タカコちゃん
男子校出身のタケルは、
同窓会で久しぶりにあったコウジの話を白目になりそうになりながら聞いていた。
周りにいる連中も笑いをこらえている。
「だからぁ!いただろ!タカコちゃん!クラスに一人だけいた女子だよ!」
たまらずに吹き出した。
なぜならそのタカコとかいうのは、
当時、クラス全員でふざけて作った架空の女子だからだ。
あまりにも女子と関われないから、架空の理想の女子を作ろうって言って、
みんなの理想をかき集めたイマジナリーマドンナ。
セミロングの茶色の髪に、くりっとした目、抜群のスタイル。
まさに男子高校生の夢を詰め込んだような女の子。
タケル達は誰もいない教室で「タカコちゃんおはよう」とか言ったり、
告白ごっこしたりして遊んでいた。
このコウジって奴は当時から天然なくそ真面目で、周りがごっこでやっていたことを本気にしたのだろう。
タカコはいる、としつこいのでそろそろ突っ込もうとしたときだ。
「なんなんだよお前ら!これ、見ろよ!」
コウジは鞄からアルバムを取り出して、付箋が貼ってあるページを開いた。
そこにあったのはクラスの集合写真。
幼い顔で懐かしい制服に身を包んだ面々が映ってる。
「ははは。懐か、し。」
そう言いかけてその場にいた全員
言葉を飲んだ。
写真の中のコウジの肩辺りに
女がいる。
うねった黒い髪に、左右大きさが違う目をかっぴらいて、コウジの肩に手を置いてじっと睨むように顔を覗き込んでいる。
「なんだよ、これ。」
「タカコちゃんだよ。」
コウジは俯いている。
「お前らがタカコって言ったんじゃないか。だからこいつこんなにはっきり形になっちゃってさ。おかしいだろあんなのがきょうしつにいるの。あいつがなにをしようとしてるかしりもしないでおまえらはふざけるだけだった。だからさ、おれ、おれになっちゃったんだよな。だから、おれが、おれが…」
みんなコウジを見た。
バッと顔が上がる。
コウジは、笑っていた。
焦点の合わない目で。
そして、口を大きく開いて笑った。
「おれぇ!タカコと結婚すんだよねぇ!ははははははは。」
大声で言うと、コウジは周りの声を無視して笑い続けた。
異様な光景に絶句した彼らは、同窓会を早々にお開きにした。
コウジの家を知ってる人が一人だけいたので、その子に任せてタケル達は帰宅したわけだが…。
その日以降、コウジは行方知れずとなった。
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