染み

主道 学

第1話

 今日もガタンコトンと、電車に揺られていた。

 通勤には、いつも余裕を持っている。


 なので、いつも朝は穏やかな気持ちだった。


「おや?」


 この電車の車両内にはトイレが設置されているのだが、そのトイレの壁には、小さな黄色い文字で「おまえは あんたは てめえは!」と落書きされていて、かなり気になった。


 最後にいくほど落書きは、乱暴になっていった。


「おっと、すみません」


 落書きを読むのに集中し過ぎたようだ。

 吊り革を掴む一人のサラリーマンが、電車に大きく揺られて座席にいる私の足を踏んづけてしまった。

 私は痛みをこらえて、そのサラリーマンを許してやった。

 いつも朝は気分は穏やかだからだ。

 電車の揺れは幸い緩やかになってきた。

 痛みを紛らわすために、車窓に目をやると、空からぽつぽつと小雨が降ってきていた。

 今日は傘を持ってきていないな。

 不運なことは、続く時がある。

 だが、私は今日も朝は気分は穏やかだった。


 こんな私でも、通勤途中は電車で約1時間くらい毎日揺られている。普通に暇なので、私は、仕事のことや会社の同僚たちのことを、ぼんやりと考えることにしていた。だが、この日は少し違っていた。


「おや?」


 さっきの落書きが気になった。

 また、トイレに書かれた落書きを見てみる。

 今度はよく見てみることにした。


「後ろ 後ろだ 後ろで ……」


 何故か書かれていた落書きの文字が違っていた。


 興味が湧いて、私はじっと落書きを見つめた。


 文字が変化した。


「トイレに トイレに 何かいる ……」


 

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