好きになるという事

清明

第1話

人を好きになるというのはどういう感情の事を言うのだろうか。


「それでね」

今日も口を開くとあの人がどうのこうの、こういう話をしただの、ふとした仕草にドキッとしただの、浮かれに浮かれまくった恋の話をしてくる。

正直うんざりしているのだけど、はにかむ笑顔がとても可愛くて、こういう子がモテるんだろうなぁと思う。

「聞いてる?」

聞いてるよ。しかしそれを私に聞かせてどうしたいんだろうか。

私はただウンウン良かったネーと頷くことしかできない。

彼女は今日あったハッピーな出来事を自分一人の心の内に留めておく事が出来ず、誰でも良いからこの喜びを共有したかったのだろう。

その哀れな生贄がたまたま近くにいた私だったというだけのこと。

ともかくまだまだ話が止まりそうにない彼女の唇を見ながら私は——


(美味しそうだな)


そう思うのだった。

彼女の唇は、薄紅色のぷっくりとした形をしており、あれを口に含み、甘噛みして感触を確かめたい。

時折見える舌も血色が良く、あれを舌に絡めるとどんな味がするのだろうか。

彼女の朱色に染まった頬はまさに桃のようで、優しく手触りを確認した後にがぶりと齧り付きたい。

あの喉に齧り付きたい。彼女の血はどんな味がするのだろう。

彼女の綺麗な形をしている乳房を舐めまわしたい。

彼女の腹に吸い付きたい。

彼女の秘部はどんな味をしているのだろう。

程よく脂肪と筋肉の付いた脚はとても食べ応えがありそうだ。

そして、

彼女のキラキラ光る眼を舐めることが出来たなら。


「聞いてる?」

聞いてるよ。


これは何の感情なのだろうか。

性欲に近いような気がするけど、美味しそうと思うのは確かなのだ。

ということは食欲?

いやでも決して本気で食べてみたい訳ではなく。

味は見てみたいけど。


「やっぱり私、好きなんだなーと思ったわけよ」

どうやら話が終わりそう。良かった。

「それでね」

いや、まだ続くようだ。

良かった。もう少し君の事を見ていたいと思っていたんだ。

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好きになるという事 清明 @kiyoaki2024

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