深夜、異世界帰りの美少女に遭遇。何だかビビッと来ました
ヨキリリのソラ
第一話 マジでどういうことだ?
「……………………う、ん?」
ザラザラとした感触。閉じた瞳を刺激する僅かな光に俺は意識を取り戻す。
どこだ、ここは。
疑問が声になるよりも先に俺はその問いの解に気付いた。
恐らく、今自分がいるのは学校の屋上。
しかも、警備員の目に触れることはまずない貯水槽の傍にある空きスペースではないか。
「あー、そういうことね」
明らかになった記憶を手繰ること数秒。
思い出したのは放課後、かなり眠たそうな調子で屋上にやって来た自分の姿だった。
しっかり寝過ごしてるね、これは。
「さて、どうするかなぁ」
ちなみに、携帯を確認すると恐ろしいことに時刻は深夜の一時を少し回ったくらいだった。
警備員か宿直の教員にでも相談して、帰らせてもらおうか。いや、そんな甘い考えは持たない方がいいな。
そもそも屋上の鍵が開いている前提で話を進めるのは少しだけ楽観的だし、仮に開いていたとしても校則で屋上への立ち寄りは禁止されていることを忘れちゃ駄目だ。
ということで、
「まずは、鍵のチェックと行きますか」
軽快なステップを踏みながら扉まで移動し、ドアノブをガチャリ。
何かの間違いで開いてくれ。頼むマジで。
――結果――
分かってはいたが、ビクともしなかった。
「そりゃ、そうでしょうね」
コンプラとか防犯意識が高まり続けてるこのご時世。深夜に屋上にカギの一つくらいは付けていて当たり前。
とでも言いたいのかな?
まぁ、普通屋上の鍵が開いてたら警備員が気付くかも、なんて所詮言い訳に過ぎない。こういう行動はとった側に責任があるだろうし、押し付けは良くない。
それよか、今考えるべきはここから脱出する方法だろう。
「こんなタイミングで起きなかったら、多朝になってるんだろうけど」
これが、起きちゃうんですよ。おかしいでしょ。
本当にどうしようか、仮にスマホでも弄りながら耐えるって言っても、途中でトイレに行きたくなったりしたら終わり。
無論、プライドさえ捨てればどうってことはないが。流石に、踏み越えないほうがいいラインはある。
「考えよう」
寝起きの頭で必死に脱出方法を思考してはみたが、ほんの一分でKO。
最終的に選んだ選択肢は現場待機となってしまった。
「あと、六時間ってとこか」
生徒が最速で登校してくる時間までざっとそれくらい。
「せっかくだし楽しも――――っ!」
夜の屋上を堪能しよう、そんな欲望に従い行動を起こそうとしたその時だった。
ガチャリと確かな音を立てて、閉じていた扉が開いたのだ。
「っ、マジか。開いちゃったよ…………………」
扉が開いたということは、誰かがこの屋上に足を踏み入れたということ。ただ、こんな時間に誰かが屋上に来るなど冷静に考えればおかしい。
「………………気になるかも」
正直、相手が警備員であれば普通に怒られるが、何となくそんな気がしない。
というより、そんな展開で終わらないことを期待している自分がいた。
こっそり、こっそり。心の中で何度も呟きながら、俺は入り口の死角からゆっくりと屋上を覗いた。
何とも驚いたものだ。
視線の先、屋上の中心に立っていたのは警備員ではない。
――制服の少女だった――
肩の辺りまで伸びた黒髪。端正でありながらもどこかあどけなさの残る顔立ちに華奢な身体。身長は大体僕より少し低いくらい。
正直に思ったことを言葉にすると、めっちゃ可愛い。
とまぁ、彼女に対する感想を思うだけ思ったところで一つ疑問。
どうしてこんな時間に女子生徒が屋上に来たのか。
もちろん誰か相手がいるなら、その後の展開も想像には難くないが、現状彼女は一人で、誰かを待っている素振りも一切ない。
「マジでどういうことだ?」
ノミもびっくりな小声で呟く。もう今の言葉が俺の本心そのものと言っても差し支えない気がする。本当に分からない。
こんなイレギュラーな事態、想像できた方がおかしいに決まっている。動くべきか、隠れっぱなしでいるべきか。
見たところ、融通が利かないタイプには見えないが、ここで登場したら逆に僕が怪しまれるよな。
「どうしたもんかね」
数秒ほどの激しい思考の末、俺の選択は現状維持で固まることとなった。彼女にバレないように、ひっそりと入り口の死角に身を潜める。
恐らく寝起きだったからかな、俺は思い付かなかった。
しばらくの沈黙の後、女子生徒はその場からジャンプするまでは、考えられる一つの可能性を無視していたのだ。
「ふぅ………………………………」
着地後、少女はフェンスの外、小さな足場で一息。まさか、自殺とかじゃないよな。だったら流石に止めないとまずいくないか。
「ちょっ!」
「そう言うのはやっぱり良くないよ」焦りと困惑から変な声が出そうになったその瞬間、この場を支配したのは別の音だった。
――キュイイイイインンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン――
激しい高音が屋上いっぱいに響く。例えるなら、虫歯を削る時のあれを音量マックスにしたような感じか。普段の僕なら間違いなく不快で仕方ないと思うだろう。
「………………はい?」
だが、今の僕なら話は別。目の前、ノイズにも近いその音以上に衝撃的な要素が存在していたからだ。
「ドッキリ、なのか?」
フェンスを越えた彼女の前、まるで待ち受けるように立っていたのは人の形をした何か別の生命体だった。
全身を深々とし体毛で覆い、鋭く発達した爪は見ただけでも身震いするほど恐ろしい存在感を放ち、尖りに尖った大きな牙は触れゆるもの全てをぶっ壊して粉々にしてしまいそう。
いくら二本足で大体の身体的特徴が俺たち人間と同じだからって、これは冗談がキツイ。
人じゃない、そんなの見ればすぐに分かった。ドッキリじゃない、ドッキリならこの禍々しい気配はどう説明するというのだろう。
さきほどの発言とは裏腹に俺はドッキリの可能性を選択肢から消していた。
「だって、これは」
「――悪魔――」
「えっ?」
いやいや、ちょっと待て。悪魔って………………冗談じゃない。
そんなファンタジックな話、ここは現実だぞ。あり得ない。
「こことは別の世界から、やって来た人ならざる異形。そして、私が責任をもって駆逐する相手です。私としたことが一般人を巻き込んでしまうなんて…………本当にごめんなさい」
ただ現在進行形でその人ならざる異形が目の前に屋上の先にいるんだよな。
あり得ない、そんな無機質な回答でこの場を否定していいのだろうか。否、言い訳がない。
「えっ、えっと」
これから、どうなるのだろう。ただ、それが気になる。深夜に屋上へとやって来た不思議な女子生徒、そしてその前に立つ人ならざる異形の怪物。間違いなく、何かが起こる。
そう思えば、不思議とこの場から逃げる気は起きなかった。
「大丈夫です。あなたは私が絶対守ります。この命に代えても………………」
言って、女子生徒は屋上から飛び降りる。普通の女の子であればきっと全力で止めただろう。だが、次のシーンを目の当たりにしてしまうと、話は変わってくる。
「魔力解放――原書の理と誓いに従い、我が望みに答え、力を示せ」
見たこともない光、まるで非現実的な魔法を紡ぐ詠唱のような文言。嫌な予感というべきか、背中を撫でる寒気。
「魔法式構築――――紡げ、オープン・マジック・レコード」
瞬間、幾千もの細光が女子生徒の手に集中する。
月の光に照らされて、何かが始まる予感が俺の背中を掠めた。
…………まじでどういうことだ?
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