極帝魔王の華麗なる遊戯

たらふくごん

第1話 佐山光喜の日常

(地球2023年4月28日)


繰り返すような代わり映えのない日々。

スマホの日付が変わるのを無感動に見つめ、終電だというのに多くの人が乗る電車に揺られていた。


駅の構内は不夜城のごとく煌々と明かりが灯っている。

まばらな人影に、世の中は寝静まりつつある午前0時過ぎだと、ため息交じりに実感する。


電車を降り改札を抜け薄暗くなっていく路地を通り、自宅アパートの最寄のコンビニへ吸い込まれるようにふらつく足取りでたどり着く。

駅からいつもの『くたびれたお姉さん』と『とんがっているお兄ちゃん』と一緒に。


…今日はいつもより一人多いな。

見るからに怪しい、黒ずくめの男も少し遅れて入ってきた。


ふとそんなことを思いながら、今日も今日とて遅い晩飯を買うためにコンビニの弁当コーナーを物色した。


一般的な時間に晩飯を食べたのは一体いつだったか…


……思い出せない。

察するに今の状況は相当おかしい事になっているのだろう。


…麻痺っていると言い換えたほうが良いのかもしれないが。


案の定、こんな時間だとロクな弁当も残っていない。

仕方なく唯一残っていた幕の内弁当に、インスタント味噌汁、お茶をカゴに入れ、レジへと向かった。


この数週間毎日こんな遅い時間に来るせいか、顔なじみになりつつある店員さんが「すみません。新しい弁当などは入荷が4時過ぎなんですよ」と教えてくれた。


前も聞いたよね。

はは…


会計を済ませレジ袋に購入した物を入れてもらい、アイコンタクトし会釈。

まあ残念ながら、相手は50歳過ぎの、髪の毛の寂しいおっさん店員ではあるが。


ややふらつきながらも空を見上げれば、かすかに、うっすらと星の瞬きが確認できる。

ああ、故郷にいたころに見上げた星空と比べれば、なんと趣のない夜空だろうか。


「そういや実家にも数年帰ってないなあ。何やってんだろうな俺は…」


最後に里帰りしたのはいつだったか。

やばい、思い出せん。

…姪っ子の七海ちゃんに「おじさん、ださーい」とか言われたっけ。


ああ。

最近茜ちゃんのお見舞いにも行けてないなあ。


みんな元気かなあ。

まあ便りがないのは元気な証拠っていうしなあ。

…姉ちゃんが交通事故で亡くなってもう20年以上か…はあ。


姉ちゃんごめん。

しばらく墓参り行けそうもないや。


はあっとため息一つついて、家路へと重い足を進めた。

ぶつぶつと独り言ちながら、ふらつく足取りで1Kのボロアパートの自宅のカギを開け、すっかり物置と化したテーブルの一角に品物の入ったレジ袋を投げ置き、スーツを脱ぎ捨て万年床になっている布団に倒れこんだ。


俺の後をつけていた、黒ずくめの男に気づかないまま。


「…明日は契約先とのコンペだったなあ。相手は佐々木部長か…はあ」


あの人苦手なんだよなあ、などぶつぶつ言いながらしばらく突っ伏した状態でいた。

しかし現実的に明日も…いや、もう今日か。


というかあと数時間で仕事に行かなくてはならず、嫌々、緩慢な動きで起き上がり、先ほど購入した弁当をレジ袋から取り出した。


「ああ、ポットのお湯が無くなってる…沸かすのも面倒だ。コイツだけ食うか…」


とりあえず味気のない弁当をペットボトルのお茶で無理やり流し込んだのだった。


※※※※※


俺、佐山光喜はアラフォーの社畜だ。


中肉中背でどこにでもいるような地味目な顔立ち。

学生時代の影響でやや人間不信になっているからか、同僚曰く「キョドりすぎ。ウケる!」


…そんな目つきらしい。


散髪に行く時間がなかなか取れず、ぼさぼさの髪をとりあえずワックスでごまかしつつ、よれよれのスーツと色あせた革靴が、一層疲労感を醸し出している。

たいした特徴もなく社交性も低いため職場では『人畜無害さん』などと呼ばれている。


所謂『ブラック企業』に勤めて早15年、会社の歯車として『生きたふり』をしているような、面白みのない日常を過ごしていた。


「ああっ、もうすぐ2時になる…一応仮眠だけでも取らないと」


俺は『アラームを5回ほど5分おきにセット』しているスマホを確認し、かろうじてつないでいた意識を手放し布団に倒れこんだ。


普段あまり鳴かない正面の邸宅の犬が、やけに煩いなと思いながら……

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