第一章 きっかけは消しゴム

 火曜日、1限目の中国語講座、そこで僕と彼女はたまたま隣り合わせに座っていた。再履修組の寄せ集めの講義、嫌がらせのように朝一番の時間にあてられていた。

 講義の途中、急に隣の人がゴソゴソし始めた、何かを探しているのか、筆箱をひっくり返し、鞄を探っている、ひとしきり探ったあと、がっくりと項垂れた…なかったようだ。

 僕は黙って消しゴムを近づけた、探し物が消しゴムという保証はなかったが、だいたい講義中に探すものといえば消しゴムなどの筆記具に決まっている、まぁ、困っているのなら助けようという軽い気持ちだ。

 彼女は消しゴムに気づくと、チラッと僕の顔を見て、軽く頭を下げて消しゴムを手に取った。どうやら消しゴムで当たっていたようだ。僕も軽く頭を下げておいた、人間関係を円滑に進めるコツ、会釈である。

 講義が終わると、僕も次の講義に移動があったし、彼女も急いで教室を出ていった。彼女の後ろ姿を見ながら、

「消しゴム持ってかれた…。」

僕は呟いたが、返事はもちろんなかった…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る