第2話 宇宙事故
その事故は宇宙船のペイロードの放出作業中に大型機械に挟まれるという、あってはならない事故であった。宇宙空間で宇宙スーツの破損を招く様な事故が起こった場合人間の体にはこれらの事が起こる。
1、酸欠。 2,体温の急速低下。 3,宇宙線による身体異常。 が考えられる。
このエリートもスーツが破れ出血もかなりあったが、逆に宇宙空間という事がプラスになり、即死にはならなかった。
それは、スーツが破れた事により酸素の吸入が出来なくなり、そこに急激な体温低下が起きて心肺が停止した事で、傷口からの出血が一時的に止まったからである。
そして、ほぼ凍結に近い状態に陥りまるで軽い瞬間冷凍の様な状態になっていたのだ。その事で、各部の細胞も即死滅を真逃れたのだ。
宇宙空間の温度はマイナス270℃と言われていて、水気があれば大抵のものはほぼ凍ってしまう。
宇宙防衛軍の医療チームは、この怪我では宇宙での治療は出来ないと判断し、至急地球の医療施設に応援要請を掛けた。瞬間冷凍状態になってはいるが、どの様に治療したら良いのか打つ手を考えていた。しかし、その間にも患者の生命の危機が刻一刻と迫りつつある中で一つの案が浮上した。
複数の医師
「もうあれを打つしか無いでしょう。用意しておいてください。」
それは、医師達全員の答えである「リセ」の投与であった。
このまま心肺が戻った場合、傷口からの出血や痛みにより「ショック死」も予想される中で「リセ」の使用が患者を救う一番の方法であると、その場所にいたベテランの医師達は全員口を揃えて言った。
本当は、宇宙事故でエリートを死なせるという痛ましい事はどうしても避けたかったのが事実であるのかもしれない。
そして、地球の医療施設に送られた患者の心肺が戻りつつある中「リセ」が投与された。この様に生死に関わる状態の患者にリセを投与する事がほとんどであり、それ以外の傷や怪我では使用されない様だ。
投与後は患者がどの様な夢を見ているのか? どの様な変化が起こるのか?
それがとても重要であるのだ。
リセを投与した後は、医院長と他のベテラン医師達は若い医師に任せ、手術室を後にした。そして、リセを投与して十五分程が過ぎた頃、CT画像を見ていた女医が驚き叫んだ。
「ヒェー・・・! 何ですかこれはー。かっ患者がー!」
その驚きに他の医師達は患者の元に駆け寄り患者に起こる変化を見ていると・・・。
何と患者の折れた骨が結合し始めたのだ。それは、次々に起こり始めた。切れていた神経は元通りに繋がってゆき、大きく開いていた傷口はみるみるふさがってゆくのだ。まるでCG映画を見ている様であった。
全身の傷口もふさがり、潰れていた臓器も元通りに戻り、出血も止まり輸血や手術をすることなく治療が終了した。
これを目の前で見ていた医師達も、リセの治療法に言葉を失っていた。
脈拍正常、血圧正常、瞳孔確認、呼吸も安定し後は意識の回復だけである。
リセを投与し「治癒」してから数十分が経過した時、患者の意識が戻った。
患者
「うわぁ~!俺はいったい・・・。えっここは何処ですか? 俺は何故ここに・・・?」
女医師①
「目が覚めましたか? あなたは宇宙で大型機械に挟まれ瀕死の状態でここに運ばれて来ましたが、手の施しようが有りませんでした。もうビックリです。無理って感じでした。」
患者はベッドから半身を起こし、辺りを見回していたが宇宙の作業場で自分の身に起きた出来事を思い出していた。すると一瞬顔が青ざめたが自分の体を見て信じられない様子であった。
女医師②
「でも、死んでしまう前で良かったです。直ぐに『リセ』という薬を投与した事で、一命を取り留めたのですから。どうやって患者の命を救うのか心配で、逆に私がドキドキとハラハラで死にそうでしたよ!」
患者
「何かすいません。お手数掛けてしまって・・・。でも、俺死にそうだったのですよね? 何故、こんなに元気なのでしょうか?」
女医師③
「それはですね・・・私は良く分からないので、ここにいる皆で説明しますね。」
「皆さん、患者さんが色々聞きたいそうですけど、お願いします。」
そして、女医達に一部始終の話を聞き理解出来ない部分が沢山有ったが、お礼を言ってまた、ベッドで休む事にした。
患者の身体に関しほぼ全てが正常値であったが、脳波に通常値より大きな乱れが生じているのを担当女医は気付いていたが、意識の戻った患者の様子を見て安心した事と、良く解からない事が多過ぎて、異常無しと記録した。
この様に、学校を卒業したばかりの「新人女医師」達にとっては、何が起こっているのかが理解出来ない事だらけであったが、良い勉強になった様だ。
数年前から行われているリセを使ったこの治療法は人類にとって、革新的な出来事であったのだ。
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