第38話 魔王様のミッション

アースノートの例のアレは欠陥が見つかり封印した。

もう少し稼働させていたら、星を巻き込み大爆発する恐れがあったからだ。

そして時間は少しさかのぼる。


※※※※※


(新星歴4814年4月25日)


会議室は重苦しい沈黙に包まれていた。


この世界を創造した絶対的な存在。

それとほぼ同じものが無数にばら撒かれた。

しかもおそらく、時間とともに力を増していく。

悪夢に他ならない。

最強のカードである『ノアーナ』は使うことができない状況でだ。


「すぐに動きましょう。今なら被害は最小限で済みます」


アルテミリスは俺の目を感情のこもらない目で見つめてきた。


「急いだ方が良い。ノアーナ様、強すぎる」


エリスラーナも同調する。


「頼む。だがひとつ注文がある。殲滅ではなく、回収してほしい」

「完全に消し去れるなら構わない。だがおそらくそれは無理だ…これを使ってくれ」


俺は茜の持っていた『魔法石』をテーブルの上に置いた。


「茜ちゃん、ああレアナはさっき会ったな。今回の原因の転生者だ」

「彼女が持っていたもので俺の魔力のみを吸収して、どこかへ送る装置のようなものだ」


皆が驚愕の表情で息をのむ。


「心配いらない。もういじった。今は『想いの欠片』を吸収し、俺に送るよう改変した。概念をいじった。だからこれがあれば感知もできる。そう組み込んだ」


「………すごい…さすがノアーナ様」


ダラスリニアが感嘆の声を上げた。

ぬいぐるみの頭をなでる。


「アート、同じものがあと3つ欲しい。発明いけるか?」


アースノートは魔法石を恐る恐る手に取り、ぶつぶつとつぶやく。

グルグル伊達メガネが怪しく光る。


「うふふふふふふ♡共同作業!!ヒャッハーですわ♡ああ、なんて美しすぎる術式!クフフクフフフフ、ああん♡弾くなんてイケずですわ…うん…ウフフ」

「あ、あ、あーん♡…できました。ですわ♡」


ハアハアしながらアースノートはなぜか着ぐるみの中から、ホカホカした出来立ての魔法石を3つ取り出した。


グルグル伊達メガネがずり落ち、せっかくの美少女フェイスが見てはいけない表情になっていたが…


皆かなり引いた表情をしている。

俺もだ。


雰囲気が変わって反って良かったかもしれない。


※※※※※


「よし、班分けをして早速取り掛かってほしい」

「アートとアルテは待機だ。重要な仕事がある」

「はい」

「ハイですわ♡」


「アグはレアナと組んで探索・回収を。手に負えない場合は無理するな」

「お前らの方が大事だからな。最悪星を捨てたっていい。絶対に死ぬな。命令だ」

「っ!?…もう……わかりましたわ」

「はーいはーい、おいら頑張っちゃう。ノアーナ様やさしー」


「エリスとダニー、俺が思う最強と最適だ。大きな反応からあたってくれ」

「一番危険だ。大切なお前らにこんなことはさせたくない」

「だが…頼む……すまない」


「問題ない。帰ってきたら抱っこ」

「………がんばる…すき♡」


ダラスリニアは『クマのような』ぬいぐるみを抱きしめる。


「では頼む。良い報告期待しているぞ」

「俺は皆を信じる」


※※※※※


俺はアースノートに測定器の作成を依頼し、アルテミリスを伴い茜ちゃんのいる俺の隠れ家へと戻ってきた。


茜ちゃんはムニャムニャ寝言を言いながらよく眠っていた。


「ノアーナ様、彼女を滅ぼしますか?」


アルテミリスは恐ろしいことを無表情で問いかける。


「いや、俺の能力で彼女の心を投影する。それを真実か確認してほしい」


無邪気に眠っている茜ちゃんはどうやら飛ぶ時代を間違えたようだ。


彼女の中にいる俺は、今の俺じゃない。

未来の俺だ。


だが、なぜか今の俺とのつながりが濃い。

まだ会って1日も経過していないはずなのに、やや誤差はあるがあり得ないほど濃密な俺の色を宿している。


しかもおそらく本来の色もあり、混ざっていない。

あり得ない。


熟考する俺の横でアルテミリスは感情のこもらない目で茜ちゃんを見つめていた。


※※※※※


俺たちは彼女が転生する直前のことまでを調べさせてもらった。

茜ちゃんは『白』だった。

驚くほど真っ白だった。


存在値も30程度しかない。


本当にただの子どもレベルだ。

逆に保護してよかったと心から思った。


どんな人間でも記憶を自分の都合の良いように無意識に改変している。

事実に対し想うことにより昇華された真実は得てして欺瞞(ぎまん)を含む。

自分すら欺(あざむ)いていることがあるのだ。

そうとは気付かずに。


だがこの子は…あまりにも空っぽだった。


なぜこんなひどいことが許される?

地球には神などいないのだろうか。


「かわいそうな子。ノアーナ様。彼女を助けたい」


アルテミリスが感情のこもらない声で囁(ささや)いた。

驚いた…

こいつがこんな反応するなんて。


「それは酷いですよ。私にも感情はあります。表現が下手なだけですから」

「!?っ、すまない…ああ、何とかしてあげたいな」


彼女の中にあるもの…楽しかったもの

父親の愛・光喜お兄ちゃん・飴玉・本の物語…だけだ。


彼女の中にあるもの…つらかったもの

ママがいない・痛い・怖い・気持ち悪い・悲しい…だけだ。


17年間の感情が、この数時間の感情の半分にも満たないのだ。


※※※※※


神々の働きは見事だった。

アグアニードがちょっと無理をしたが、2か月ほどで殆どの反応の回収が完了した。

アースノートの暴走には肝を冷やしたが。


集まった『想いの欠片』は魔力と想いに分け、問題なく俺が吸収した。

もちろんモンスレアナの『安定』の力を借りたことは言うまでもない。


湧きたたない想いなど『ないに等しい』ことは太古からの経験で嫌というほど理解しているのだから。


回収がほぼ終わり皆の気が少し抜けたころ、最大にして最後の難関がファルスーノルン星に襲い掛かった。


大怪獣が出現した……えっ!?

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