第74話 食堂で・・・

土崎

「勉さん、何を食べても良いのですか?」


講師

「土崎さんでしたっけ。もちろん何を召し上がっても構わないですよ。でも、出来ればバランスの良い食材をお勧めします。健康に気を使ったメニューも豊富に取り揃えていますので、ご自分できちんと考えて選んでください。」

「それと、皆さん聞いてください? 食事をする時にMルームのメンバー限定で毎日飲んで頂く物があるのですが、それは必ず飲み切って下さい。」


《注文方法》

 食堂の入り口付近にあるメニューモニターの中から自分の食べたい物を選んでOKを押すと、プラスチック性のコインが出て来た。そのコインを持ち席に着き商品が来るのを待っていると「エスコータ―FC」というCARRYロボが商品を運んで来た。持っていたコインをCARRYロボの口の中に入れると「アリガトウゴザイマシタ」と言って元の場所に戻って行った。運ばれたトレーの上には商品と注文していない見慣れないドリンクが一緒に乗っていた。そのドリンクには「DHAドリンク」と書いてあり、市場には出回っていない飲み物である。


土崎

「勉さんこれですか、さっき言っていた飲み物は? 食事中にこれを飲めば良いのですね。」


講師

「はいそうです。しかし、それを飲むば・・・・・・。」


土崎は先陣を切って「DHAドリンク」を勢い良く飲み出した。


土崎

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ・・・・クソまずいー・・・・・。何だこれはー!」


講師

「今、お伝えしようと思ったのに飲んでしまいましたね。このドリンクのお味は決して美味しいとは言えませんが、記憶力に対しては抜群の効力を発揮する飲み物ですので、食事の中間にお飲み頂く事をお勧めします。」

「食事の後に飲みますとゲップまでマズイです。あっ後味がよろしくありません。」


風海

「そんな、マズそうなドリンクは飲めたものでは無かろう!」

「わらわは、海の近くで育ったもんじゃから、やはり海の幸が入っておらんと口に合うか分からんぞ。新鮮な魚介類と海藻はメニューに無かったし、茶色いものばかりでは、たまらんなぁー。カレーは別じゃがな。いつかここのシェフに言ってやらんと、食べる物が限られてしまうから辛いのじゃー。」


小守

「お前は黙って食えー! バランスの良い物を食べないとダメだとさっき言われたばかりだろー。好き嫌いを言うんじゃない。出されたものは食べるのだー!」

「しかし、私は元々小柄だし小食だからこんなにいっぱい食べられないよー。誰か手伝って下さい。」


山竹

「小守さんがよかったらさ僕が手伝うよ。僕こんな体だから今ある量じゃ足りなくてさ。今日は緊張しててさ、あまり食べれれないけれど、もう少しなら食べられるからさ。」


小守

「山竹くん、あなたの食事の量は皆の3倍くらいはあるけど、それで食べられない方なわけ?」

「通常ならどんだけ食べるのよ。量を見てるだけで、私もどしそうだわ。」


山竹

「もったいないからさ、もどすなら僕が食べるよ。ははははは・・・。」


小守

「お前きしょっ・・・。」


しずく

「星川さんと天空さんは、ご出身は何処なのですか? 私達3人は山形県の田舎から上京したのですが、何分田舎者でして都会に慣れるまでに時間が掛かりそうです。」


利乃

「しずく、なっ何言ってんのよ。私はもう慣れたわよ。こう見えてジュジュ順応力高いのよ。あなたと一緒にしないで欲しいわ。」


宙治

「利乃ちゃん、動揺してかんじゃってますよ。はは。」


星川

「私とヤヨは香川県の同じ町内に住む幼馴染なんです。小さい時からいつも一緒で姉妹の様な関係で育ってきました。私達も四国から出た事の無い田舎者なので都会が苦手ですね。皆さんと馴染めるのか不安ですけど、頑張って早く友達になりたいです。」


天空

「そうだね、早く友達になってここの生活をエンジョイしたいっすな。特に男子と仲良くなって良い人見つけたらお付き合いしたいなぁ~。内緒だけど実は私がここへ来たのは、結婚相手を見つけに来たという別の目的もあんのよ。」


利乃(私達と同じ様な目的でここへ来ている奴もいるのね。ちょっと安心したわ。)


しずく

「ここでこうして話をして一緒に食事をしているのも全て『縁』だと思います。この縁が私を一回りも二回りも成長させてくれそうな気がします。皆さんの良い所をどんどん吸収して早く一人前の『サポーター』になれる様に頑張りたいと思っています。」


宙治

「勉さん。そう言えば食堂に来る前に小さい窓の部屋があってチラッとしか中は見えなかったけど、うち等がこれから学ぶMルームと同じ位の大きなモニターが設置されていました。あの部屋は何なのですか? うち等と同じ様な任務をしている部署もいくつかあるのですか?」


講師

「あの部屋に気が付きましたか。あの部屋は、これからあなた達が学ぼうとしているプロディガルのサポートをたった一人でこなしている、とても凄いお方の部屋になります。」

「あなた方にはまだ刺激が強すぎると思い、もう少し経ってからご紹介しようと考えていたのですが、どうしましょ。中に入り様子だけでも見させてもらいたいと言う方が多ければ、交渉だけはしてみますけど多数決で決めますか?」


夜見

「私は見たいですわ。どうせこれからサポートをどんどんこなして行く事になると思いますので、絶対に見ておいた方が良いに決まってますわ。」


「俺もそうに思うぜい。ベテランのやり方っちゅうもんを見てその技を盗む事が出来れば、一早くベテランの仲間入りが出来るって教わったぜい。」


村神

「あたしも見たいでありんす。一人前を目指すなら実戦を目で見てみるのが一番でありんす。」


講師

「そうですね。では、民主主義的に多数決で決めたいと思います。見てみたいと思う方は挙手をお願いします。」


《バッ。  全員が手を挙げた。》


講師

「ビッビックリです。まさか全員が同じ意見だとは思いませんでした。では、食事の後に本物の『カーム・サポーター』の仕事を見学させて頂けるのか、交渉して来ましょう。ただし、先程も言いましたがあなた方にはまだ刺激が強すぎると思っていますので、気持ちを整えておくように。」

「それでは皆さん、今手に持って隠そうとしている『DHAドリンク』を飲み干してくださいね。全員が飲むという条件も付けましょう。」


全員

「バレてたかぁー! じゃー皆で飲もう、せーの ゴク ゴク ゴク・・・。」

「#$%’&’()=~|’&%%$#”・・・・」



      — 交渉中 —


講師

「皆さん交渉が成立しました。しかし、本日は忙しいとの事で明日にしてくれと言われましたので、今日の所はMルームに戻りまた明日に出直しましょう。明日の同じ時間にもう一度聞いてみてからの見学になると思いますので宜しくお願いします。」


 そして、受講者達はMルームに戻り、午後の講義を受ける事となった。講義の内容は「物性に対する中和作用」を覚えその理由を理解することと、人間の心理状態の把握と症状へのサポートの仕方を学ぶこと。

 プロディガル達もその日の体調や気持ちの変動、不安、ハイ状態とロー状態を抱えながら戦闘へ向かう為、彼らの身体と精神の把握を察知する事も重要なのである。もはや、サポーターとはプロディガル達の主治医的な要素も担っているのだろう。


 この事を講師から聞きやる気の起きる者などいないであろう。人間は誰でも楽な方へと行きがちである。しかし、ここではその選択肢は無い。サポーターがプロディガルより大変かもしれないという所以はこう言う事であるのだろう。

 講師もあまり身の入らない受講者達を見ていて、かつては自分も同じ様な感じであったのだろうと苦笑いをしていた。


      — 2日目 —


 翌日もスッキリしない感じで講義を始めたが、受講者達の気持ちが入らず思った通りの進捗にならないまま昼食となった。


講師

「皆さん食事をしながら聞いてください。これから、例の部屋の見学をさせてもらえるのか再交渉をして来ます。食べ終わったら準備をして待っていて下さい。」


     — 再交渉の結果 —


講師

「皆さん交渉が成立しましたので、これから部屋に行きますが準備はよろしいですか? 絶対に大きな声を出したり、騒ぐ事の無い様に約束して下さい。彼女は神経を研ぎ澄ませながら任務を遂行していますので、決して質問をしたり声を掛ける事もしないで下さい。ただ、ただ静かに彼女のしている事を見ていて下さい。」

「では、中に入ります。」


プシュー。 全員が静かに音を立てる事も無く部屋の中に入っていった。

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