えるのであり、私はフンフンと何気に見て歩いて居た。その学生の内に一瞬だけ横顔が見え、後は後ろ姿(背中)を見せた、黒い流行りの様な服を着た徳永英明が学生の内に化けて居た。徳永は結構上手く化けられて居り、四~五人の友人のグループで輪を作りずっと(背を向けて)時々笑いながら喋って居る。私はそこでの自分の年齢を想いながら〝確かに自分も高いとは思うが徳永はもう五〇歳やぞ!?〟と半ば呆れ果てる様な物言いはするが、年輩が自分の大学という場所に居て私は嬉しかった筈であるが、なかなか自分と話が出来ない為か、少々徳永英明氏を勝手に恨めしく思えてしまった様子で、仕方がないからそのままそそくさと校舎を後にした。でも徳永なら持ち前の美量で上手く溶け入るだろうな等とやはり感心もして居た。何か駄菓子屋の様な場所に俺とY・TとY、他一~二人か女の子が居て、各自必要な物を買って出た。俺は小さい一口カツの様な駄菓子屋には良く有り勝ちな物を友人Y・Tと結託する様にして買い、Y・Tが背後で〝ソースをかけて食べると美味しかってんなァー〟等と昔の事を言うからつい私も釣られて、そこの主人である小母ちゃんに〝あ、ソースかけて、少しだけでいいよ〟とほくそ笑んで言った。ちゃんと、小声も聞き逃さないよと背後のY・Tに〝伝わったかな?〟と半ばやらしいかな等とも思いながら、嬉しがって居るかも知れないな、とも思えながら私は、唯、背後の気配に耳と気持ちを傾けて居た。結局、Y・Tがどう思って居たかは判らなかったが、私達四~五人(?)は外に出て、何か、何処かアメリカに在り勝ちなパブリック・スクールの様な(始めは判らなかったが)それとも記念公園の様な場所に来て居り、そこにちらほらとさっきのサークルのメンバーも集まって来て居る様だった。サークル紹介用の、サークルメンバー紹介用の、まるでプロがジャケット写真を撮る様なそんなお立ち台の様なセッティングが在り、〝でもあれじゃあ逆光で上手く顔が映らんなー〟とか〝こんなにお立ち台小さいの(狭いの)?これじゃあ、皆乗り切らないな〟とかそわそわペチャクチャ話しながら私達は、何か司会者が居て事を指揮してくれて居そうなその広場で、誰か他の(私達に似た様な)者と喋って居る。そう、そこには私達と同じ様なバンドを目指して来た様な輩達がわんさか集まって居り、同じく広告の為の写真撮影が目的だった様子である。メンバーが全員集まるかどうか(集まったかどうか)知らぬ内に物凄い轟音を立て空模様が荒れ始めた。ゴーーッと言って風が唸り始め、見る見る内に曇って行く。しかし又、少々向こうの空はぼんやり明るい所が在る。竜巻の様なものが知らぬ間に近付いて来て居り、私が余り好きではなかったメンバーの一人を呑み込みそのまま空高くまで攫って行った。彼はもうかなりの上空から体重と風の抵抗の弱まりから落下して、生きては居ないだろうと恐怖も在ったが思って居た。

次にリーダー格のYではなかった様に記憶するのだが、副リーダー格の様な奴が次々来る竜巻に呑まれた。その男はこの場所に居ては危ないからと、私達二人を誘導して、少し、体を二三歩程(微妙な距離程)上へ移させ、移した直後にそれ迄私達が元居たそこを大小の竜巻が通った。竜巻のクラスは比較的小さな一~二、三、位のものだったが芯が強い様で、呑まれたら終わりだ、と言っても良い位に吠えて居た。その副リーダーが、ヘトヘトに疲れたところを呑まれた。私は内心呑まれて飛ばされる事を期待した。何故なのかは覚えて居ない。案の定、飛ばされた。私とY・Tは何とか竜巻の隙を見て土塀の様なコンクリーで囲まれた場所に身を移し、難が過ぎるのを待った。そこへ着くまでに、シュキーン!シュキーン!と音を放ち光を放つ様にして、かまいたちの様な竜巻が形成されながら一本ずつ殆ど同じ道順を通って、さっきまで私達が居た場所の上を通ってゆくのが見える。している内に土塀から見える向こうの校舎のガラス窓が次第に強まる突風と竜巻の威力でまるで原爆で窓ガラスが割れるみたいにしてパリィン!!!と全壊し、その破片が大きな物に成ると、今丁度こちら(土塀)の方へ吹いて居る風に乗って飛んで来て、少々ダメージを与える様にして私達二人を土塀の中で襲うのだ。ここまでで、私は確実に三度、竜巻が本当に恐ろしい、と確信して居た。もうその竜巻で飛ばされて行った人達が何人か居る様子でその土塀の内から風下の方を見ると、恐らく飛ばされた人達であろう人々が整列してこちらを見て立って居る。少々ガヤガヤとして居る様子で在ったが、何か彼等の前に居る人の指示を聞いて居たみたいだった。その人々の内に確か柴田恭平の様な人も居た様に思う。それを見ながら私は〝自分も、もう飛ばされてあっちの人に成って楽に成ろうかな、それがいいかもね、…いやいやいかんあかん。あれは運が良かった人達なんであって、あそこへ行けるとは限らん。もう少しの辛抱や〟と自分に発破を掛ける様に言い聞かせ、早く竜巻が(この時ばかりは)弱まるのを祈った。

して居る内に救助隊が駆け付けて来てくれた。外を見れば成程、もうさっきまで雨まで降って居た荒れ模様は回復し、竜巻も一本も発生しない具合に収まって居る。〝やっぱりきっちりしてるな、こいつ等は。社会の組織が動く時だからきちんとお天気も把握されてる訳だ〟、私は自分達と社会の組織の一つでもあるレスキュー(救助隊)の在り方に少々の関心を覚え、リアルタイムで恐怖を覚える自分達と、囲いが在ってその中で見定めてから薄れた恐怖を覚えずとも見に行こうとする隊員達との間の格差の様なものを見、〝やっぱりか〟という気に成った。その辺りで目覚めた。外は〝ザァザァゴーー!!〟と酷い土砂降りの雨がずっと降って居る。この雨の所為でこんな夢を見たのかも知れないなんて思わされながらも、私が竜巻を見て居たシーンでの外界はもっと酷い雨(雨音)だったのだろうか、なんて期待もした。

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~一つの結末・夢おろし~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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