第17話 初めて稼いだお金です
「ううぅ、緊張したぁ・・・」
「シンデレラ」を終えた後・・・マユミはまだ「女神の酒樽亭」にいた。
・・・出来れば、そそくさと退場したいマユミだったが、すっかり盛り上がってしまった客達による質問攻めが始まったのだ。
「お嬢ちゃん、名前は?」
「ま、マユミです・・・」
「歳はいくつだい?」
「じゅ、13歳です・・・たぶん・・・」
「一緒にいるのは侯爵様の所のお嬢様だろ?まさか侯爵の隠し子?」
「い、いいえ、ナーデはお友達で・・・」
いかつい職人達に囲まれ、半ば怯えながらも、マユミは律儀に質問に答えていた。
「お前達やめないか!マユミ殿が困っているだろう」
「うっせえ騎士様は引っ込んでな!」
「俺たちはマユミちゃんとお話ししてるんだよ」
ゲオルグが止めに入るも、いかんせん数が多い・・・集団というのはなかなか厄介なものだ。
(まずい・・・このままでは・・・)
ゲオルグは背後からエレスナーデの怒りをひしひしと感じていた。
・・・もし彼女が魔法で暴れ出したら、この場の全員が無事では済まないだろう。
この街の治安を担う騎士の一人としては、そんな大参事は避けねばならない。
「いい加減にしないと、無事では済まんぞ!」
そう言って剣に手をかける・・・こうなったら一人二人痛い思いをしてもらう他はない・・・大参事になるよりは余程ましだ。
「あん?やるってか?」
「面白れぇ、騎士様にここのルールを教えてやろうじゃねぇか!」
いかにも喧嘩慣れしてそうな、体格のいい数名がゲオルグを囲む・・・
「はいはいそこまで、ルールって言うならアタシがここのルールだよ!文句はないよね?!
そこっ、マユミちゃんに触らない!」
リタがマユミに群がる男達を引き剥がしていく・・・いかな屈強な男達であってもこの店の「女神」にはかなわないのだ・・・
リタは男達にテーブルの一つを空けさせ、マユミ達をそこに案内した。
リタに誘われるままに席に着いたマユミだが、おかげでようやく一息つけそうだった。
「色々悪かったね・・・今日はアタシの奢りだ、好きな物を食べてっておくれよ」
「え・・・いいんですか?」
「ああ、アンタ達のおかげで今日はたんまりと稼がせてもらったからね・・・吟遊詩人の兄さん、アンタもこっちで一緒にどうだい?」
「それは俺にも奢ってくれるってことか?」
「アンタもたんまり儲けたろうに・・・まぁいいさ、奢るよ」
リタに呼ばれて席に着く吟遊詩人・・・彼もまた「賭け」で相当儲けた事をリタは知っているのだ。
「じゃあ何でも好きな物を頼んで・・・ああ、そうだ」
大事な事を一つ忘れていた・・・リタは未だ興奮冷めやらぬ客達の方を向き直る。
「アンタ達、これだけの見世物を見て、タダで帰ろうなんてのはいないよね?」
そう言って彼女が差し出したトレー・・・その上に客達が景気よく銅貨の山を築く・・・
いったい何枚あるのだろうか・・・見ただけでは数えきれない量だった。
それからしばらくして・・・
マユミ達が注文した料理と共に戻ってきたリタはマユミに「報酬」を差し出すのだった。
その額は、銀貨で3枚・・・
「こんなに貰っていいんですか?」
「もちろんさ、これがアンタの取り分だよ」
「でも食事まで奢ってもらったのに・・・」
「お前はそれだけの仕事をしたってことだ、客の評価は素直に受け取っておけ」
マユミはしばらく逡巡した後、銀貨の一枚を吟遊詩人に差し出した。
「これは?」
「あなたの演奏の分です、そしてこっちはナーデの分・・・あれだけの事が出来たのは私一人の力じゃない・・・だから3人で山分けってことで・・・」
「私は別に・・・」
「ダメ、あの服も台無しにしちゃったし、受け取ってくれないと私の気が済まないよ」
遠慮するエレスナーデだったが、マユミは頑として譲らなかった。
「ハハッ、つくづく面白いやつだな、お前本当に貴族なのか?」
「あ・・・ええと、実は・・・」
他の客には聞こえないように小さな声でマユミは事情を説明する。
・・・さすがに異世界人と言っても信じてもらえないと思ったので、自分はエレスナーデの友人で、屋敷で世話になっているけれども貴族ではなく、いつまでも世話になっているのは悪いのでいずれは自立したいと考えている旨を伝えた。
「なら吟遊詩人になったらどうだ?・・・本来ならあんまり他人に勧められるような仕事じゃないんだが、お前なら見込みがある」
「でも私は楽器が・・・」
「吟遊詩人なんてものには決まった形はない、人それぞれだ・・・楽器が使えなくても、お前はあの声だけで勝負出来ると思う」
「あの声?」
「話の途中で何度か声を変えて喋ってただろう?特にあの婆さんとかな・・・」
「確かに、あれには驚かされました・・・あれこそマユミ殿の才能がなせる技でしょう」
「そんな大げさだよ、ナーデの魔法の方がよっぽど・・・」
「いいえ、私も最初はびっくりしたもの・・・魔術って言われても信じたかも知れないわ」
冗談とは思えない真面目な顔で、エレスナーデが答える。
(こっちには声優とかいないからかな・・・それにしてもみんな買い被り過ぎだよ・・・)
褒められて悪い気はしないのだが、マユミが知るベテラン声優の技量には遠く及ばないのだ。
あの方々のレベルにこそ相応しい賛辞だ、自分はまだまだ努力しなければ・・・
「まぁいい、俺はまだしばらくこの街に滞在するつもりだから、お前がどうしてもって言うなら楽器の世話くらいはしてやるさ」
「ありがとうございます、吟遊詩人さん」
「ヴィーゲルだ、吟遊詩人さんってのは辞めてくれお譲ちゃん」
「はい、じゃあ私もマユミって呼んでください・・・それとヴィーゲルさん・・・昨日はごめんなさいっ」
・・・今までタイミングを逃してきたが、昨日のキャンセルはマユミの我儘によるものだ・・・ちゃんと謝らなければならない。
「昨日?」
「ほら、わざわざ侯爵様のお屋敷に来てもらったのにキャンセルになって・・・」
「別にキャンセルなんてされていないが・・・あの侯爵様は払いが良くて助かるな」
「え」
・・・せっかく呼んだのだからと、ちゃっかり一人で楽しんでいた侯爵であった。
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