怪の雑多煮 2

遊安

言うな


オカルト雑誌の編集者竹田と

新人ライターの梨本が

ファミレスで会話をしていた時のことだ。


梨本が口を開こうとした瞬間

店員の女が近づいてきて

「それ、言わないでもらえませんか。

 そうなってますよね、代々。

 なぜ言わないかも考えないで

 軽率な行動はやめてくださいよ。

 迷惑なんで。」

と低い声で言って立ち去った。


青ざめる梨本。


彼が竹田に話そうとしていたのは

とある県の村でまことしやかに噂されている

名前を言ってはいけない妖怪についてだった。


話してもいないことを言い当てられたようで

ぎょっとしてしまったが

仕事を得るのに必死な彼は

編集者が気分を悪くしていないかの方が気になり目をやると、妙なことに竹田は驚きもしないでいて、むしろ、慣れているといった風情で口を開いた。


「お前良かったな。注意されて。

 同じネタ仕入れた他の奴らは全員

 俺に話した翌日には大事故に遭って

 仕事辞めてるよ。」


梨本は返事をせずに、ただ心の中でこの話は

絶対に世には出さないと強く決意した。


彼らが店を出る時に、

あの注意をしてきた女と目があった。


彼女は店員に相応しい愛想の良い笑顔で

「ありがとうございました!」と言った。


その声は先ほど聞いた声と

全く違うものだった。


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