魔王城から徒歩10分。勇者を育てています
木種
Prologue
今日も城から徒歩十分、数匹の魔物を連れて森のなかのひらけた場所に出向く。
近くの集落から少年がひとりやってきた。
「おはようございます!」
「おはよう。リノンは今日も元気だな」
「うん! だって、ヒース兄さんとの特訓が毎日楽しみだから」
十歳の少年に二百年生きている俺がお兄さんと呼ばれるのはなんともむず痒い。偽装魔法で二十五歳に見えているから仕方のないことだとはいえ。
それはそれとして、もうこの習慣が始まって二週間が経つ。
元が細かったからリノンの体格には成長が顕著に現れ始めている。加えて魔物討伐の経験を日々積むことで戦士としての実力を着実に付けている。
このまま順調に育つことが出来れば俺の夢を叶えてくれる存在に近付くだろう。
「今日はその子たちと戦うの?」
リノンが指さす俺の後方にはウォルフとハント・ビーがいる。
「そうだ。今日からはこれまでのヒヨっこやシープたちと違って、戦闘に積極的な魔物を相手に戦闘の型を身体に慣らしていこう」
「そ、そうなんだ」
声はすこし震えていた。見知らぬ魔物への人見知りというわけではなかろう。
魔物のなかでも愛らしい容姿を持つこれまでの特訓相手と比較して、今日の二種が牙や針の危険を孕む要素を持っていることへの恐怖によるものだ。
「安心しな。こいつらも今までと同じで俺の言うことを聞くように躾けているから。リノンが剣を使って戦うように、こいつらも対抗手段として武器を持っているだけだ」
言葉だけでは足りない。頭を撫でて安心感を乗せる。
「う、うん。僕、頑張るよ!」
「その意気だ」
リノンは勇者の血族でも兵士の家系でもない、国から見捨てられた集落の唯一の男の子供だ。村の歴史を知らないにも関わらず強くなり温かい集落の皆を、なにより母親を守りたいと言ったその勇気と夢を諦めさせるわけにはいかない。
それに今回連れてきた魔物を倒せばリノンの使う武器本体の発揮する威力が高くなる。どういう理屈か、この世界の創造主ではないから全てを理解してはいないが、倒した魔物の魂から生命力を割合で奪い、武器が強化されていくみたいだ。
例えば剣の場合、非戦闘型の魔物であれば剣自体の耐久力、ウォルフやゴブリンなどの戦闘を好む魔物であれば切れ味が良くなるといった効果を得る。
ここは倒された魔物は魂のみが繋がりの森と呼ばれる異空間に向かい、生命力が尽きていなければループする世界。それくらいの違和感すら常識としてまかり通る。
余談だが同種の新しい身体を貰えるみたいだが記憶はリセットされず、過去の恐怖に囚われ続ける魔物もなかにはいる。
俺が魔物らを連れてきたのはリノンの経験値の糧とするため。当然こんなことが可能なのは俺だけだ。
なぜかって?
そんなの明白じゃないか。だって俺は――
「奴らを統べる魔王なのだから」
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